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1話
大切な人が死んだ。
それはあまりにも突然の出来事で、呆気ないものだった。
悲しみに浸る余裕すら与えられず「彼が死んだ」という事実だけが私の中に居座った。
ここでいう「私の中」とは、頭とか心とか、そういう具体的なものではなくて、もっと抽象的なものだと思う。
彼が死んだその日は、やはり動けそうになかった。
会社に簡素な言葉で休むことを伝え、スマホを投げ捨て、一日中薄暗い部屋で過ごした。
テレビ番組が視聴者の眠気に寄り添い始めた頃。
時計は新たな一日をスタートした。