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8. 襲撃

 

 叫び声の方を見ると、この路地裏にずんずん入ってくる人影があった……どうやら、このメスガキをわからせたいのは俺だけじゃなかったみたいだ。ま、当然か。ここは冒険者の街、こいつを恨んでる奴なんて腐る程いる。


 その襲撃者は、俺が被っている安物のマントと比べて、明らかに質のいい真っ白な毛皮のロングローブを羽織っている。フードは大きな作りになっており、顔全体を覆い隠しているので種族は特定できない。あちらもこちらが見にくいはずだが、迷いなくこちらに向かってくる。


 声から、女で確定だろう。しかも、ローブでわかりにくいが、だいぶデブだ……身長、体格的にドワーフっぽいが、だとしたら今の俺のステータスじゃ、相手取るのは厳しいか。


「おいルルゥ、下がってろ」


 しかし、俺が有用であることをルルゥに示せると同時に、せっかくステータスを試せる機会でもある。闇討ち相手なら、ボコボコにしても衛兵所に駆け込まれる心配もない。


 俺は兜を被り直し、カタナを引き抜き、毛皮女に向ける。


「おい、それ以上こっちに来やがったらぶった斬るぞ……って、おいおいおい!?!?」


 全く歩く勢いを緩めない女の出っ張ったお腹に、剣先が刺さる。そのまま俺の剣は吸い込まれていったので、俺は反射的に剣を離してしまった。


 ヤベェ、殺すつもりはなかったのに、腹を刺しちまった。いやしかし、刺した感触がなかったぞ!?


「ふしゃーーーーー!!!」


「まずっ」


 混乱する俺の眼前に、ギラリと鋭い爪が迫る。俺は頭の上に前腕を掲げ、受けの体制を取る。振り下ろされた手をしっかり防御すると、鋭い痛みが走った。


「っ」


 見ると、革の籠手に引っ掻き傷が走っていて、ジワリと血が滲みはじめている。

 安物の革製の籠手とはいえ、こうもあっさり引き裂かれるとはな……そして、先ほどの攻撃で翻ったローブの中で、見えたこいつの腹。

 ちゃんと飯食ってんのかって心配になるくらい、ほっそりとした腹だった。


 なのに、こんだけ着膨れして見えるってことは……おいおい、乳がでかいのか? おいおい、どんだけでかいんだよ! おいおいおい!


 間違いない。この恵体、獣人で確定だ……とすると、今の俺には、ちょうどいい相手かもしれない。


 あの狼姉妹は別枠として、基本的に獣人族は、ドワーフと比べて敏捷の数値は高いが、それ以外のステータスは劣っていることが多い。

 何より魔法が使えないやつがほとんどなので、晴れて魔法持ちになったとはいえ、まだ実戦で使ったことがない上、生身の人に向ける気にもなれない『斬撃(スラッシュ)』の魔法しか使えない俺には、ぴったりの相手というわけだ。


 俺はコケ落としにもなりそうにないカタナを鞘しまうと、左手を広げて視界を隠すために相手の顔の前に、右手は握りこぶしにして、足の幅は俺のステータスの中でマシな方だった敏捷を生かすため、狭目にとっておく。


 これでも【マイヤー・ユナイテッド】に所属していた時にあらゆる格闘技を教えられたので、身体能力では上をいかれていても、明らかに素人のこいつ相手なら、いい勝負ができるはずだ。


 ……来る!


 やはり大ぶりの引っかき攻撃を、左手で、今度は相手の手首を打つように受ける。

 獣人女は呻き声をあげたが、すぐさま怯まず突っかかって来る。素人のくせに、痛みへの耐性はそこそこあるみたいだ。


 今度は左の引っかき。目も慣れて来た。俺は余裕を持って半身で回避すると、そのまま後ろに回り込んだ。


 よし、後はがら空きの首に腕を絡めてやれば落とせる! 


 女を殴んのはさすがに抵抗があるが、締め落とすのなら【マイヤー・ユナイテッド】時代ベッドで何回かやったことがあるんだよ! ああ、もちろん求められてのことだぜ!

 俺はすぐさま後ろから抱きつく形で、毛皮獣人を拘束した。


「ちょ、ちょっと、離して!!」


 毛皮獣人がジタバタ暴れる。なかなかの力だが、そんなことよりブルンブルン揺れる乳がすごい……いや、この異様な揺れ、もしや凶器の可能性もありますし、身体検査を行う必要がありますな。ぐへへ。


 俺は右腕を首に絡め、空いた手をローブに滑り込ませようとする。すると、毛皮獣人はジタバタ暴れ出し、フードがするりと取れ、ツインテールと、毛並みの整ったツヤツヤの黒い猫耳が露わになった。

 へぇ、猫人か……え、おい、ちょっと待て。


 セクハラをやめ、顔を覗き込もうとした、その時。


「きゃああああ!!! 襲われるぅ!!!!」


「お、おいおい!?!? お前の方から襲っといてよくもまぁ!?」


 これだから女は、被害者ぶるのがうまいから困る! こんなとこ誰かに見られようもんなら終わりだ!

 パシャリ。

 フラッシュに顔をあげると、ルルゥがメスガキ然とした顔をしながら、俺たちを激写していた。


「ふふ、ついにレイプ犯に成り下がりましたか。堕ちるところまで堕ちましたねぇ♡」


「おい!? お前を守るためにやってんだぞ!?」


 思わず拘束を緩めると、猫人はしゃがみこんで、するりと俺の腕の中から抜け出した。


「うぉ!?!?」

 そして、そのまま重心を低く保ったまま、くるりと回転。それに合わせて、長い足がぐんと俺の顔に伸びてくる。


(おいおい、後ろ回し蹴りかよ!?)


 やはり無駄な動きが多い素人同然の蹴りだが、それがむしろ恐ろしい。俺がどんだけ練習しても、そんな大技実践で顔に飛ばせる気がしない。

 下にすり抜けられた分、つられて両腕は下がってしまっている。羽交い締めにしてたから脚は揃っちまってるし、スウェーで避けるしかねぇ!


「ぐっ」


 腹筋が引き攣れるのを感じながらも、俺が思ったよりもぐんと頭が後ろに下がる。長いヒールが俺の眼前を通過し、俺は喜びに叫びそうになった。


 この身体(ステータス)、無茶が聞く!!


 ずるり。


「ってマジかよ!?」


 足が揃っている上、スウェーで後ろに重心を持ってきているのだから当然といえば当然。足を滑らせた俺は、思いっきり尻餅をついてしまった。


 やべ……。

 馬乗りになられて上から殴られ続けたら、ステータスとか素人だとか関係ねぇ。殺される!


 俺はせめてもの抵抗として、十字で顔を覆った。しかし、いつまでも追撃が来ない。

 なんで?……当たり前だ! 奴の狙いは俺じゃなくてルルゥなんだぞ!


 慌てて立ち上がる。俺が後ろに回り込んだせいで、ルルゥと猫人を挟むものはいなくなった。猫人はルルゥに詰め寄り、ふしゃーと威嚇してみせる。


「ルルゥ! あの記事書いたのあんたでしょ!! あんたのせいで、仕事が続々キャンセルになってんだけど!?」


「あの記事とは、一体なんのことでしょう? 全く覚えがないんですけどぉ」


「しらばっくれんじゃないわよ! マインがホストで豪遊してる写真! あんたが撮ったんでしょ! あの日、あんたを見かけたのよ!」


「見間違いですよぉ。うちにはメスガキがいっぱいいるんですぅ」


「そんな狂った会社(パーティ)あるわけないでしょ!!」


「……マイン?」


 今、マインって言ったな? 


 先ほど猫耳を見て思い当たっていたその名前と顔を一致させるため、俺は立ち上がり、ゆっくりと後ろから歩み寄り、猫人の顔を伺う。


「……マイン、マインだ」 


「はぁ!? さっきから何よあんた!! ていうか気安く名前を呼ばないで!!」


 猫人はこちらを振り返り、ふしゃーと威嚇をする。紙面上の艶やかなマインとはあまりに違って一瞬別人かと思ったが、そのエメラルドの瞳にはやはり見覚えがあった。


 間違いない。“男にシコられることしか能のない女”こと、グラドル冒険者のマインだった。



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