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2. 追放、からの復帰

新連載開始しました!

今日中にあと三話アップします! 


『七人目の虹色の蕾の持ち主、ザマァル・モーオソー、ハズレスキルを引いたのは自業自得!? 善行とは程遠いクズ男の実態!!』


「うるせぇばぁか!!」


 胸糞悪い見出しがデカデカと書かれた『週刊武春』をシミだらけの天井に投げつけると、ぶつかることもなく俺の顔に落ちてくる。雑誌の背が鼻にあたり、ツンとした痛みに涙が出た。


 自分の間抜けさにため息をつくことさえ億劫で、しばらくの間そうやってベッドで寝転んでいると、えも言われぬ不安感に襲われる。

 俺は週刊武春を投げ捨ててベッドから起き上がると、床に落ちている週刊武春を拾い上げた……投げたやつじゃなくって、血に塗れた週刊武春だ。


 俺のスキルが開花したあの日、読んでいた週刊武春。今俺が持っている中で、俺の悪口が書かれていない唯一の武春でもある。


「……チッ、良い女だな」


 血の赤に彩られたマインは、それでも艶かしく、なによりあの頃より圧倒的に遠い。

 まさかのハズレスキルを引き、マイヤー家から追放され、殺される前に田舎に逃げ帰ってきた俺からすれば、ただのグラドルも、二度と手の届かない存在なわけだ……。


 これ以上頭でものを考えると近くの崖から身投げしてしまいそうなので、下半身でものを考えることにした。

 俺はつぎはぎだらけのズボンを脱ぎ捨てて、ふにゃふにゃの()()を握った、その時。


「ちょっとザマァル! あんたいつまで引きこもってるつもりなの!?」


「……チッ」


 ノックもなしに、ドアノブがガチャガチャと捻られる。

 このまま開かれたら大惨事だったが、俺だってバカじゃない。無神経な母親対策として、ドアの前にタンスを置いておいたのだ。


「こら、ザマァル!! あんた、親を部屋に入れないってどういうつもりなの!!!」


 ドンドンとドアを叩く音に、集中力が妨げられる。しかし返事するとロクなことがないので、黙って扱き始める。


「ザマァル!! 開けなさい!!!」


 ノックはさらに激しくなり、俺の()()は一切元気にならない。俺は耳を塞いだが、耳を塞げばち○こが扱けない。

 『耳を塞げばち○こ扱けぬ』。なんだろう、ことわざにできそうだな。言語学者としてセカンドキャリアも考えなくちゃいけないんじゃねぇか?


 ふと、ノックの音がしなくなったので、俺は扱きを再開する。しかし、嫌な予感に、俺の()()はうんともすんとも言わなくなってしまった。


「……『斬撃(スラッシュ)』」


 ひゅん、と風を切る音。


 扉とタンスをあっさり真っ二つにした魔力の斬撃が、俺めがけて飛んでくる。


 俺はすぐさま自分の()()をぐいっと左に曲げて、自分の()()を曲げられた方向に転がってしまう人間の習性を利用し、ぐるんと転がりすんでのところで回避する。

 斬撃は、壁をぶった切って消えていった。悲鳴が聞こえたってことは、隣の村長家も切り裂いていったんだろう。まぁそれは構わない。


「ババア、テメェ何してんだ!?!?!?」


 ドアとタンスを蹴って部屋に入ってきたババアは、俺を見て目を見開く。


「もう、あんた、皮オナはやめなさいってあれほど言ったでしょ! 皮がのびのびの男の子が好きな女の子なんていないわよ! ただでさえあんた、本体がちっちゃいんだから!」


「ババアテメェ殺すぞ!!」


 無神経とかそういうレベルじゃねぇ。マジでイかれてやがる。

 しかし、ババアはまるで自分が被害者かのように自分の体を抱く。


「そ、そんな、実の母を犯すだなんて! ああ、女神様! 息子に劣情を抱かせるくらいすけべに熟れた私をお許しください!」


「誰が犯すっつった!! 殺すっつったんだよ!!!」


「殺した後に犯すの!?!? なんでそんな子に育っちゃったのよ!!」


「お前マジ黙れや!!!」


「せめて犯した後に殺しなさいよ!!」


「頼むから黙ってくれ!!!」


 週刊誌の連中はわかっていない。こんな親の元に生まれたから、俺はハズレスキルを引かされたんだ。


 本当に殺してやろうかとズボンを履いて立ち上がると、ババアはすぐさま、「ああ、ごめんなさい! もう黙りますのでどうかお命だけは!!」と、本気の命乞いをしてみせる。


 俺がもう少し子供だったら、一生モンのトラウマになってるくらい情けない。お陰で、殺す気も失せた。


「……それで、用件なんだけどね」


「おい、黙るって言ったところだろうが」


「そうもいかないのよ。あんたの友達が来てくれたんだから」


「お友達……?」 


 あいにく、俺にそんなものはいない。


 大方、俺にまだ貯蓄があると思って、俺から金を搾り取ろうと画策する野郎か。あるいは、週刊記者のルルゥかもしれない……どっちにせよ、ち○こを見せつけて追い返してやる。


 俺は再びズボンを脱ぎ捨てて、「おい、いるなら姿を見せろ!!!」と怒鳴りつけてやる。

 すると、恐る恐るのぞいた金髪に、思わず息を呑んだ。


「ザ、ザマァル、久しぶり」


 現れたのは、耳まで真っ赤になって俺の股間を凝視するベラだった。


 

 -----



「よくもまぁ、アルフォードが許可したな。繁忙期だろ」


 春になると魔物が増え、森から溢れ出した奴らが村々を襲う。【マイヤー・ユナイテッド】ほどのパーティとなると、そんな下々の民を守る義務があるのだ。


 魔法『結界【僅僅】』と、スキル『魔法効果範囲拡大【特大】』によって、本来は自分一人しか守れない結界魔法の効果を拡大し、村一つを守ることができるこの国最高の結界師、ベラを休ませる余裕などないだろう。


「あ、うん。両親と兄と妹が危篤だって嘘ついて……」


「おいおい、一人に絞った方がリアリティ出るぞ」


 アルフォードがこの程度の嘘を見抜けないとも思えないので、分かって送り出したのか。意外だな。


「で、何の用だ? わざわざ、こんな田舎村まで来て」


 俺の問いに、ベラは床に正座して、深々と俺に頭を下げた。

 手入れされた金髪が汚い床に垂れ、なんだか俺が悪いことをしている気分になる。


「その、本当に、ごめんなさい」


「……ベラが俺に謝ることなんて一つもないだろ。俺から謝ることはいくらでもあるけどな」


 ベラは、頭を下げたまま首を横に振る。


「そんなことない! ザマァルが追放されるの、止められなかったから」


「そりゃあな」


 止められるわけがない。アルフォードの父親であり、マイヤー家の長であるニュルン・マイヤーが、俺を追放するよう命じたのだ。逆らえるとしたら、この国の王くらいのものだろう。


「……用はそれだけか? それじゃあ、すぐに帰った方がいい」


 これ以上、惨めな姿をベラに見られたくないというのもあるが、ベラはもう、俺と関わるべき人間じゃない。


 ベラとは、同じ時期に【マイヤー・ユナイテッド】に入団した同じ農民出身者ってこともあって、ずっと仲良くやってきたが、今や一般庶民とエリート冒険者だ。マインよりも、よっぽど超えられない壁があるんだ。

 

 しかし、ベラは首を振った。


「ううん、その、本題はここからで……アルフォード様に頼んだの。その、ザマァルを、パーティに復帰させてくれないかって」


「へぇ。そうか、それでどうだった?」


「それがね! アルフォード様、是非にだって!」


「……は!?」


 ……なんだそれ、ありえない。

 俺が次期当主のライバルではなくなったとはいえ、あいつは俺という人間を根本的に嫌っているはずだ。


 そんなアルフォードが、俺の復帰を支持した? 一ヶ月まともに動かしていなかった頭じゃ、真っ当な理由がつきそうにない。


「だから、今から私と一緒にマルゼンに戻ろ? 【マイヤー・ユナイテッド】に復帰できたら、これ以上、ザマァルが肩身の狭い思いをしなくていいと思うんだ」


 ベラは立ち上がり、俺に手を差し伸べてくる。反射的に動いた自分の手が恥ずかしくて、誤魔化すようにそっぽを向いた。


「馬鹿言うなよ。復帰したところで、俺に何ができるってんだよ。完全ハズレスキルの人族冒険者なんか、なんの役に立たないだろうが」


「そんなことない! アルフォード様は、ザマァルを守るために戦わせなかったけど、ザマァルだったら一人でもミノタウロスを倒せるよ!」


 ステータスを見なくてもわかる、見え透いた嘘だ。

 流石にベラも無茶があるとわかったのか、俯いてしまう。しかし、諦めて帰る様子がないのだから、聞きたくもなる。


「どうしてだよ」


「え?」


「どうして、俺を連れ戻そうとするんだ。今の俺はただの底辺農民なんだから、優しくしたところで何の得もないんだぞ」


 込み上がってくるものを堪えるために、薄っぺらいシーツの下の藁を思い切り掴む。


「いや、得がないどころか、むしろ損するな。なにせ俺は、女神様にざまぁされちまうようなクズだ。関わるだけで不吉だ」


 自嘲気味の笑いが、つい口から漏れる。こんな姿をベラに見せてしまっていることが、ただただ情けなかった。

 

「悪いが、復帰する気はさらさらねぇし、ひとまずマルゼンに戻るつもりもねぇ! 今の俺があんなとこにいたら、どんな目に合わされるかわかったもんじゃねぇからな! 俺はこのくそったれな人生を、この田舎村で孤独に終えるんだよ!」


「……嫌」


「ああ、お前からしたら嫌で嫌で仕方ないだろうな。だが、今の俺には勿体無いくらいだ」


 ベラは子供のようにブンブンと首を振り、青玉色の瞳を涙に輝かせて俺を見た。


「私が、嫌なの……ザマァルには、そばにいてほしいから」


「っ」


 女神様にざまぁされたこの俺に? あり得ない。なんなら俺ですら、俺から離れたいと思ってんだぞ。


「なんで、だよ、なんで、俺なんかと」


 ベラは、俺を上目遣いで見る。潤んだ瞳は熱を帯び、場違いにも可愛いなと思う。


「ザマァルのこと、好きだからだよ」


「……なんだって?」


 聞き間違いと思い聞き返すと、「もう、ちゃんと聞いてよ」と、ベラが苦笑する。


「ザマァルは、私が銀の蕾でも、他の団員みたいに、見下さないでいてくれた。それどころか、私なんかにずっと優しくしてくれて……そんなの、好きになっちゃうよ」


「…………」


 嬉しい、という感情の前に、やってきたのは罪悪感だった。


「……それは、初期の頃の俺の話だろ? 今は、見る影もねぇ。女神様のおっしゃる通り、どうしようもねぇクズに成り下がっちまった」


 ベラは、少し笑って、首を振る。


「それも、優しいからだよ。私は、すぐに受け入れちゃったけど、ザマァルは、無抵抗の魔物を殺すの、本当に嫌がってたから、精神的に辛くなっちゃったんだよ……みんなはザマァルのこと、クズだって言うけど、私はそうは思わない。優しいから、そうなっちゃったんだよ」


「……っ」


「ザマァルは、優しいよ。そんな人が、こんな扱いを受けるなんて、間違ってる。だから、ね、一緒にいこ……?」


 ……ああ、くそ、罪悪感なんてふっとんじまった。


 貴族だからでも、虹色の蕾の持ち主だからでもない。

 そのままの俺を好きでいてくれる最高の女がそばにいたのに、なんで、今の今まで気づかなかったんだ。


 俺も、ベラのそばにいたい。


 クズになっちまった俺でも、ベラのそばにいたら、真っ当な人間に戻れる。

 それは決して、俺のためだけじゃない。ベラのためにもそうするべきだし、そうしたいと思えるのは、きっと、俺もベラのことを好きだからなんだ。


「やり直せるかな、俺」


「っ! うんっ! やり直せる! やり直せるよ!」


「……そっか、そうだよな」


 俺は、差し出された手をとった。一ヶ月ぶりの人肌は思いの外冷たかったが、それでも泣きたくなるくらいに暖かく感じた。


今日中に残り三話投稿します!


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