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6「私は小説を読むのが好きで、それで本をいつも読んでいたら、文芸部に誘ってくれたから」

「ところで、文芸部の人を呼び出したわけだけど、その中に犯人がいると思っているのか?」


 部室に戻るなり、さっき職員室でノートを撮影した俺のスマホをひったくって、椅子に座って順番に眺めている六車に俺は言った。


「さあどうだろう。でも、話を聞いてみないとわからないね」


 割と常識的な反応をした六車に、俺も特に突っ込みが入れられず、しばらく沈黙の時間が流れる。

 その静寂を破って、コンコン。ノックの音がした。


「どうぞ、入ってください」俺が答えた。


 がらっと部室の扉が開く。

「こんにちは、・・・あの」

 入ってきたのは、眼鏡をかけたセミロングの、文学少女と言った感じの女の子だった。


「1年3組の小林と言います」

 手には学校指定の真新しい青いビニール製のバッグを持っていて、そのバッグの端からは文庫本がのぞいている。

 俺が立ち上がって俺達の向かいの席を勧めると、小林さんはおずおずと椅子に座った。


「わざわざ来てくれてありがとう。いくつか質問をさせてもらいたいのだが…まず、君は何で文芸部に入ったんだい?」いきなり切り出す六車。


「ええと、私は、小説を読むのが好きで、それで本をいつも読んでいたら、同じクラスの岡本さんが文芸部に誘ってくれたから」


「岡本さんとは仲がいいの?」


「はい。ええと、色々話に乗ってくれるし、友達です」


「小説が好きだと言ったね。どんな小説を読むの?恋愛小説?推理小説?それとも・・・」


「えっと、あの・・・あの!」

矢継ぎ早の六車の質問に小林さんが口を挟む。


「何か?」


「今日私は、事件のことでよばれたんですよね?部のノートが切られた事件の」


「そうだけど」


「なんで、事件と関係ないことを聞くんですか?」


ごもっともだ。

六車が事件に関係ない個人的興味で質問するとは思えないから何か意図があるのだろうが、聞かれている側からしたらたまったものではないだろう。


「いや、すまないね。でも関係があるのさ」と六車。


「それはどういう」


「事件で切られたノートには、文芸部の皆が順番に文章を執筆していたと聞いたんでね。

 書かれていた内容が分かれば手掛かりになるかと思ったんだ。君の場合は小説を読むのが好きだから、感想文を書いていたのかな?」


「ノートの内容を文芸部以外の人には話したことはないですし、その、あまり…」


「別に詳しく聞きたいわけじゃなくて、大体でいいのだけれど」


「ええと…最近読んだ小説の感想文と、後は…詩」


「詩?」


「私、9月の途中から文芸部に入ってまだ1ヶ月くらいなんですが、入部してから岡本さんに勧められて詩を書き始めて…誰にも言わないでくださいよ」


「わかった。じゃあ、話を変えるが、君はこの事件をどう考えているんだい?」


 小林さんは少し考えてから、今までとは違いかなり強い語気ではっきりと言った。


「前から部長に嫌がらせしてる奴がやったに決まってると思います」


「『前から』、というと・・・?」六車がピクリと眉を動かす。


「部長から聞いていないんですか?」


「多分、その辺を聞く前に部長が用事で行ってしまってね」


「部長は、少し前からおかしな男に付きまとわれているみたいなんです。私が入部する前の話なので聞いた話ですが、どうも部長に振られた腹いせみたいなんですけど。

それで、以前も何回か文芸部のロッカーに変なものが入っているとか、いたずらがされたこともあったそうなんです。

だから、そいつが今回もやったに決まってます」


 怒りのこもったはっきりした口調。よほど確信しているのだろうか。


「その男の名前はわかる?」


「2年の吉川先輩。なんか校外の怖い人とつるんだりしているみたいで・・・」


 吉川か。名前だけは聞いたことがある。授業をサボったり下の学年の生徒を脅したりと教師も手を焼いているらしい。


「でも、君たちの部のロッカーには鍵がかかっているよね。部長によればロッカーのカギを持っているのは君たち文芸部だけだというけど」


「あいつ…吉川先輩は、鍵を持っているかもしれないと思います」


「ほう。どうやって?」


「私が入部する前に、文芸部の鍵がなくなる事件があったみたいで…詳しくはほかの部員か部長に聞いてみてください」


「わかった。…ちなみに、君は今鍵を持っているの?」


「いえ、私は最近入部したので、もう鍵のスペアがなかったみたいです。どうも鍵屋さんでもスペアが作れないらしくて」


「それから、話は変わるけど、実は、我々に探偵部に脅迫状が届いているんだ。それについて…」

と六車が言いかけたが、

「それって今回の件と関係あります?」

すかさず小林さんが口をはさんだ。


「あるかはわからない」と六車。

確かにそうだ。文芸部のメンバーに疑いをかけるには証拠がなさすぎる。


「関係ないなら、あの、もう…事件の話はもう終わりですか?それなら私…」

席を立とうとする小林さん。


「ちょっと…」

と俺が言いかけたが、六車が俺を制した。


「ありがとう。時間を取らせて済まなかった。最後に一つだけ聞きたいのだが」


「なんですか?」

もう扉に手を掛けようとしていた小林さんが振り返る。


「君は、右手の人差し指に絆創膏をつけているね。それはいつ怪我したもの?」


「ああ、これですか?先週授業中に紙で指を切ってしまっただけです」


「分かった。どうもありがとう。そうしたら、別の人を呼んできてくれないかな」


「わかりました、失礼します」

いって、小林さんは扉を閉めて出て行った。

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