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21. 『斬撃』

 

 『斬撃(スラッシュ)』。


 魔法というのは、基本的に親のものを引き継ぐのがほとんどだ。

 田舎村の冴えない農民だったババアには持て余すはずの魔法だが、日常的に俺に向けてよく使ってくれたもんなので、俺もだいたい使い方はわかっている。


 しかし、このまま『斬撃(スラッシュ)』を放ってしまえば、コカリトスの前にマインに当たってしまう。マインに当てず、コカリトスに当たる角度に回り込まないといけない。

 その結果、マインの乳首を拝み倒したとして、一体誰が責められると言うのか(反語)。

 俺は、マインに気づかれないよう茂みをゆっくりと移動する。


「ちょっと!! 移動してんでしょあんた!! そのまま動くな!! 見えちゃうから!!」


 しかし、獣人の聴覚はごまかせなかったようだ。当然無視だ。

 そして、この騒ぎの中未だ眠りこける鳥頭の、間抜けな面が見えるところまで来て、後ろからでもはみ出ていたマインの横乳も見え始める。

 よし、夢に見たマインの乳首が見えるぞ!!!! やったぁ!!!!!


「ああもう、マインのスキル、もっと気合入れてよ!!」


 すると、マインがこんなことを言い出した。

 馬鹿を言うな、魔法じゃないんだから、スキルは気合でどうにでもならない、と思ったのもつかの間、灰色に染まっていたマインの腕が、スルスル戻っていく。


「マジかよ!?」


 俺が衝撃に出遅れているうちに、マインは猫の俊敏性を利用して、すぐさま自分のツインテールを解くと、自分の黒髪を乳の前に垂らす。その上で自分の腕で巨大な乳を覆い隠すと、再び腕は石化した。


「あぶなっ、あぶなかったぁ!! ギリギリセーフ!!」


 マインが歓喜の声をあげ、俺はがくりと膝をついた。


「ザマァル、残念でしたぁ! これでマインの乳首は守られました! やったぁ!」


 ……はぁ? 乳首を隠せたらセーフっていう考えがおかしくないか? 女は乳首を隠してるだけでおっぱいを隠しているつもりかもしれないが、それ、大いに間違ってるから。乳首なんて男にもついてるし、こっちは全然気にしてない。あくまで脂肪の塊のほうに興奮してるだけだから。


「悔しい」


 嘘だ。めちゃくちゃ悔しい。なんならミノタウロスにボコられた時より全然悔しい。なんならマインの乳首を見るために“服だけ透けて見える魔道具(メガネ)”を十万ピルスで買ったことある。透けるどころか曇ってて、そのまま外に出たらドブにハマって悔し泣きしたことを思い出す。


 クソ、こんだけ敗北感を与えられたら、『ざまぁ(笑)』さえ出来そうにない。最悪……いや、違うぞ。

 だって、俺がスキルを得てから唯一『ざまぁ(笑)』できたのが、ミノタウロスに負けた直後じゃねぇか。

 考えろ。ここからマインに、『ざまぁ(笑)』できる方法を……。


「乳輪デッカ!!!!」


 もはやコカリトスが起きるとかどうでもいいので、この森全土に聞こえるくらいにでっかい声でこう叫んでやった


「……は、はぁ!? 全然でかくないんですけど!? 見れなかったからって適当言わないで!!」


 確かに見えなかった。しかし、その隠し方から、俺は奴の乳首がデカいのではないかと思い当たったのだ。

 わざわざ、乳が完全にさらされるリスクを鑑みると、すぐに手で隠したり、ツインテールのまま髪ブラをすればよかったはずだ。


 しかし、マインはわざわざ髪飾りを引きちぎるという無駄な過程を踏んででも、髪ブラをし、その上から手ブラをするという徹底ぶり。

 つまり、奴の乳首は、奴の細腕や、ツインテールの髪幅では隠せないほどのデカブツであると言うことを示唆しているのではないか。


 そして何より、デカ乳の乳首はデカい方がいいに決まってる。賭けるだけの価値(ロマン)があるんだ。


「デッカ!!! デッカ!!! デッカ!!! マインの乳首デッカ!!!! 魔物の森の皆さん、マインの乳首でっかいですよぉ!!!」


「でかくないもん! 誤情報流さないで!」


「いいやデカいね! いやぁびっくりした!! あんなデカ乳首初めて見た!! お前がローランに捨てられそうなのもそのデカ乳首のせいじゃねぇか!!」


「酷い!! なんでそんなこと言うの!?」


「でも安心しろ!! ローレンと違って俺の性癖には合ってる!!」


「え、そ、そうなんだ……別に喜んでない!! ていうか乳首おっきくない!!」


「よし、それじゃあ早速、目に焼き付けたマインの乳首でシコるとするか!!」


「はぁ!?!? 何言ってんのあんた!! 外よ外!?」


「シコシコシコシコ」


「男の人ってシコるときにシコシコ言うの!? 怖い!!!」


 マインの涙ぐんだ声を聞くと、それだけでおかずにできそうなくらいに興奮する。

 なんなら本当にシコってやって、グラドルがただ男にシコられるためだけの職業だってことを分からせてやる。ざまぁみろってんだ……おっ。


 胸のところに、熱いものが込み上がってくるのを感じる。これは、この感覚は……!!


「あっつ!?!?」


「はぁ!? 熱いって、どんだけ激しくシコってんのよ!?!?」


「熱すぎる!! 火がついたみたいだ!!」


「火がついた!? おちんちんに!? ねぇ大丈夫!?」


 俺は返事する余裕もなく、その場でのたうち回る。


 二回目とあって覚悟ができていたおかげか、一度目と比べると苦しくない。「ちょっと!? さっきからすごい音してるけど、どんなシコり方したらそんな音でんのよ!?」とマインが泣き叫ぶのを聞くと、気分も良くなってきた。


「……ふぅ」


「ふぅって! 完全にシコり終えてんじゃない! もう、もうっ!」


 熱に耐え終えた俺は、すぐさまステータスを確認する。


ザマァル・ノーランド 人族


 ステータス 


      現在値     未来値

 力    15+4    24+8

 体力   32+5    45+8

 敏捷   25+5    35+9

 魔力   13+2    23+5

 才能   11+2    11+2


魔法

 『斬撃』


スキル 

 『ざまぁ(笑)』


「……あれ?」


「あれって何よ! もしかして思ったより少なかった!? ふざけんじゃないわよ! 私でシコるならどうせならいっぱい出しなさいよ!! 出せ!!!」

 

 前よりも上がり率が低いな。熱も大したことなかったし……『ざまぁ(笑)』の度合いによって、ステータスの上がり方も変わってくるのかもしれない。


「チッ、使えねぇ」


「はぁ!? 使えないってことはないでしょうよ!! ちゃんと使えた結果の「……ふぅ」でしょうが!」


「うるさいなぁ……」


「うるさいって何よ!! 賢者モードってこと!? 賢者ってそんな態度悪いの!?」


 あ、まずい。『ざまぁ(笑)』に夢中になって、マインの好感度を思っきし下げてしまった。

 せめて、とっとと助けてやろう。それに、石化が解けたら、デカ乳首を見れるチャンスだし。

 草陰から、コカリトスの方を伺う。


 野郎、これだけの騒ぎを起こしていると言うのに未だに寝こけているのは、俺たちを敵とすら思っていないってか。その鳥頭、ぶった切ってやるよ。


 一つの身体に二つの頭。一体どちらに主導権があるのかは、非常に簡単に破断できる。大蛇の頭を切り落としてもコカリトスは活動を続けることができるが、鶏の頭を切り落とすと、コカリトスは絶命するのだ。


 俺はカタナを抜刀して、上段に構える。そして、魔法名を唱えた。


「……斬撃(スラッシュ)


 ぞくんと身体の中から何かが抜け出す感覚。ステータスの石版を出した時と、感覚が非常に似ている。


 見ると、俺のカタナに、白い光が帯び始めている。このまま振り下ろせば、この魔力のヤイバが飛んで行くと言う仕組みで間違いないはずだ。確か、剣ごと放り投げるぐらいの感覚がいいとか、あのババア、言ってたっけな。

 俺は、奴のトサカに狙いを定め、勢いよく振り下ろした。


 ビュン。


「よし!」


 上手くいった。カタナにまとわりついた魔力はカタナから離れ、コカリトスの鶏頭に向かって、ちょうど俺が全力疾走したくらいの速さで向かっていく。随分と出来が悪いが、速度は悪くない。やはり、魔力量は正義ってところか。


 鶏頭がパチクリと瞬きをした。やっとこさ危機感を覚えたようだが、もう遅い。


「ぐるぎゅ!?!?」


 コカリトスの眉間に、魔力の斬撃が直撃。コカリトスは甲高い悲鳴をあげた……が、鶏頭は健在。

 小さな目を滾らせながら、トサカを怒りに振り乱しながら起き上がる。遅れて、眉間からつぅっと真っ赤な血が白い毛を濡らした。


「おいおい、俺の渾身の一撃があの程度のダメージかよ! コカリトスって柔らかい魔物って話だったんだけどな!」


 これは流石に計算外だ。


 本体が攻撃を食らっても、大蛇の方はマインから目を逸らそうとしない。そのおかげで俺に襲いかかろうとするコカリトスの動きも止まり、新手のパントマイムのようになっている。俺はもう一度斬撃の準備をした。


 今度は、立ち上がったことによって露わになった脚を狙う。巨体に似合わぬ細脚に斬撃を食らわせると、コカリトスが悲鳴をあげて、身体がぐらりと揺れた。


 ズドンと音を立てて。すると、大蛇の方もハッとなっての鶏頭の方を見る。マインの石化がみるみるうちに治って行くので、俺は叫んだ。


「おいマイン、とっとと逃げろ!!」


「うっ、うん!」


 マインが振り返り、しっかりおっぱいを隠しながらこちらめがけて走ってくる。おいおい、命が懸かってる場面でおっぱい隠すバカがいるかよ。


 しかし、希望を捨ててはいけない。奴の細腕じゃ抑えは効かない。確実にこぼれ落ちるはず……。


「……あ」


 そうか、下半身の石化が解けることによって、先ほどおっぱいで起こったことと同じことが起こるんだ。

 石化したビキニショーツは、元々の薄っぺらさから、

 獣人なんだ、異様な毛深さによって一切合切何も見えず、落胆させられるに違いな……。


「パイパン、だと……!?」


「死んでぇぇぇぇ!!!」


 俺がち○こを取り出す前に、マインの低空ドロップキックが、おれのち○こに突き刺さったのだった。


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