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4. ミノタウロスとの決闘

新連載開始しました!

今日中にあと一話アップします! 


 腕と足の拘束、そして口輪を外されたミノタウロスは、真紅の瞳で俺をじっと見つめている。

 野生の勘で、俺を脅威とみなしていないのだろう。大当たりだが、それはあくまで俺単独の話だ。

 

 《聖剣エクスカリバー》。物体なら切れないものはないほどの切れ味を誇る、マイヤー家自慢の宝具だ。

 しかし、エクスカリバーを聖剣たらしめるのはそこじゃない。


 エクスカリバーは、所有者の怪我をすぐさま治す。その回復力たるや、超一流の回復師の回復魔法を遥かに凌駕するもの。即死級の攻撃を喰らわない限り、死ぬことはないのだ。

 だから、恐れる必要はない……逆に言えば、一つの言い訳もできないわけだが。


 俺はマントをエクスカリバーで裂き、布切れで柄と右手が離れないように縛る。

 そして、エクスカリバーを構えながら、ゆっくりと前進した。

 対して、ミノタウロスはパシパシと長いまつ毛を瞬かせるくらいで、動こうとはしない。武器を持たないミノタウロスと、俺のリーチ差は大したものではなかった。


 ……間合いに入った!


 まずは、その巨大な腕目掛けてエクスカリバーを切り下ろす。少しでも傷をつけられたらと思ったのだが、ミノタウロスはデカい図体にふさわしくない瞬発力で、余裕をもって後ろに飛ぶ。


 身体能力で敵わないのはわかっていた話だ。俺は、すぐさま間を詰めて、今度は着地した足を狙って斬り払う。どれだけの身体能力があったとしても、宙を蹴ることはできない。馬鹿みたいに飛び上がりたがる魔物を狩る常套手段だ。


「ぶるぁっ!?」


 ミノタウロスが悲鳴を上げる。艶々輝く筋肉隆々の太ももに、一本の赤い線が入った。


(くそっ、失敗だ!!)

 

 この程度のかすり傷では、ミノタウロスの機動力を奪うことはできない。そして同時に、ミノタウロスの闘志に火をつけるには十分なダメージでもある。


「ぶるるっ!!」


 ミノタウロスが、俺の身体ほどの大きさの拳を振り上げる。俺はすぐさま横に転がると、すぐ真横で衝撃。地面がぐらりと揺れて、着地した足首がぐにゃりと曲がった。


 まずっ。

 横目に見ると、地面に打ち付けられた拳をそのままに、裏拳が俺に飛んでくる。躱せない、なら。


 俺は裏拳をエクスカリバーで受ける。


 衝撃。


 目の前が真っ暗になり、真っ暗な景色の中でチカチカと星が光る。


 あれ……? 見覚えがある。これは、うちの田舎の丘から見た星空だ。子供の頃は毎日のように丘に登り、寝っ転がって空を眺めたものだ。

 追放されて久々に田舎に帰ったのは良いものの、村の皆からの視線が怖くて、見にくどころか基本的に部屋に篭りっぱなしだった。


 そうだな、久々に、星空を眺めながら、のんびりするのも良いのかもしれない、今の俺に足りないのは、休息だったんだ……なんて、言ってる場合じゃないだろ馬鹿!!!


 視界が闘技場に戻る。どうやら闘技場の真ん中から、数十メートルは吹っ飛ばされたようだ。

 すぐさまエクスカリバーを確認する。布で縛っておいたお陰で、俺の手にはまだ柄がおさまっている。

 よかっ、た……離してたら、終わってた。


「ぐるばあっ!!」


 ミノタウロスが、俺目掛けて突進してくる。身体は治ってる、はずなのに、動かない。


「あがっ!?!?!?」


 アレーナの壁に激突し、骨と肉が砕ける音がする。だが、大丈夫。エクスカリバーは離していない。すぐに治る、はずだ。


 ミノタウロスが俺から身体を離すと、両手を組んで、より巨大になった拳の塊を、ハンマーのように振り上げる。

 大丈夫、離さなきゃ……。


 エクスカリバーの剣先を握りしめると、手のひらが深く切れると同時に治り、刃と手のひらが一体化する。

 そのまま上に掲げて、防御のためだけの姿勢をとる。拳が、空気を切り裂く甲高い音を立てながら、俺めがけて振ってきた。


 ぐじゃり。


 聞くに耐えない音。拳がぶつかるたびにその音がして、すぐさま治る。肉と骨が身体から飛び出しては治り、身体の輪郭があやふやになって、自分が自分であるかどうかもわからなくなる。確かに感じる痛みだけが、俺がここにいることを証明していた。


 ……大丈夫、いくら無尽蔵の体力があるミノタウロスでも、いつか動きが止まるはずだ。


 殴打。

 殴打。

 殴打。 


「……だ、だれ、か」


 治った口が、勝手に動く。


「たす、たすけ、助けて……」


 激痛の中、下半身に生温い感覚を感じ、血かと思ったら俺のションベンだった。もうこうなったら、恥がどうかなんて、気にしている場合じゃない。


 死ぬ、エクスカリバーなんて関係ない、このままじゃ、死んでしまう……嫌だ!! 死にたくない!!


「たすけて!! ベラ!!!」


 その瞬間、ミノタウロスの動きがピタリと止まった。


「……ひっ、ひっ」


 血とションベンで地面を濡らしながら、ナメクジのように這いずって壁とミノタウロスの間を抜ける。

 すると、ミノタウロスの身体がぐらりと揺れて、ちょうど俺がいたところに、うつ伏せで倒れこんだ。


「このままではエクスカリバーに傷はつきそうだからな……はは、冗談だ」


 素手でえぐり取ったのだろう、手にまだドクドクと鼓動するミノタウロスの心臓を持ったアルフォードが、俺を見下ろし、心底見下した笑みを浮かべる。


「あまりに哀れすぎて、つい助けてしまったよ」



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