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学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで  作者: 野谷 海
第2章 おやゆび姫とねむり姫

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特別編 拗らせ姫の農泊(白雪姫編)




 これは、慌ただしく過ぎていったゴールデンウィーク中の合宿で、僕と3人のお姫様との間で起きた出来事を深堀りした物語。今回は、白雪姫こと冬月さんとの思い出を、振り返ってみることにする。



 冬月さんは包丁を持って現れたあの夜――農業が楽しかったと言った。彼女はそれが屈辱だとも言っていたけど、今思い返せば、あの時の表情は嘘じゃなかったんだと嬉しくなる。

 


 合宿初日、お昼過ぎに畑へ向かった僕たちは、手分けして作業に取り掛かった。僕は冬月さんがこっそり抜け出して1人で町へ戻ったりしないよう、目を離さない為にも一緒に行動していた。


「この野菜は何かしら?」


「えーと……これは玉ねぎだね。メモによると、葉っぱや茎が倒れてるのが収穫タイミングって書いてあるから、ここら辺にあるのは全部そろそろだよ」


「やってみてもいい? どうやって収穫するの?」


「茎の部分を持ってそのまま引き抜くらしいよ」


 冬月さんは屈んで玉ねぎの茎を掴むと、グッと力を込める。

「意外と……力がいるのね……ふんっ……」


 中々姿を現さない玉ねぎを力一杯に引き抜こうとする彼女の姿に、僕は「おおきなかぶ」のお話を思い出した。


「ハハ……手伝おっか?」


「なに笑ってるのよ……このくらい1人で出来るわ……」


「でも、すごい顔してるよ?」


 すると……玉ねぎがスポンと抜けて、反動で冬月さんは尻もちをついた。

「はぁ……はぁ……ほらね、楽勝よ」


 収穫した玉ねぎを息を切らしながらこれみよがしに見せつける、あどけない少女のような白雪姫。

 

「まだ一個でしょ? こんなに沢山あるんだから」


「あなたも見てないで早く手伝いなさいよ。それで、獲ったコレはどうすればいいの?」


「畑で天日干しにして水分を飛ばす必要があるみたいだから、土の上に横にして置いておこう」



 僕達はその後も協力して玉ねぎを収穫していき、ひと段落すると疲れ果ててその場で座り込んだ。

 

「どのくらいここで干すの?」


「2、3日だって」


「じゃあ、せっかく自分で収穫したものを、食べられないで終わっちゃうのね……」


「ひとつ食べてみる? 干すのはあくまで保存期間を延ばす為で、この時期の玉ねぎは水分が多くてサラダにしても美味しいって書いてあるし」


「勝手に食べていいの?」


「むしろ食べて感想聞かせてくれって」


「じゃあ……食べてみたいわ。せっかくなら私が最初に収穫したこの子を……」


 こうして休憩がてら一度家に戻り、冬月さんが最初に収穫した玉ねぎを、スライスしてポン酢をサッと垂らしただけの簡単なサラダを作ると、行儀が悪いかもしれないけどキッチンで立ったままそれを味わった。

 

「美味しい……」


「ホントだね……こんなシンプルで簡単なのにすごく美味しいや」


「農家の人ってすごいのね……思っていたよりも力仕事だし、天候なんかにも左右される仕事だから大変そう」


「でも、こうやって美味しく食べてくれる人の顔を見たら、その苦労も吹っ飛んじゃうんじゃないかな……」


 僕は、冬月さんを見て、純粋にそう思った。


「そう考えたら、野菜と違って花を育てるのって何が楽しいの?」


「……確かに、食べ物と違って人間が生きる上で無くてはならないものではないかもしれないけど……理屈じゃない気がする。花ってさ、自然が生み出した芸術なんだ。絵画や音楽、文学とかの人が生み出す芸術とは違って、誰が手を加えなくても、ありのままで美しいし、人に感動を与えられる。それってすごいことだと思わない?」


「そうかもしれないわね……」


「だから僕は、その花がありのままでいられる場所を作ってあげたいんだ」


「じゃあやっぱり、花守君にとって私は、悪魔のような存在ね……」


 彼女は思い悩むように俯いていた。


「冬月さん、玉ねぎにも花言葉があるの知ってる?」


「さあ、知らないわ」


「それは……『不死』だよ。僕も冬月さんも、これを食べたからには、もう死ねないね」


「そんなこと言ったら、この世の人間はほとんど誰も死ねないじゃない」


 いつぶりだろう――白雪姫は、笑っていた。


 この時は言わなかったけれど、玉ねぎにはもうひとつ花言葉がある。それは――永遠。彼女のこんな笑顔をずっと、見ていたいと思った。



 

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