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なんで私なの?

 翌日、講義室で真希たちと喋っていると通り際の友香と目が合って、彼女が笑顔で手を振って来た。

 友香の笑顔に一瞬、ドキッとしながら手を振り返すと真希が驚いた顔で私の方を見た。

 「え、いつの間に仲良くなったの⁉︎」

 そう言って目を丸くする真希と好美と景子に私は慌てて軽く説明した。

 「たまたまバスで話しかけられてね…ゆるキャラのキーホルダー繋がりでラインするようになったんだ。」

 私の説明を聞いた好美は大して興味なさそうに、へぇ〜そうなんだ〜と返す。

 「なんか、あの子って他人に興味なさそうだから、そうやって話しかけてくるの意外だなぁ〜。」

 友香の背中を見ながら呟く景子の言葉に真希も同意する。

 「うん、わかる。なんか自分の世界で完結していて私達にはまるで興味がないよね。私はあの子と友達には絶対になれないなぁ〜。」

 三人が友香の背中を見ながら口を揃えて、あの子は私達には興味がないから〜と言った。

 私はその言葉を聞いて驚いて目をパチクリさせた。

 私も友香と仲良くなる前は同じことを思っていたけれど今はそんな風なイメージはなくて、むしろ人懐っこいイメージに変わっている。人の切り取られ方は写真のように枚数が少ないほど不利になっていくのだと感じた。

 一番前の席では相変わらず友香が一人で座ってイヤホンで音楽を聴いていた。


 その夜、私は家で一人、丸いシートクッションの上に座りながら先輩のことについて考えていた。

 頭の中で先輩が私の肩に寄りかかって甘える姿やメニューが決まらず駄々を捏ねる姿を想像すると最初は違和感を覚えたが段々としっくりきて私でも出来るかもしれないと考えた。

 私でも甘える先輩を優しく受け入れて手懐けることが出来るかもしれない。

 でも出来たとしても先輩は私と目を合わせて話してはくれない。だって先輩は私にサッカーボールをぶつけたことなど忘れていて私の存在など覚えていないから。

 そんなことを考えているとこの間の友香の言葉が急に脳内で(よぎ)った。

 “大学近くに国道があるでしょう?そこの国道沿いのガソスタで週二日、月・金の夜に働いているんだ“

 その言葉を思い出した私はいても立っても居られなくなってカバンを持って家を出た。

 大学に向かうバスがまだわずかにある時間だった為、それに乗って大学前のバス停を降りると国道沿いに向かって足早に歩いた。

 自動車やトラックが(しき)りに行き交う道路横の歩道を歩いて真向かいにあるガソリンスタンドを見つけると、足を止めて電柱に身を潜める。

 電柱からそっと顔を出して向かい側の様子を見ると視線の先で二名の従業員が接客をしていた。

 その一人に先輩がいて、彼は洗車を行なっていた。

 結構な時間を掛けて手洗い洗車を行なっていた先輩が客に向かって何度も頭を下げる。

 洗車を終えた先輩は笑顔で車を見送った後、一人でどこか遠くを見つめて重いため息を吐いていた。

 ため息を吐き終わると慌ただしくもう一人の従業員のサポートに回っていて、とても話しかけられる空気ではなかった。

 今ここで私が一人、急に現れて先輩に話しかけたらどうなるだろうか。

 きっと先輩は怪訝な顔をして私のことを気持ち悪いと思うだろう。

 そう考えると足元がすくんで立ち止まったまま時だけが進んだ。

 行き交う車の騒々しさの中で無駄で何一つ意味が生まれない時間だけが無情に進んだ。

 小一時間ほどそんな状態でいると、やがて足が疲れてバスの時間もあった為、帰ることにした。

 身を潜めていた電柱から背を向けてバス停のある場所を辿るようにして歩いて戻る。

 歩いている間、私の目には涙が溢れていた。

 自分の情けなさと虚しさと自信の無さから涙が止まらなくなって(むせ)び泣く。

 どうせ私は変わることが出来やしない。

 いつまでも先輩の幻想を追ったまま大人になることが出来やしない。

 きっといつまでも憧れを遠くで見つめて指を噛み続ける。

 一番、欲しいものは、私じゃない人の手元に行く…。

 バスに乗っても涙は抑えられなくて、ようやく落ち着いたのは家に着いてからだった。

 家に着いた後、私の気持ちは酷く落ち込んで暗くなっていた。

 あづさに電話しようか悩んだけれど、もし仮に話したら、そこまで行ってなんで行動しなかったの?って正論を述べられそうで恐くて電話出来なかった。

 今の状態で論理的に正論を言われることほどきついものはない。

 真希たちには先輩ことは言っていないし万が一、友香の耳に入ったら全て終わりだ。

 そう思うとこの気持ちを誰にも話すことが出来ず、ベッドに入って眠ることしか出来なかった。



 火曜日、私は講義が終わった後、真希と景子の三人で電車に乗って大型ショッピングモールでお店を見て食事をしたり、久々にプリクラを撮ったりした。

 最新のプリクラ機の前でシャッターが降りるたびにぶりっ子した顔をしたり、決めポーズをして思う存分、楽しんだ。

 三等分されたプリクラを各々が持って帰りにファーストフード店に寄ると、真希が席についた後に先導してスマホからプリクラ画像を保存すると私達のグループラインに共有した。

 インスタを開くと真希と好美が三人で撮ったプリ画像を早速ストーリーに載せている。

 その画像を見ながら、ふと私は友香はインスタをやっているのだろうか…と考えた。

 ツイ○ターをやっているのは知っているが、インスタやフェ○スブックをやっているかは知らなかった。

 もしもインスタをやっているのなら、そこから先輩のアカウントを割り出せるかもしれないと考えた。

 翌日、講義前に真希がバイトで遊べなかった好美に三人で撮ったプリクラをあげていた。

 好美は自分の写っていないプリクラにも関わらず、それをもらって喜んでいた。

 「次は四人で撮ろうね。」

 真希が言うと好美は顔をくしゃっとさせて笑いながら頷く。

 「それにしても祐美と景子はやっぱり雰囲気が似てるよね。」

 好美に言われてプリクラを見ると私もそうかもしれないと思った。

 景子は私と同じくらいの身長で髪型も同じ黒髪のボブカットな為、たびたび真希たちに双子みたいと言われてきた。

 景子もそれに同意していて、私達って似てるよね〜と言ってくるが実際は景子の方が顔が整っていて可愛い。

 あくまで雰囲気が似ているだけで顔自体は景子の方が優れていて、景子もその可愛さを武器にしてメイド喫茶でアルバイトをしている。

 何が違うのかと言うと顔のパーツの配置バランスな気がする。私の顔は中央に寄っているけれど景子の顔はもっと上手に寄りすぎずに配置されていた。

 そんなことを思いながら一番前の席を一瞥すると、変わらず一人で座って音楽を聴いている友香の背中が見えた。


 金曜日、バスに乗ると珍しく友香が二人席に座っていた。

 彼女はいつも私よりも早くにバスに乗るため、一人席に座っていることが多いが今日は二人席に座っていて片側が空いていた為、隣に座った。

 隣に腰を下ろすと物憂げに車窓を眺めていた友香が何気ない感じで私を一瞥する。

 一瞥して私だと分かると途端に晴れやかな笑顔になって、おはようと挨拶された。

 私もおはようと返して何気ない話をする。

 「昨日はバイトだったの?」

 「うん、そう。ラストまでだったから、もうクタクタ…授業受けるのダルい〜」

 「そうなんだ、大変だね。私は真希たちとご飯食べて帰ったんだ〜」

 「いいね。何を食べたの?」

 「中華料理!バー○ヤンだよ〜安いからさ笑」

 「へえ!そうなんだ。私も今度、祐美と一緒に行きたいなぁ。」

 「うん、いいよ。今度、一緒に行こう。」

 「本当に⁉︎嬉しい〜!いつ行く⁇あっ!その前に日曜日は祐美の家に遊びに行くもんね。予定はその後に立てればいっかぁ!」

 友香が顔をくしゃっとさせて笑うとこの間の好美のことを思い出した。

 自分の写っていないプリクラをもらって喜ぶ好美の顔を思い出した私はなんだか無性に友香に何かを与えたい衝動に駆られて、財布からプリクラを出すと、それを友香に渡した。

 「これ…いらないかもだけど…よかったらあげる。」

 プリクラを差し出された友香はきょとんとした顔をしてそれを受け取ったが、私の写ったプリを見ると嬉しそうに笑って、可愛い〜!と声を上げた。

 「裕美が写ってるプリクラだぁ〜!本当にもらっていいの⁇」

 私の顔を見て尋ねる友香に頷くと彼女は喜んで、そのプリを自身の透明なスマホケースの中に挟んで入れ出した。

 彼女のスマホからプリクラに写った私の顔が常時、見える状態になる。

 友香はスマホケースを嬉しそうに指でなぞりながら、「祐美が一番、可愛いね。でも私は実際の祐美の方が好き。動いている祐美の方が可愛い。」と呟いた。

 愛おしげにスマホケースを見つめる友香を見て、なんで私なんだろう…と思った。

 私がなんで先輩なのかとあづさに言われるように、私もなんで友香が私にだけ懐くのか分からなかった。

 なんで私なの?

 どうして他に友達をつくらないの?

 素朴な疑問は友香を前にすると喉奥で止まって飲み込まれる。あまり踏み込むと願望を見失ってしまいそうで恐かった。

 ついで感覚で友香にインスタをやっているのか尋ねると、やっていないと返ってきた。

 「私、誰かと繋がったりするの苦手なの。だって繋がりって切れちゃったら元には戻らないでしょう?…私、そういうの恐いの。」

 私の目を見て訴えかける友香は何かに怯える子供のようで、いつもの大人びた雰囲気はなかった。



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