結婚式
今日は月曜、月曜真っ黒シリーズですが……じんわり黒い感じです( *´艸`)
榊は榊医院の一人息子で東高時代の友達だ。
とは言っても“陰キャ”だったオレに榊の方から声を掛けて来た。
クラスは別だったのに……
なぜ声を掛けられたかと言うと、1年の時は学年トップの座をオレと亀井さんと榊の3人で争っていたからだ。
2年になって文系理系に分かれてからはアイツとの争いは実質無くなってしまったのだが、友情?の方は濃くなった。
アイツの通う予備校の自習室へコッソリ潜り込んで机を並べたりもしたが、そのうちにオレは勉強そのものに余り価値を見出せなくなってしまって行った。
榊はそんなオレの“世話を焼いて”くれて……そのおかげでオレはそこそこの成績を維持する事ができたのだから、ヤツには感謝をしている。
努力を続けた榊は県立医科大へ進み医者になった。いずれ親の跡を継ぐのだろう。
一方、オレはしがねえサラリーマン。
今も“追い回し”に毛が生えた位のレベルで……年がら年中走り回っている。
ヤツの事などすっかり忘れていたのに……ある日、オレの部屋のポストに白い角封筒が届いていた。
ひっくり返して見ると差出人は『榊 敏郎』と『佐藤 美咲』の連名になっていて、オレは少なからず驚いた。
「美咲と結婚するのか??」
美咲は……高校のほぼ三年間、同じ屋根の下に居た同い年の“元義妹”で……オレが密かに思い続けていた人だ。
オレと美咲は同じ高校へ通ってはいたが……学校では義兄義妹の関係だと言う事は積極的には言わなかった。
でも、おそらくは榊は知っていたのだと思う。
オレ達の両親が三年ほど事実婚の間柄で……その後、別れた事も。
ヤツにそれ以上の事情を美咲は告白しているのだろうか?……
もし美咲が……自分の“寝グセ”についても白状しているのであれば、アノ事も告白はしているだろう。
でもそれは……
多分、無い。
これらを鑑みると、彼らがオレに結婚式の招待状を寄こした意味は??
オレは角封筒をテーブルに置きっぱなしにして何日か逡巡した後、出席に丸を付けた。
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「先生は何科ですか?」と隣に座っている招待客に訊かれ
「いえ、自分は榊さんの高校時代の友人で“部外者”です」と答えると、榊の同僚らしいその男はスッ!と離れて反対側の招待客と歓談を始めた。
「多分もう無いだろうが、有っても医者の結婚式には二度と出まい!」と思いながら“雛壇”に目をやると……少しばかり髪が寂しくなった榊と……瞳や唇や豪奢なウエディングドレスの胸元から色香が零れ落ちている美咲が、次々と訪れる招待客と歓談している。
オレはその“大名行列”に参列もしないし、彼らもこちらを一瞥もしない。
きっと、式が終わって帰り際にひと言ふた言会話するだけなのだろう。
「そう言えば……」と新婦側の末席に目をやると場違いな雰囲気の男性が手酌でビールを飲っていて、それがまるっとオレ自身を眺めている様に思える。
きっとあれが美咲の実父なのだろう。
でも美咲の母でもある志乃さんはいったいどこへ?……
オレは志乃さんを探す事を言い訳にしてナプキンを椅子の上に置き、席を立った。
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志乃さんは受付を担当してくれた男女にお礼の言葉を添えてポチ袋を渡していた。
「親とはこういう事もするのか?」などと思いながら眺めていると、志乃さんはオレに気が付いた様で微笑みを湛えてこちらへやって来た。
「洋輔くん!久しぶり!……あんまり元気が無さそうね」
「いや、普通ですよ。オレが昔からこうなのは知ってるでしょ?!」
「そうねえ~まあ、三年前はもっと酷かったかもね」
「……あの時は散々志乃さんにご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
「私はちっとも迷惑だなんて思って無いよ。笑われるかもだけど……心の中の秘密の日記に閉じ込めた大切な思い出だから」
「オレはてっきり痛い思い出だと……」
「洋輔くんはそうなの?!」
「オレは……今でも志乃さんにはドキドキしますよ」
「ふふ、少しは言葉が出る様になったのね。カノジョでもできたのなら……抱きしめた甲斐があったかな?」
「そんなの居ませんよ!」
「まだ『オレは美咲が好きなんだ!』なんて言わないでね」
「言う訳ないじゃないですか! オレは結婚式を穢しに来たんじゃないですよ」
こう言うと志乃さんはクスクスと笑った。
「ゴメンね!私も娘の幸せを願う母親だし……美咲がずっとブレ続けたのは私のせいかもしれないから……」
「そんな事はないですよ」
「そうかしら。現にこの式場にも私を介して“兄弟”になった男が三人居るから」
「えっ?!」
「一人はキミだし、もう一人は分かるよね。私の隣でずっとビールをかっ食らってるヤツ!」
「それは分かりましたが、あとの一人って?!」
「そのオトコは私達のテーブルの反対側で偉そうに座ってるわ。あなたのお父さんとはタイプは違うけど……オンナの扱いは似てるかもね」
その言葉の意味に動揺しかけたオレを見て、志乃さんは唇に人差し指を当ててウィンクした。
「私の性はこの手のオトコに惹かれる事なんだろうね。でもね!あなたは他のオトコ達とは違うの!! だから!! そうねえ……私と美咲、どっちが好き? 別に答えなくてもいいけど……」
こんな事を言われて……オレは結婚式に出席した事を断腸の思いで後悔した。
オレにとって女とは……伏魔殿そのものだ!!
だって今も!! 志乃さんはまるで少女の様にオレに小首を傾げてみせる。
「分かりません!! オレの中は!!……今、嫉妬がいくつも渦巻いていてバラバラに引きちぎられそうだから!!」
「それを乗り越えてオトコになるものなのよ」
「そんなもん!なりたくもないですよ!」
「いいえ!なるのよ!!」
そう言いながら志乃さんはオレの白いネクタイに両手を滑らせキュッ!と締め直した。
「あなたの真実は私なの。だって私は永遠にあなただけのものなれるのだから」
オレは……声が……息ができない!!
「あなた、二次会には出るの?」
志乃さんの潤んだ瞳に晒されてオレはようやく言葉を吐き出す。
「いえ、明日、早朝からクルマで出張なんです。だから今日はもう……」
「じゃあ、出張が終わったら真っ直ぐ私の家に来なさい。決して後悔はさせないから」
こう囁いて……志乃さんはオレの唇に人差し指で指印を捺した。
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二日間の予定で組んでいた出張を日帰りでこなして、夜の高速道路をひた走っている。
この出張中、散々自問自答して得た答えは……志乃さんに甘える事無く、彼女の真実の男にオレが成ると言う事!
女は伏魔殿なんかじゃなく、抱き締め慈しむ愛おしい存在なのだから……
おしまい
男たるもの、このくらいの気概は持って欲しいです!(#^^#)
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