3 「文芸部で部活を始めようとしたら、部のロッカーが荒らされていたんです」
「なるほど…それで相談というのは?」
俺の向かいに座った高橋先輩に俺の横から六車が聞く。いつものようにアームチェアに深く腰掛けたまま。…だがよく見ると、奴の手は椅子のひじ掛けを握っていた。
さっきの恋愛相談で懲りたのか、事件への期待を隠しながら、身を乗り出さずに努めて冷静に話そうとしているのが分かって、少しほほえましい。
「はい。今日、文芸部で部活を始めようとしたら、部のロッカーが荒らされていたんです」
「つまり部室に侵入されたということ?」
「その、文芸部は正確には部活ではなくて同好会なので、部室はないんです。
活動は予備教室でやっているんですが、その部屋のロッカーの一つを文芸部の備品入れとして使わせてもらっています」
「なるほど」
「ところが、今日部活のために教室に行って、私がロッカーを開けてみたところ、中に入っている備品のノートにいたずらがされていたんです」
「ノートというのは?」興味をひかれたのか身を乗り出す六車。
「文芸部の日誌のようなもので…それが、めちゃくちゃに切られたような状態で」
「ほう。ちなみに、鍵はかかっていたのですか」
「ロッカーには鍵がかかっていました。部員は一人を除いて鍵を持っています」
「そうすると、内部犯行ということになるのかな」
「でも正直、そんなことをする動機は思いつかないんです」
「ふーむ、興味深いね…」
言いながら、六車が深刻な目をして、考え込むように口元に手を当てる。
だが、さっきから横で見ていた俺には、その口元がわずかに緩んでいるのが見て取れた。
こいつ、事件が来たことに喜びが隠せてないぞ。
「部員以外で、こういうことをしそうな人はいる?」と六車。
「そうですね、心当たりがないわけではないですが・・・それよりも、まず、現場を見てもらいたいです」
「そうしよう。じゃあワトソン、行こうか」