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3. 復帰の、はずが……。

新連載開始しました!

今日中にあと二話アップします! 


 一ヶ月ぶりのマルゼンは何も変わらないはずなのだが、俺の目を通すと随分と違って見えた。


 大通りは人でごった返しているのだが、彼らの半分は、戦時下でもないと言うのに武装している。種族も、人族からエルフ族まで多種多様だ。


 マイヤー家直轄領土であるこの大都市、マルゼンは、ウルマ王国七代都市の中で、一番冒険者が集まる場所といって間違いないだろう。

 この国で一番大きな冒険者ギルドがあり、マルゼンを半円状に囲む【マイヤー大森林】は、魔物がうじゃうじゃいる。

 東にある【マイヤー鉱山】では様々な鉱石が取れ、ここから徒歩圏内に三つのダンジョンがある。冒険者をやる上で、ここまで好条件な立地もないので、自然と冒険者が集まるわけだ。


 よって、マルゼンは冒険都市とも呼ばれていて、ここでは冒険者としての実力が全てと言っても過言ではない。


 昔の俺なら、大手を振るって歩けた。が、今や、安物の黒マントのフードを被り、背を丸めて息を潜めるほかないと言うのが、俺のくそったれな現状なのだ。


「ザマァル、こっち」


 しかし、俺が顔を隠していても、俺の手を引くベラが有名人なので、自然と視線が集まり、ファンがサインをねだったりするので、より警戒が必要だ。


 俺はフードを深く被り直し、視線を石畳に落として歩く。声を出すことも躊躇っていたのだが、やがて、口を開かざるを得なくなった。


「お、おいベラ、こっちは本拠地(ホーム)じゃないだろ」


 一流パーティは、パーティメンバーが日々を過ごすための巨大な住居を持っていることが多い。当然【マイヤー・ユナイテッド】も例に漏れず、メイド含めて百人は住める屋敷を所有しているのだ。


 そのホームへと向かう道を傍目に、ベラはズンズン進んで行こうとする。俺が再び「おい、ベラ!」と声をかけると、ベラは振り返りもしないで答えた。


「アルフォード様が、別の場所がいいらしいの」


「そ、そうか」


 できることなら、人目のない場所がいいんだが、今の俺がわがままをいうわけにもいかない。しかし、ホームを避けるのになんの意味があるんだ?

 えもいわれぬ不安感に襲われながら辿りついたのは、マイヤー家が運営する闘技場だった。


「闘技場? 話し合いには向いてないだろ?」


 ベラは俺の質問に答えずに、ズンズンと進んでいく。

 ベラを見た門番たちが敬礼して道を開けるので、そのままスムーズに闘技場に入る。すると、外からでもある程度伺えた観客たちの興奮が、闘技場の揺れによって直接的に伝わってくる。


 マルゼンで暮らす連中の目は、争いに肥えている。そんな奴らが盛り上がるということは……それだけの見せ物が、始まるということだ。

 ベラは観客席へと続く階段を気にも止めず、円形闘技場の中央、アレーナへと向かう通路をずんずん進んでいく。俺を掴む手はやけに力強く、肌に食い込んだ爪がもたらす痛みがさらなる不安感を煽る。


「お、おい、ベラ? こっちは、出場者用だろ?」


「…………」


 ここでやっと、ベラは俺の方に振り返った。驚く。

 らしくない、大人の女の微笑。


「ごめんなさい、ザマァル」


「……あ、謝ることなんて何もないだろ。ベラには、本当に感謝してるんだ。こんな俺を、復帰させてくれるために、頑張ってくれたんだろ?」


 ベラは答えず、俺の後ろに回り込む。


「っ!?!?!?」


 背中に、強い衝撃。

 ベラが結界魔法の守る対象に俺を含めず、弾き飛ばされたのだと気付いた時には、魔道具による目映い光と割れんばかりの歓声に晒される。


 俺は状況が理解できず、ただただ衝撃による呼吸困難から脱するためにうずくまっていると、後ろ髪のあたりがむんずと掴まれ、そのまま物凄い力で引っ張っられた。


「やあ、ザマァル、久しぶりだね」


 この怪力の時点で、その手の正体がアルフォードなのは想像がついた。しかし、手を振り払い顔をあげた時、一瞬別人かと思う。


 なにせ、気味が悪いくらいに満面の笑みだ。アルフォードが笑ったところなんて、今まで見たことがない。


「おい、アルフォー、ド……どうなってんだっ、これは!!」


 呼吸を整え叫ぶと、アルフォードは人差し指を口に立てて、観客が静まるのを待った。

 そして、くるりと身体を回転させると、観客に優雅に一礼してみせる。


「皆の衆、今回は、ザマァル・ノーランドの、【マイヤー・ユナイテッド】再入団を賭けた決闘のために集まってくれてどうもありがとう!」


「……は?」


 観衆の大歓声が歪んで聞こえる中、アルフォードの生き生きとした声だけやけにはっきりとしていた。


「というのも、どうやら彼は、私たちが彼を追放したことに不満を持っているらしい!! そして、この観衆の中にも、ザマァルと同意見のものもいるだろう!!」


 すると、観客の中から一部賛同の声が上がる。アルフォードは、理解を示すように頷いてみせた。


「虹色の蕾の持ち主がハズレスキルを引くなんてことは前例のないことなので、信じられないのも仕方がない! しかし、中には私がザマァルを追放するために嘘をついている、などと言うくだらない噂も出て来ていることは許しがたい! そこで、今回の決闘を承諾したと言うわけだ!」


 アルフォードは怒りに声を震わせたのも束の間、再びあふれんばかりの笑顔を見せる。


「皆が気になっているのは、ザマァルの決闘相手だろう! もちろん弱いものではいけないし、私が相手をするのでは、不公平だと納得できないだろう!……そこで、こいつを用意した! メアリーヌ、アシュレーヌ!」


「「はぁい!」」


 対面の通路から、狼姉妹の声がした。ジャラジャラと音を立てて現れた二人の手には、太い鎖が握られている。

 その鎖に引っ張られて現れたのは、牛の顔をした人型の魔物。


 ミノタウ、ロス……。


「ご存知の通り、一ヶ月前、彼が倒したとされているミノタウロスは、このミノタウロスより二回り以上大きい個体だった! もしザマァルが当たりスキルを引いたのなら、この程度の大きさのミノタウロスなら簡単に殺せるはずだ!!」


 心臓がバクバクと嫌な音を立てる。

 脚の筋肉が、ビクビクと痙攣して、まるで逃げ出す準備をしているようだ……いや、それで良い。


 そう、逃げることは恥ではない。ていうか、逃げてすらいない。こいつが勝手に言い出したことなんだから、断って当たり前じゃねぇか。

 俺が踵を返して逃げ出そうとした時、先ほどまで正面にいたはずのアルフォードが、いつの間にか俺の後ろに回り込んでいた。


 そして、腰にさしていた《聖剣エクスカリバー》を、俺に差し出す。


「いざ、自分の実力を証明して見せろ、ザマァル・モーオソー!!」


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!! 俺はただ、ベラに呼ばれただけで、こんなの、聞いてないぞ!!」


「ほう、それはおかしいな。ベラには、お前にこの決闘を承諾させるよう、私から直々に命令したのだが」


「……っ」


 見ないようにしていた現実に頭を殴られ、言葉も出ない。べラが何も知らずに俺を連れてきたという、唯一の希望さえも失い、ぐにゃりと視界が歪んだ。


 ベラが、俺を騙していたのなら……それじゃあ、あの言葉も、嘘だったのかよ。

 通路の先にいるはずのベラに問いかけることもできずに、立ち尽くしている俺を、アルフォードは嘲笑う。


「私が厳命したのだ。もし遂行できなかったと言うのなら、ベラもお前と同じく【マイヤー・ユナイテッド】から追放しなくてはならないな。私たちを恐れて他のパーティはベラを雇うこともできないし、きっと彼女は路頭に迷うだろう」


「……クソが!」


 もしかしたら、ベラも騙されていた可能性がある。

 そんな希望に縋り付くようにエクスカリバーを受け取ると、割れんばかりの歓声が俺を殴りつけた。


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