特別編 拗らせ姫の農泊(おやゆび姫編)
これは、慌ただしく過ぎていったゴールデンウィーク中の合宿で、僕と3人のお姫様との間で起きた出来事を深堀りした物語。最後は、おやゆび姫こと飛鳥先輩との思い出を、振り返って締めようと思う。
なぜトリを飾るのが彼女なのか……それは彼女の名前に由来している訳でも、いつもの下ネタでオトそうと目論んでいる訳でもない――単に学年順なのであしからず。
ここまでの合宿で、僕は不思議に思っていた。他のメンバーは全員、僕のいる部屋や風呂場に突入してきたのに、最も想像に容易い飛鳥先輩だけは、一度も来ていない。まったく……少しだけ期待をしていた自分が恥ずかしくなる。だから僕は最終日の朝、キッチンにいた本人へ思い切って尋ねてみた。
「あの……飛鳥先輩」
「どうしたの?」
「なんで合宿中、こんなに大人しかったんですか?」
「ごめんなさい……もっと積極的に夜這いとかかけた方が良かった……?」
「いや、そうじゃないんですけど、理由が気になって……」
「ここへ来る前に本で読んだの、放置プレイが愛を深めるって……だから今回の合宿では私は一歩身を引いて、春人から私を求めてくれるように頑張ったつもりだったんだけど……やっぱり駄目だったかしら……?」
あぁなるほど……僕はまんまとその本に書いてあった通りに心を揺さぶられてしまった訳ですね。
「でもそれ、僕にバラさない方がよかったんじゃ……」
「そ、それもそうだけど、もし春人が不満だったのなら逆効果だもの……どうすればいい? まだ帰るまでに少し時間があるし、これからすぐに済ませちゃう?」
「何を済ませる気ですか……あ、朝食ですよね、朝食って言ってください!」
「なぜそんなに気が立っているの? ま、まさか……これが朝ダチ?」
「いつも通りの先輩で安心しました」
帰りの車内――疲れ切ったみんなはすぐに眠ってしまった。
車の座席順は運転手の叔母と助手席の夏樹ちゃん、中列には僕と飛鳥先輩が座り、後部座席には冬月さんという並びだった。僕もウトウトしてしまい、いつの間にか目を閉じてしまう。
――目が覚めると、僕の眼前には広大で豊満な2つの丘が広がっていた。視界の隅には、こちらを覗き込んで微笑みながら僕の頭をさすっている天使のような飛鳥先輩の顔が見えた。そして後頭部にはとても寝心地の良い低反発枕のような感触が。そう……僕は学年一の美少女に、膝枕をされていた。
「なっ……!?」
飛鳥さんは驚いて飛び起きようとした僕の肩を押さえて、小さく「しーっ」と、口元で人差し指を立てた。
「なに……してるんですか?」
僕が小声でそう尋ねると、飛鳥先輩も声量を合わせて答える。
「気持ちよさそうに寝ていたから、可愛くって……つい……」
「さすがに……恥ずかしいんですけど……」
「みんなまだ寝ているから、お願い、もう少しだけ……ね?」
「…………」
先輩の吐息がすぐ近くで感じられ、僕は思わず息をのんだ。これ以上抵抗できない……むしろこのまま息絶えても本望とすら思えてしまう。
「ねえ春人……」
「はい……」
「ほっぺ、触ってもいい……?」
「は、はい……」
何もかも刺激が強すぎて、僕にはもう飛鳥先輩に身を委ねる以外の選択肢が見つからない。先輩の細くしなやかな指が僕の頬を撫でると、時々、かすかに僕の唇をかすめ――その度、妙な気分に陥ってしまう。
「春人のほっぺ、柔らかくて気持ちいね……」
「先輩の手も、すべすべしてて気持ちいいです……」
「なんだか、もう一人弟ができたみたい……」
「先輩……僕は、アイツのことが嫌いです……」
「そっか……じゃあ……私のことは……?」
「……せ、先輩として、尊敬してます……」
「好きか嫌いか聞いたのに……?」
「そ、その二択なら、好き、ですけど……」
「よかった……私も好きよ……春人のこと……」
「揶揄わないでくださいよ……」
「本心よ……弟みたいじゃなくて、人として尊敬してる」
「あの……恥ずかしくて死にそうなんで、また眠ってもいいですか?」
「じゃあ着いたら起こすわね。お休み……春人」
「ありがとうございます……」
――僕はこうして、もうしばらくの間、人生史上最高の眠りを存分に堪能させていただいた。
あとがき
今回の特別編をもちまして第2章が終了となります。
ここまでのご愛読、誠にありがとうございました。
次回の投稿は箸休めとして、登場人物のプロフィールや制作裏話などを語らせていただきます。ご興味ある方はぜひそちらもお楽しみください。
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それでは、今後とも『堕ちデレ』をどうかよろしくお願いします。




