6. スキル『ざまぁしたらステータスアップ』
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今日も五話投稿予定です!
「……どういう、ことだ?」
……現在値、今現在のステータスは、ミノタウロスとの戦闘で多少上がっていてもおかしくない。
しかし、未来値が上がっているのはどう言うことだ?
未来値は、そのものが未来でたどり着けるステータスの最大値。
つまり、どれだけ努力しても、未来値以上のステータスにはなれないと言うことで、この未来値によって冒険者の夢が絶たれるとうのが、十二歳でステータス閲覧を得た子供達の恒例になっている。変動するような数値じゃないんだ。
さらに、魔法さえ習得していることを考えたら、ミノタウロスとの戦闘が原因と考えるのは無茶がある。
こんな異常事態が起こるとすれば、俺が幻術の魔法にかけられているか……スキル、そう、スキルだ!
俺は、もう二度と見ないつもりでいた、自分のスキル、『ざまぁ(笑)』を、まじまじと見つめる。
そして、思わずあっと叫んだ。
「もしかして、ざまぁ、したからか?」
虹色の蕾が開花した後、女神様はスキルの説明の代わりに、俺にざまぁしたものだと思っていた。しかし、本当にそうか?
『スキルが開花して一気に最強になれると思ってたみたいだけど、残念でしたぁ! そんな都合のいい話ありましぇぇぇぇん!!』
そう、そうだ、女神様は、“一気に強くなれない”って言ったんだ。“強くなれない”とは言っていない。
……もしかして、あのざまぁこそが、『ざまぁ(笑)』のスキルの説明だったのではないか。
ああやって、心の底から他人の不幸をざまぁすることによって、『ざまぁ(笑)』は発動する。女神様は、そう伝えたかったのではないか?
『ああ、ざまぁするのきもっちえええええ!!!! 気分良すぎて生まれ変わった気分!!!! 何回でもイケる、ザマァル、ざまぁみやがれ!!!』
『生まれ変わった気分』? 今思えば、これはスキルの効果を示唆したものではないのか? 生まれ変わらないと変わらないはずの未来値が上がるのは、確かに生まれ変わったと表現できるのでは?
もし、俺の推論が当たっているとしたら、『ざまぁ(笑)』のスキルの効果は……。
「ざまぁしたら、ステータスアップする……」
未だ燃え盛るように熱い身体に、ぞくりと寒気が走った。
ステータス強化系のスキルを引かない限り、ステータスによる優位は揺るがない。アルフォードのような化け物をのぞき、人族がエルフ族に魔力で勝てることはないし、力でドワーフ族に勝てることもないのだ。
そのステータス強化系スキルも、基本的に強化できるのは一つだけ。全体的にステータスをあげるスキルなんて聞いたことがない。さらに、魔力が上がることによって、魔法を習得できる可能性もある。
しかも、女神様の言う通り、このスキルで何回でもイケるなら……俺は、世界最強にだってなれると言うことでないか?
「……はは、いらねぇよ、こんなスキル」
しかし、今の俺には、あまりに無用なものだ。
今更、強くなったところでどうなる?
強くなったところで、ベラが俺の元に戻ってきてくれるわけもない。むしろ、このスキルを使ってざまぁ(笑)と人を嘲笑うほど、俺はベラにとって忌避すべきクズになっていくことだろう。
そこまでして最強になって、何をするってんだ……今回の恥辱を晴らすために、あの闘技場でアルフォードと決闘し、ボッコボコにする?
馬鹿な。ベラの言う通り、こんな仕打ちを受けたのは俺の自業自得だ。ベラにも再び復讐の動機を与えてしまう。いいことなんて一つもない。
むしろ、もう二度とこんな目に遭わないように、俺はこのスキルと決別しなくてはいけない。
そして、昔の、ベラが好きだった頃の俺のように、真っ当な人間に戻るべきなんだ……。
ホワンホワンホワン。
アルフォード『ぐあああああああ!!! やられたぁ!!!!』
俺『はっはっ、楽勝すぎて確定申告しながら倒しちゃったわ(笑)』
世間『おお、あのアルフォードが雑魚扱いだ! よし早速掌返そう!! ザマァル最強!! ザマァル最強!!』
俺『ねぇ、今どんな気持ち? ハズレスキルを引いたと勝手に思い込んで追放したやつにボッコボコにやられた気分は? 悔しい? 悔しい?』
アルフォード『ぐぬぬ……』
ベラ『ちょっとザマァル! 公開処刑なんて悪趣味がすぎるよ! このクズ男!!』
俺『え、俺はただお前らにやられたことをやり返しただけなんだが? ブーメラン頭に突き刺さってますけど大丈夫そ?』
ベラ『ぐぬぬ……』
俺『ていうかお前、なんかどんな状況でも優しい奴が本当に優しいとか言ってたよなぁ? てことは、クズ相手だろうが公開処刑なんてくそったれなことをしたお前らってめちゃくちゃ性格悪いじゃん。てか、俺でも、自分がやられるまでは、公開処刑なんてクッソ性格の悪いこと妄想でもやんなかったしなぁ! 今回の復讐も結局のところお前らのパクリだし、冒険者としての実力では圧倒できても、性格の悪さでは勝てなかったぁ! クソ、悔しいなぁ、チクショー……(笑)』
アルフォード、ベラ『ぐぬぬ……』
俺『……グフ、グフフ、グフフフ、グフフフフフ』
ホワンホワンホワンホワン。
「え、めっちゃキモチェェェ……」
俺は、ゾクゾクと背筋に走る快感に、思わず天を仰いだ。
先ほどまで俺を責め立てていると感じた激しい雨が、今や俺に万雷の拍手をくれているようにすら感じる。
……いやいや、冷静に考えて、こんなので気持ち良くなっちゃ駄目だろ。
もう、虹色の蕾の持ち主でも貴族でもなくなったんだ。重圧からも解放されたんだから、無理してざまぁをする必要もなくなったわけで、
「キモチェェェェェェェェ!!!」
ダメだ、気持ちいい。この快感には抗えない。何やってんだよ、俺はもう、昔の真っ当な人間に戻らなくちゃいけないのに……。
「……あ」
思い当たる節がある。
自分のことだというのに、すっかり忘れていた。いや、忘れようとしていたのかもしれない。
いつも俺をいじめてきた村長の息子が、底無し沼にハマり、皆が心配している中、笑いを堪えるのに必死だったこと。
突風の日、ズラの村長に抱っこを要求し、両手を塞がせた結果、隣の村のまでズラが飛んでいったこと。
村長とパン屋の娘に「ねぇ、昨日の夜村長さんの家行ったら、二人が裸で取っ組み合いしてたけど、二人って仲悪いの?」と言って、二人があたふたする姿を楽しんだこと。
村長の息子が三度目の底無し沼にハマり、ついにこらえきれずに爆笑してしまったこと。
「俺、元から性格めっちゃ悪かったんだ……」
優しかった、なんてのが、そもそも間違い。
貴族としての生活が俺を堕落させたわけでも、親に売られたトラウマのせいでとか、そういうわけじゃない。
ただの底辺村人のうちは角が立つので隠していた本性が、貴族の養子になって露わになっただけだったんだ……。
「それじゃあ、このスキルは……」
女神様の嫌がらせでもなんでもない。生まれもってクズな俺にとって、あまりにぴったりなスキルだったってことだ。
そして、そんなスキルを与えたということは、女神様は性悪な俺を否定するどころか、受け入れ、なんなら愛してくださっていると言うことではないのか?
……いやいや、流石に、自分に都合が良すぎるだろ……いや、むしろ、クズ前提のスキルを与えられておきながら、真っ当な人間になろうって方が、よっぽど都合がいいのか?
女神様からこのスキルを与えられた時点で、俺は今後も人の不幸でざまぁ(笑)することを運命づけられたのでは?
……いや、言い訳はやめろ。
結局のところ、俺は今、最高にワクワクしている。それが全てじゃねぇか。
「ああ、いいさ、やってやるよ、女神様」
俺はこのスキルによって、世界最強の男になる。ベラや他の連中が嫌ったこのくそったれな俺のまま、いや、そんな俺だからこそ、誰よりも強くなるんだ。