20. コカリトス
流石冒険者ギルドの飛龍だ。奥地の密林エリアまで、ものの三十分で到着した。
代金はあの二人の冒険者もちということだったので、返さず待っておいてもらうことにする。密林エリアにある大木には飛龍が留まるための巣箱がある。そこに飛龍を置いて、それから俺たちは、地図を頼りにコカリトスの巣があると言われている場所へと向かう。
驚いたのは、ここまで自然に溢れていると言うのに、そこにたどり着くまで魔物を一匹も見なかったことだ。
助かったといえば助かったが、魔物が近づかないほど、コカリトスが恐れられていると言うことでもある。ちょっとした魔物と闘って帰ろうと言う俺の目論見も外れてしまったのだった。
「……いた」
コカリトスだ。
密林を抜けると、崖にぶつかる。その崖には、巨大な丸い玉がぶつかったかのようにえぐれていて、コカリトスの巣はそこにあった。
自分の巣に陣取って、腹の下で卵を温めながら、いびきを立てている、のは鶏頭の方。
大蛇の尾っぽの方は別で、チロチロと舌を出しながら蛇の頭を右往左往させている。
俺たちのような弱者が強者に勝つには、相手の不意を突くのが一番なわけだが、コカリトスにはそれも通用しないということだ。
座り込んであの大きさなら、体長は五メートルってところか。有効打をとるとしたら脚くらいだが、爪の猛毒のことを考えると近づきたくない。しかし、遠目から『斬撃』を喰らわせれば……馬鹿、考えるなそんなこと。
臭いに敏感でないのと、コカリトスに警戒してどんな魔物も近づきたがらないので油断しているのか、俺たちに気づいていないのが救いだ。とっととずらかるとしよう。
「な、あの化け物にビキニアーマーなんかで挑もうなんて、新手の企画系アダルト水晶でもやらないぜ。ほら、帰るぞ」
「何言ってんの! ちょっとデカいだけの鳥じゃない!! 行くわよ!!!」
「おいおいマジかよ!?」
しかし、マインはローブを脱ぎ捨てると、ビキニアーマー一つになり、ぴょんと茂みを飛び出していった。
当然、尻尾の大蛇はあっさりとマインを見つけた……が、一旦視線を逸らし、「えっ」ともう一度マインを見る。
どうやらコカリトスでも二度見してしまうくらい、ビキニアーマーって衝撃的な装備らしい。あの大蛇の視線の視線を逸らさせるなんて、案外、新たな戦術として有用かもしれないな。
「ほら、かかって来なさいよこの変質者! シュシュ、シュシュシュ!!」
しかし、その大蛇頭に向けてシャドーボクシングを始めたマインに苛立ったのか、すぐさまぎろりと目を剥く。
「フルシュシュ……!」
そして、ビカリ、と大蛇の目が光った。
来た、石化の魔法だ。対象はマインのはずだが、一応警戒して目を逸らしておく。
「ちょ、ちょちょちょちょ! 何よこれ!?」
すると、マインの素っ頓狂な悲鳴が聞こえて来たので、思わず嬉しくなってしまって顔を上げてしまった。
マインは尻尾をビンと立て、直立不動。見れば、足元からビキビキと音を立てて、石化が始まっていた。
このままでは、頭の先まで完全に石化し、死に至る、はずなのだが……。
「な、何これ!? 何が起こってんのよ!?」
石化の魔法が胸元まで達したところで、ピタリと石化が止まり、逆にカチカチになっていた背中が、元の白くて滑らかな肌に戻って行く。
「おお……!」
予想通りとはいえ、実際にこうなると驚きが勝つものだ。本当、今まで冒険者をやってないってのは宝の持ち腐れすぎる。
コカリトスの石化は、その魔法体系こそわかっていないが、超高度な回復魔法で治すことができる。
つまり、マインの『回復強化【特大】』なら、コカリトスの石化でさえ、無効化とまで行かないまでも、同時に治すことができるというわけだ。
蛇睨みの最中は、大蛇もマインから視線を逸らすことができないので、その尾っぽにつられて、鶏の方も動きが固まってしまう。その間に鶏の方の首を切り落とすのが、一番被害を出さないコカリトスの殺し方ともいえる。
つまり、仲間を一人犠牲にすれば、案外殺せないこともない魔物であり、コカリトスのクエストを受けたパーティは、仲間が死のうが、生きて帰ってこようが、不仲になり解散すると言われている。
あの冒険者二人が俺に同情的な目を向けたのも、俺がビキニアーマーに吊られた結果、石にされると思ったのだろう。実際のところは逆になったわけだが。
「ちょ、ちょっと!! ザマァル助けなさいよ!! 助けてぇ!!!」
「ふふふ」
おっ。
俺は口元にやる。唇は三日月型だ。こんなふうに自然に笑えたのは、いつぶりのことだろう。
これ、『ざまぁ(笑)』のチャンスじゃないか?このままマインが恐怖に絶叫し続けるのを肴に『ざまぁ(笑)』すれば、ステータスアップできる予感がする。
昨日はせっかくの『ざまぁ(笑)』チャンスを逃しちまったからな。今からコカリトスに『斬撃』を放つとして、今のステータスじゃ一撃で殺せるかは怪しいところだし、
ローレンのやつを地獄に落とすため、マインは必要なカードだ。ステータスが上がり次第助けないとな。
「ちょ、ちょちょちょちょっ!?!?」
すると、ただでさえ騒がしかったマインが悲鳴をあげる。顔をあげて、俺は思わず「おっ!?」と茂みから立ち上がった。
石化した身体はマインのスキルで治って行くが、ビキニアーマーの石化は治りはしない。
革製のビキニが石になって重くなり、当然あの柔らかなおっぱいが支えるには限界があるはずだ。
ぶるんっ。
「きゃぁっ!?!?」
俺の予想通り、石のビキニはズレ落ちて、飛龍を苦しめたデカケツに引っかかった。腕はまだ石化しているので、隠すこともできない。
つまり、今、マインはナマ乳をごっそり放り出していると言うわけだ。
「ちょっとザマァル!! 今すっごくまずい状態だから、絶対こっちに来ないでね!?」
「……はぁ」
仕方ない。『ざまぁ(笑)』なんて言ってないで、助けてやるとするかぁ。
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