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14. ホストクラブ

今日も三話投稿予定です!


「ザマァルくんの、もっといいとこ見てみたーいっ」


「それイッキ! イッキ! イッキ!」


「……クソが」


 俺は舌打ちをしてから、ゴブリン一匹が収まりそうなジョッキに。並々そそがれたぶどう酒を煽る。強烈なアルコールに視界がぐらりと回転し、嘔吐感が腹の底から込み上がってきた。


 しかし、吐き出そうものならホスト冒険者どもにボコボコに殴られるので、耐えるしかない。

 なんとかジョッキを空にすると、下品な歓声が上がる。ただでさえ天井から吊るされた魔道具の光でギラギラ輝く視界がパチパチと弾け、身体がぐらりと揺れた。


「おいおい、ザマァルくん大丈夫? まだ倒れたらだめだよー?」


 そんな俺の真正面。このホストクラブで一番真っ赤なソファにどかっと座り、二人の太客女をはべらかしながら、俺を嘲笑うのはローレンだ。

 もちろん今日は全裸ではなく、冒険者がホストをしていると言うコンセプト通り、いつもの豪奢な全身鎧だ。

 鎧のせいで表情は伺えないが、きっと俺の顔に似合う嫌味ったらしい笑みを浮かべてんだろう。


「それじゃ、今度はこのフルーツ盛りを一気喰いと行こうか」


 ローレンが、シャンパンの空き瓶を払い除けて、俺の目の前に山盛りのフルーツを置いた。“ヘルプ”の他のホストどもが、再びコールを始める。


「あ、あの、ローレンくん?」


 すると、先ほどからこの狂乱に乗り切れていないローレンの太客が、おずおずと喋り出した。


「ちょ、ちょっと、やりすぎじゃ、ないかな。ザマァルくん、このままだと死んじゃうよ?」


 すると、取り巻きのホストどもがピタリとコールを止める。周りが騒がしい中、この席だけは、ローレンの鎧がかちゃかちゃぶつかる音だけが響く。

 ローレンの籠手が、太客女の顔を掴み、グイッと力任せに自分の方を向かせる。女の悲鳴がただでさえ痛む頭に響いた。


「へぇ。そーいうこと言うんだ。何、ザマァルくんに推し変しちゃったわけ?」


「そ、そんなことない!! 私は一生ローレンの担当だよ!!」


 太客女は、縦ロールを揺らして否定する。

 しかしローレンは、鎧の隙間からジッと女を見つめる。緊迫した空気に、女はブルブルと肩を震わせる。


「おい、ローレン」


 俺が沈黙を破ると、ローレンの兜がこちらを見る。不気味だからいい加減やめてくんねぇかな。ていうか、俺と似てるからそうやって顔隠してんじゃねぇだろうな? クソ失礼だなこの野郎。


「なに? ザマァルくん。初めて担当がついてくれそうだから調子に乗ってる?」


「……んなこと、どうでもいいんだよ。それ、食うから、とっとと寄越せ」


 俺がフルーツ盛りを指差すと、ローレンはしばらくの間固まってから、フンと鼻をならした。そして、フルーツ盛りを蹴ってこっちに寄越した。


「吐いたら死刑ね。ほらみんな、コールよろしく!」


 フォークを手に取ろうとしたが震えて落としてしまう。手、というか、全身に力が入らないので、俺は大皿から溢れんばかりのフルーツに、顔ごとダイブしてやった。


「おい、なに気絶してんだ、ローレンさんが許可したかコラ!……おいおいマテマテ、こいつ犬食いしてるぜ!?」


 取り巻きのバカホストどもが大はしゃぎして、俺の後頭部を強く叩く。

 意識が飛びそうになったが、このまま気絶すればこいつらを喜ばせるだけなので、フルーツを名一杯頬張り、口いっぱいに広がる酸味で気つけをした。


 しかし、止めようとしてくれた太客女含め、ローレンの太客どもは、どうして顔を隠して素顔もわからないこのクソ野郎に、信じられねぇ額貢ぐんだろうな。

 今日だけでシャンパン三本にフルーツ盛りを頼んでやがる。しかも、二人まとめて接客されてるってのに、文句の一つも言わねぇ。


 ローレンの太客は、なぜか異様に美人が多いから、男なんかには困らないはずなんだがな。ま、ホストにハマるような女に、まともな思考を求める方が間違ってるか……。


「はい、時間切れー! 罰ゲーム!」


「ぐっ!?」


 ローレンに髪の毛を掴まれ、無理やり顔をあげさせられる。兜越しに表情は伺えないが、きっと俺の顔に似合うだろう嫌味ったらしい笑みを浮かべているんだろう。


「おい、ザマァルくんまともに歩けないみたいだから、お前ら連れてってあげて」


「「はいっ!」」


 俺は取り巻きどもに両脇を抱えられ、無理やり席から立たせられた。そして、このホストクラブの中央へと、ずるずる引きずられて行く。


「さて、それではこれからスペシャルショーを開催します!」


 ローレンがそう宣言すると、どっと歓声が起こる。その中には、野太い男の声も混じっていた。


 俺が借金のカタに、ホスト系冒険者パーティ、【ダンディ・エア】が経営するホストクラブにホストとして働くようになってからと言うもの、十割女だった客が、今や四割ほど男が混じるようになった。


 理由は簡単。これから行われる見世物が、奴らにとってはホストクラブに行く恥をかき消すほど楽しいものだからだ。

 ホストクラブの中央には、煌びやかに取り繕ったホストクラブには似つかわしくない、無骨な正方形の檻が鎮座している。


 中で俺を待つのは、一匹のスライム。周りの熱狂に怯えて、身を縮みこまらせている。


「はい、ザマァルくん入場でーっす」


 冒険者ホストたちは檻の扉を開けると、俺を檻の中に放り込む。すると、客たちは一斉に檻を取り囲んで、金網に指を食い込ませてガシャガシャ揺らし始めた。


「赤コーナー、三十センチ、二十一キロ、ゼロ戦ゼロ勝ゼロ敗、最弱の魔物、スラァァァァァイムッッ!!!!」


 ワッと歓声が起こる。きっと、どこの世界でも、スライムにここまで熱狂するのはここの客くらいだ。


「青コーナー、百七十五センチ、六十八キロ、十二戦ゼロ勝十二敗、最弱の虹色の蕾の所有者、ションベン垂らしのザマァル・モォォオソォォォォ!!!!!」


「ザマァル、死ねぇ!!!」


「このオワコンが!!!」


「お前がハズレスキルを引いたせいで他国の連中が調子に乗り始めたのだぞ!! この売国奴が!!」


 対して、俺の名が呼ばれた途端、観客からはブーイング。


 観客どもがガシャガシャと揺らす金網によっかかってなんとか立ち上がる。同時に、檻の隙間から、棒でスライムを突き出した。 

スライムはグネグネ嫌そうに身体をぐねらせ、やがて戦意に火がついたのか、金網に向かって体当たりを始める。


(……ああ、そうだ、俺たちの敵はそのクソホスト共だ)


 俺は願いを込めて心のうちで呟いたが、スライムはやがて金網越しの攻撃を諦める。そして、瞳こそないものの、明らかに敵意が俺の方に向いたのが分かった。クソが。どいつもこいつも馬鹿ばっかだ。


 スライムがぴょんぴょん跳ねて俺に向かってくる。俺は金網に背中をくっつけてやつを迎え入れてやろうとしたが、その時後ろから衝撃。


 誰かが金網越しに蹴りを入れやがったと怒る暇もなく、胸のところから込み上がってきた酸味の塊を飲み込むことができずに、俺は跪いて嘔吐した。


「おおっと!!! ザマァルのゲロ攻撃!! これじゃどっちが魔物かわかんねぇぞ!!」


 俺のフルーティなゲロは、俺に飛びかかろうとしていたスライムにぶっかかった。ドッと笑いが起こる。


 少なくともスライムは面白くなかったみたいで、怒り心頭といった様子で、まん丸の身体を刺刺にして、俺の腹に体当たりをしてくる。出切ったと思ったゲロが、再び込み上がって来る。


 これ以上腹に食らってはまずいと、自分のゲロの中に飛び込み、頭を抱えて身体を丸くする。すると、スライムは俺の身体の上で飛び跳ね始める。


「スライムの連続攻撃!! ザマァルなすすべなし!!」


 普段だったら大した攻撃ではないが、酒のせいですでにギリギリだった意識の糸が、きりきりと悲鳴をあげる。

 ああ、やべ……気絶、する。


「ノックアウトォォォォ!! ザマァル・モーオソー、どんだけ弱いんだよ!!」


 微睡む意識の中で、ルスランのクソッタレの宣言が響く。

 ああ、そうやって調子に乗っとけよ。絶対に、絶対に『ざまぁ笑』してやるからな……。


 ……。

 …………。

 …………びしゃん!


「ぐあっ!?」


 顔が弾けたような衝撃に起き上がる。変わらずにリングの上で、あたりはびしゃびし。アルコールの臭いがプンプンするので、どうやら顔に酒をかけられたようだ。

酒でぶっ倒れた男に対してあまりに趣味の悪い起こし方をしやがったルスランが、兜頭で俺の顔を覗き込み、大袈裟に拍手をした。、


「おめでとう、ザマァルくん!」


「……あぁ?」


「オイオイ、何怒ってんのー。せっかくこの一週間で初めて、君を本指名してくれるお姫様がやってきたんだぜ? アゲてけアゲてけー!!!」


「……あ?」


 ルスランが指差す方向を見て、ただでさえ血が上った頭がズキズキと悲鳴を上げた。


「やっ、やっほーザマァル、元気ぃ?」


 ショーが終わり、すっかり減った観客の中に一人、こちらに手を振るミミック系の女。


「……マイン、テメェ!!」


 俺は檻に囲まれていることも忘れて、マインに飛びかかった。結果、金網にぶつかると、ホストもは腹を抱えて笑い転げる。そんな中一人、マインだけは猫耳をビクビク震わせる。


「なっ、怒ってんのよ。ホストデビュー以来一回も本指名されてないあんたに、お客さんを連れてきたのよ!?」


「……お、お、お久しぶりです」


 マインのでかいケツから顔を出したのは、いつものツインテールをほどいたルルゥだった。



ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!

 

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