9. おっぱいは正義
……なんだ、こいつ。紙面上だからある程度いいとこばっか載せてるもんだと思ったが、めちゃくちゃ可愛いな。
俺が思わず見惚れていると、マインは不審そうな上目遣いで俺を見返し、不機嫌そうに頭の上の猫耳をイカ耳にする。
「何、あんた、マインのファン? 悪いけど、ちょっとどっかいっといてくんない? 今マインは、人のプライベートを晒して金を稼ぐ悪質メスガキを分からせる最中なんだから!」
そして、ルルゥの方に向き直る。そうだ、なんで気づかなかったんだろう。
伸びたステータスを試したい気持ちが先行していたせいか。それとも、マインに清純派というイメージがあった分、週刊記者を急襲するという過激行動と結び付けることができなかったのか。
直近の記事で手痛いスキャンダルを載せられた獣人は、こいつ、マインだけだったじゃねぇか。
「ともかく! あんたが撮ってようが撮ってないがどうでもいい! 今すぐ、あの記事を取り消しなさいよ!」
「すでに出版してるものを取り消せって、やっぱり巨乳の人って栄養が全部そっちに行っちゃってるんですねぇ」
「はぁ!? 次の武春でマインの記事間違ってましたって掲載すればいいじゃん!!」
「……うーん、そこまでして訂正しなくちゃいけないような記事ですかぁ?」
「なんですってぇ!?」
マインはツインテールを振り乱して怒りを露わにした。しかし、ツインテールの女が二人並ぶ姿は、それだけで胃もたれしちまうな。
「あたしは清純系グラドル冒険者で通ってんのよ!? あんな記事出されたら好感度が下がっちゃうじゃない!!」
「清純派グラドルって(笑)。誠実派宮廷魔法使いみたいですね(笑)」
「そこまで矛盾してないでしょ! て言うかあんたらがそう書いたんぢゃん! なんであんなこと書くわけ! あんたのところでグラビアやってやった恩を忘れたとは言わせないわよ!?」
「あれ? その恩は、あなたの整形疑惑を記事にしないことで返したはずたったんですが」
「……っっっっ!!! はぁ!?!? 整形とかしてないんですけど!?!? そーゆー嘘記事書くのはおかしいでしょって話してんの!!」
ふしゃーと、ローブから尻尾を突き出すマイン。どうやら俺が身体を張らなくても、元からルルゥを襲うつもりはなかったらしい。
だからと言って、口を挟まないわけじゃねぇ。確認しそびれたこともあるしな。
「まぁまぁ、落ち着けよ。二回目の整形を検討しないといけない程度にブッサイクなツラになってるぜ」
俺は二人の間に割って入りながら、ローブがはだけて露わになった谷間をがっつり眺める。
……クソ、何らかの方法で盛ってんのかと思ったが、マジガチの天然爆乳じゃねぇか!! もっと早くに声かけときゃよかったよぉ!! うぇーん!!
「だから整形とかしてないっつってんでしょ!! あんたさっきから邪魔なんだけど!!」
マインは、牙を剝いて俺を威嚇する。が、その乳で威嚇とか、常軌を逸してるとしか思えない。
俺は手をあげて敵意がないことを示した。
「気持ちは分かるがな、ここで下手に突っかかったら逆にそのことを記事にされちまうぜ。恐喝されたのなんだのよ」
「うっさい!! どきなさいよ!!!」
「っと」
しかし、俺の好意をマインは無駄にする。突き飛ばされた俺は、路地の壁に思い切り背中をぶつける。ぐげ、やっぱりまともに食らうと力ヤベェな。
「あ、ごめ……え、あんた、ザマァル!?!?」
「……やべっ!?」
その反動で、兜のゴーグルが上がってしまったのが運のつきだ。
俺はすぐさま立ち上がって顔を隠すと、「おい、静かにしろ。俺と一緒にいるのが知れたら、お前だって面倒だろ」とマインに釘を刺す。すると、マインは、先ほどまでの狂乱はどこへやら、まるで借りてきた猫のように、コクコクと頷く。
そして、今にも四足歩行になりそうな大股から、ちょこちょこ可愛らしく俺の方に寄ってくると、耳元でこう囁いた。
「まっ、マイン、ザマァルさんのファンなんですぅ」
「え、は? ファン?」
信じられない言葉に、耳を疑う。
いや、そりゃ、【マイヤー・ユナイテッド】時代なら、ファンなんて腐る程いただろう。しかし、今の俺のファン? そんな奴たった一人で、今後ろでカメラを構えてるルルゥくらいのもんだろう。
ああ、『なんです』じゃなくって、『だったんです』の間違いだろうな。確かに乳に栄養を持ってかれてるみたいだが、ルルゥと違って、俺はそう言う女が何より好きだ。
「そ、それで、えぇと……」
マインは、緊張からかダラダラと滝汗をかき始める。汗が谷間にたまり、ちょっとしたオアシスになっていた。おいおい、あと少し喉が乾いてたら顔突っ込んでるところだぞ。
急速に喉が渇いていく自分に呆れていると、マインが俺の右手をものすごい力で掴む。やべ、油断したと思ったのも束の間。
「とにかく、私と付き合ってください!」
ぶにゅん。
確かに、俺の耳にそのような奇怪な音が響いた。
続けて、この世のものとは思えないほどの柔らかい感触が手から伝わってくる。
恐る恐る、自分の右手に視線を落とす。
右手首先が、消えていた。いや、消えている、と言うより、飲み込まれていると言ったほうが正しいか。
マインは、俺の右手を、その巨大なおっぱいに押し付けているのだ。
「はい!!! お付き合いさせていただきます!!」
そう理解した時、俺の口は思考を置き去りに、勝手に返事をしていたのだった。
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