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転生病棟  作者: 位名月
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何の意味もない出会い

 「ステータスオープン」


 男は何の意味もない言葉を虚空に向かって投げやりに吐き出した。何の意味もないとわかっていても、それしか縋るものがなかったのだ。自分の人生をすべて奪っていった、少し前の世代までは空想の産物でしかなかった転生なんてものしか。


 自然環境を再現したガラス張りのドームの中に、男を害する物は一つも存在しない。ガラスの向こう側に見える景色も、世界のどこかの空を映し出すディスプレイでしかない。適当な木の枝を折ろうとしても、それがホログラムであることを証明するように光が散逸するだけだった。


 どこまでも男が死ぬ可能性を排除したこの空間は、人呼んで転生病棟。転生が空想の産物ではなくなった時代で、転生前の転生者の人権を守りつつ転生後の世界への悪影響を最小化し、あわよくば転生を防ぐために作られた隔離病棟だった。


 男はまさに今日、その転生病棟に収容されたのだ。


 科学が発展しきった後に科学によって裏付けられたことで世間にはびこったオカルトまがいの技術による未来予測では、男は近いうちに何らかの理由により死亡し、とある世界を破壊しつくすらしい。


 完全に外の世界と隔離された空間も、危険を徹底的に排除したのも、すべて男の危険性が排除されるまで男が死亡しないようにするための措置だった。


 「気が狂いそうだな」


 「同感だね」


 男一人しかいないはずの空間で帰ってきたのは、半笑いの女性の声だった。


 驚いた男が声の方向に目を向けると、男よりも少し年上に見える女性が某ハンバーガーチェーンのカップ片手に男の近くに立っていた。


 とっさのことに男が何も言えないでいると、その女性はにやにや笑いを顔に貼り付けたままで男に近づいて足元から頭のてっぺんまでじろじろと観察した後にジュースを一口飲み、口を開く。


 「こんな場所に人が来たのは久々だ。今日来た人かな?」


 なんと返したものか、と男は悩みつつ改めて女性の姿を確認する。女性は男と同じ一目で入院している患者だとわかる薄水色の簡素な服を着ており、容姿や雰囲気で受ける健康的な印象とその服装にアンバランスさを感じてしまう。


 「確かに今日ここに入れられることになったが、あんたは長いのか?」


 「おっと、自己紹介もなしにすまないね。こんな場所に長くいると人とのまともなコミュニケーションを忘れてしまってよくないね」


 男に笑顔でそう返した女性はズズ、とストローを吸い、いつの間にか近づいてきていた角のないロボットにカップを預けた後に改めて口を開く。


 「はじめまして、だね?私は三年前から303に入院しているカンザキというものだ」


 三年か。男はその言葉を聞いて真っ先に思った。自分もこれから、なんて考えが頭によぎるが、人とのコミュニケーションにおける最低限の礼節が男の口を動かす。


 「…はじめまして、だな。今日から502に入ることになったアズマだ」


 カンザキと名乗った女性は、自分に刻みつけるようにアズマという名前を復唱し笑顔でうなずく。


 「アズマ君だね、覚えたよ。私たちは細かい理由は違えど同じ病気と戦う同志なわけだ。これからよろしく頼むよ」


 「あぁ、そうだな。俺もてっきり人間との接触はもう許されないのかと思っていたからな。たまに見かけたら話し相手になってくれるとうれしいよ」


 女性とは真逆に表情に乏しい男だったが、内心では握手の一つでも交わしたい気持だった。しかしそれが許される環境ではないことは二人ともわかっているから手を差し伸ばすことはない。


 なぜならここは転生病棟。あらゆる患者に対してあらゆる死の危険から守り、実態は人権という言葉が一番遠い場所。こうして患者同士の交流が許されていることが奇跡といってもいいほどの場所なのだ。


 「さて、自己紹介も終わったところで私から一つ提案があるのだけど」


 「なんだ?残念ながら俺にはこの環境を変えられるような特別な力は何もないぞ」


 「そりゃあそうだろう。そんな力があったら指先一つすら自由も…そんなことはいいんだ」


 「…?」


 何やら不穏な言葉を飲み込んだカンザキに疑問を持ちつつも、既に非現実的な状況に身をおいているアズマはそういうこともあるのかと一人で納得する。そんなアズマを捨て置き、カンザキは言葉を続ける。


 「本当にちょっとした提案だよ。せっかくの限られた自由時間にただ話すのもつまらないだろう?お互いに何かテーマを持ち寄って話さないかい?」


 「テーマ?」


 おうむ返しに聞き返すアズマに、カンザキはその顔の笑みを深めてうなずく。


 「そう、テーマ。今回は初回だから、私のテッパンテーマを話そうか」


 アズマの返事も待たずにカンザキは底抜けに楽しそうに、アズマの周りでステップを踏むように歩き回りながら話し続ける。まるでこれまで何人にも同じ話をしてきたように。いや、テッパンというからには実際にそうしてきたのかもしれない。そんなアズマの考えを置き去りにするように、慣れたように。或いはダレたように、カンザキは続ける。


 「お互いの入院理由を考察しよう!」


気が向いたら更新していきます。

ストーリーはあったりなかったりします。

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