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第2話:覚悟

──Side:デッドリッグ


 ローズの作法の手本のような食事を見届けながら、俺は昼飯を食った。音一つ立てていないのは流石だ。


 俺の方の食事も、意外と前世の記憶に縛られず、『デッドリッグ』として生きて来た作法の勉強の通りに食事を終えられた。──多少、音を立てたのは、作法として不合格だ。


 そして、ローズからメモ書きを手渡されて、食器を戻し、自室に帰った。午前は入学式だった為、今日の午後は特に用事が無い。


 自室へと戻ってからメモ書きを見ると、『今晩9時頃、3階1号室へ』と書いてあった。


 ……いやいや、行かないぞ?!


 恐らくその通りに行動すれば、『ローズ攻略コース』が始まるのだろうが。


 間違いなく、バルテマーの邪魔が入る。そして、その結果下る処分が恐ろしい。


 そう思って翌日、午前の授業を終え、結構広い学食で昼飯を摂ると。


 ガタガタガタッ。


 俺の正面にローズともう一人、白髪紫瞳(アルビノであるが故)の美人さん・バチルダ・デューク=シュミットが座り、両脇にそれぞれ、プラチナブロンドの髪とアンバー(琥珀色)の瞳を持つ美人さん・アダル・マークィス=シュナイダーとレディシュ(赤毛)とレッドの瞳を持つ美人さん・ベディーナ・アール=フィッシャーが座った。


 全員、バルテマーの攻略対象だ。


「……何故、昨晩は来て頂けなかったのですか?」


 先ずは先制攻撃とばかりに、ローズがそう責めて来た。恨めし気ですらある。


「いや、俺の立場的に、そんな軽率な行動に出る訳にはいかないのはご存知でしょう?」


 食事の最中に会話するには、マナーとしても飲み干した後に言葉を吐くしかないから、会話には時間が少しばかり掛かるのだけれど。


「だとしても、断りの言葉も伝えないとは、流石に失礼ではありませんか?」


 いや、そう言われてもねぇ……。


「俺は立場的に、兄上の身に、万が一の事態が起きた時の為にココに通わせて頂けていますが、お付きの人の一人も付いていないのですよ」


 この学園に通うのは、基本的に貴族の類だ。稀に、そう──聖女が民間人に産まれた場合、通う事があるとは聞いた覚えがあるが。だから、お付きか従者の人が付くのが普通なのだ。


「それは……何かと不自由では?」


 ローズは、前世の記憶で自分で割と何でも出来るのだろうが、今世の記憶では従者の一人でも居なければ身の回りがキチンと出来ないに違いあるまい。


「いえ、(かえ)って自由ですが」


 そう、俺の場合は、自由過ぎて困ってしまうのだが。


「では、今晩は誰を選ぶのか、指名して頂けませんか?」


 何らかの強制力を込めた言葉をぶつけられたが。


「いえ。誰も指名するつもりはありませんが」


 俺の方はそんな強制力に縛られず、自由にそう言い放った。


「……もしかして、悪役として断罪されるのを恐れていませんか?」


 ──この人は、何を判っていながらに発言をしているのだろうと、そう思ってしまう。


「いや、そりゃ恐れるでしょう。


 断罪された先に待っているものをご存知でしょう?」


「「「「あー……」」」」


 どうやら、納得して頂けたようだ。


 そう、どんな形であれ、断罪される場合は『公開処刑』と云う罰を受けるのだ。


「でしたら、『公開処刑』の相手、私達7人から相手を選んで頂いても構いませんよ?」


「──は?」


 俺は本気で、ローズの言っている意味が判らなかった。


「いえ、ですから、『公開処刑』の形まで指定されている訳ではありませんでしょう?」


「……は?」


 俺は益々不信感を募らせる。


「例えば、公開されている場で行為に及ぶのも、一種の『公開処刑』なのでは?」


 赤面しながらも、そう云うローズの言葉には、嘘が無いように思われた。


「──は?本気でそんな事を思っているのですか?


 それだと……俺の相手をする者も、『公開処刑』されてしまう事になってしまいませんか?」


 そう言った途端に、恥ずかしがってモジモジしながら、ローズはこう言う。


「そりゃ……確かに恥ずかしいでしょうが、もっと言ってしまえば、より興奮するのでは?」


 ダメだ。コレは、話が通じていない。


「却下します」


 俺はローズの提案全てを蹴った。


「これでも最大限の譲歩なのですよ?」


 まぁ、確かに、彼女なりの最大限の譲歩である事は判るのだけれどね。


「結果、死罪と云う『公開処刑』を為される可能性がある以上、同意は出来ません」


 もっと言えば、そんなフザケた『公開処刑』を希望する犯罪者の増加に対する抑止力として、そんな真似はさせられない。


「はぁ……とんだ『負け犬』ですこと」


 そして、ローズは俺の逆鱗(げきりん)に触れた。


「──何だと?」


 その言葉は聞き逃せない。が、怒り狂ってはいけない。


「『負け犬』は『負け犬』なりに、ビビッて3年間を大人しく過ごして下さって構わないですわよ?」


 心の中で10を数える。……ふぅ。俺は冷静だ。


「……ローズは脱落と云う事で構わないか?」


 俺は、切り札を一枚、切った。


「……え?」


 ローズの顔がサーッと蒼褪める。


「確か、選ばれなかったら、どこぞのデブハゲオッサンの側室になるんだったか?」


 前世の記憶を思い出しながらそう言った。


「えっ……?ワタクシの末路って、そんなに酷いのでしたか?」


 コレは、ローズは前世で、『ヘブンスガール・コレクション』をそこまでやり込んでいなかったに違いない。


「俺はローズを選ばなかった時は、『ローズ、ゴメン』と心の中で謝罪しながらプレイしていたな。


 因みに、俺との関係を結んだ場合は、バルテマーによって発見の上、俺の正室になる、だったか?」


 嘘は吐いていない。──と思う。そもそもが、ある程度明瞭であっても、前世の記憶なんてものはあやふやなものでしかないからだ。


「……ゴメンナサイ、デッドリッグ殿下。確か、殿下は『選ばれなかった令嬢の救済措置として存在する』、でしたか。


 それで、バルテマー殿下に発覚の場合、デッドリッグ殿下が『公開処刑』、でしたか……」


 やはり、ソコを見抜く程度には、『ヘブンスガール・コレクション』をやり込んでいたようだ。


「ああ。俺は『公開処刑』さえ避けられれば、別にどうと云う事は無いんだが」


 その場合、苗字を『ケン』に変更の上、公爵位を授かって田舎の領地を与えられる、だったか。


「……益々酷いですわね、バルテマー殿下」


 バルテマーの暴虐振りを、ローズは今まで認識していなかったらしい。


「俺としては、コレと云った利点が無い。……否、発覚しなかった場合、肉体関係を結べるのがメリットと言えばメリットだな。


 だが、俺は全員のあられもない姿を見たから、大したメリットでは無いな」


 うん。君たち全員、俺は壊れる所まで見て確かめているのだよ。


「え……?


 デッドリッグ殿下は、あのゲームの攻略を、何処まで進めたのですの?」


「それを俺にだけ言わせるのは卑怯じゃねぇかなぁ?」


 目には目を、歯には歯を。情報には情報を、だ。……やや原始的だが。


「……卑怯……。そうですか。


 ワタクシは、全員攻略コースと、ワタクシ自身の溺愛(できあい)コースのみ、記憶がございます」


 ローズの言葉に、他の三人も──


「私達も……」


 で、あるならば、全員、自身の攻略を前提として歩んでいる、って事か。


 ならば、全員、自身が俺にすら救済されなければ、悲惨なコースを進むことを知らないのだな。


「男性キャラの人気No.1である理由として、バルテマーが見逃さなければ、俺が全員、救済する努力をする、って側面があるんだが。


 誰か、知っていた者は?」


 ココでも、情報を小出しにして情報を引き出す。


「でも、悪役なのでしょう?」


 うん、そうだね。


「兄上サイドから見ればな。


 兄上が諦めたヒロインを救済して行くシーンは、俺の出番として、中々の好印象な展開だったと思うが」


「「「「確かに……」」」」


 全員がソレを認めた。情報戦は、俺の勝利だ。──一旦(いったん)


「と云う訳で、兄上が諦めた人から順に、救済しようかと思うが、如何かな?」


「お待ちになって!


 ワタクシ達4人は、既に確定で諦められていますわ。


 全員、救済して頂けますか?


 あと、貴方が断罪されなかった場合、『公爵』に任ぜられると思ったのですけれど、間違いありませんでしょうか?」


 流石、最初に前世の記憶に目覚めたローズ。ソコまでは情報収集が進んでいるのは好評価だ。


「ええ、その通りですね。


 で、あるならば、側室3人は通例であれば認められますね」


「……側室6人と云うのは……?」


 そう、それが問題なのだよ。


「兄上が7人全員攻略していた場合、認められてはいましたけれど、『色狂い』との汚名を着せられていましたね」


 俺の場合であっても、同様の汚名は免れられまい。


「……その場合、7人全員が貴方に救済された場合は……?」


 覚悟が決まっている俺は、肩を(すく)めて言い放つ。


「まぁ、『色狂い』の汚名を着せられるのは覚悟しなければなりませんね」


 言いながら、その位ならマシなんだけどなぁ……、と俺は思う。


「大変ご無礼致しました。


 そうですね。一人溺愛コースの場合も、諦められた6人を(めと)っていた場合は、貴方が『色狂い』との汚名を着せられるのでしたね。


 そこまで覚悟して頂いているのでしたか?」


 正直に言えば、ソコまでの覚悟はしていない。


 だけど、この場でそう言ってしまうのは、悪手だろう。


「ええ。この場合、覚悟しておいた方がよろしいでしょうね」


 その程度に言っておいた方が、この際、何かと好都合だろう。


「ワタクシが代表して申し上げますけれど、本来悪役である貴方が、その程度でも、丁寧な言葉を選ぶのは、不自然に感じるのですよね。


 もっと、こう……『俺様、第二皇子様』と云った態度で居たと思いますけれど……」


 ああ、確かにゲーム内ではそうだったな。


「印象として、よろしくないですか?」


 俺は少し意地悪な質問をした。


「いいえ。大変好印象です。


 ──では、各々の部屋の位置をメモしてお渡しし、ワザと関係を持って、その責任を取って頂く形で、(めと)って頂く、と云う方針では如何でしょうか?」


 少し悩ましい選択肢であるので、取り敢えずこう答えておく。


「うーん……まぁ、妥協の範囲内としましょう」


 そう言って、全員から部屋の位置と名前を書かれたメモ書きを密かに受け取るのだった。

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