13. 騙された
「……な、は、えっ?」
一体何が起こってるかわからなくって、恐怖のあまり落としてしまった回復薬が地面に染み込んでいく様と、マインを交互に見比べることしかできなかった。
「ふしゃー! ふしゃー!! ふしゃー!!!……あっ」
マインは顔から煙を出しながら、俺を威嚇するだけする。そして、急にハッとなって、バタンと大袈裟に倒れると「う、ううううん……」と悶え始めた。
「ぴえんぴえん、痛い、痛いよぉ。痛みがないわけじゃないんだょ。ぴえん」
「…………」
俺はクソみたいな演技に合わせて揺れる乳を、ちぎらんばかりの勢いで揉みほぐしてやった。
マインは「んあっ!?」と再び間抜けな喘ぎ声を上げて、再びキッと俺を睨み付ける。
「ちょっとザマァル!? あんまり強く揉まないで!! 形崩れちゃうぢゃん!! クーパー靭帯を大切にしない男なんて最低! 治るからいいけど!!」
「お前、めちゃくちゃ元気じゃねぇか……」
少なくともこいつは、胸を揉まれて感じれるくらいには痛覚もなく、胸を揉まれることに抵抗を覚える程度には余裕があるってことだ。
すると、まだプスプスと音を立てる黒髪に、ローレンがゲンコツを食らわせた。
「いったーいっ!? もうローレン、何するの!?」
「テメェ……言っただろ! お前はずっと大人しくしとけってよぉ!!」
「あ……ご、ごめぇん、でも、もうザマァルサインしたんだし、別にいいじゃん!」
「馬鹿が!! お前が被害者の方が、こっからいろいろ都合がいいだろうが!!」
やはり、マインも今回の計画を知っていて、ローレンと一緒になって俺を騙していたのは確実だ。しかし、今はそんなことどうでもいい。
「お前、馬鹿か!! その傷跡、一生残るぞ!!……あ?」
俺は、先ほどまでは目を逸らさなくてはならないほどだったマインの顔を、マジマジと見つめる。
顔全体が焼き爛れ、目や歯茎がむき出しになっていて、しゃべることもままならなかったはずのマイン。
しかし、今の奴の顔には、パチリパチリと瞬きできるだけの瞼があり、綺麗に半円を描く唇も、なんならツヤツヤと輝いているくらいだった。
「……ひっ」
まだ、焼け爛れて血管が見えている部分もあるが、よくみれば、その血管、まるでイモムシかのようにうねうねと伸びて、他の血管と絡まり始めている。
そしてその上を、白くきめの細かい皮膚が、これまたにゅるにゅる這うように、マインの剥き出しの肉の上に覆いかぶさっていくのだ。
……なんだ、これ。幻術か? こいつに回復薬は飲ませてないし、ひとまず回復薬じゃこうはいかない。腐っても一流パーティで冒険者やってたんだ。そんなもんが存在するなら、エクスカリバーがネタ剣扱いされていたことだろう。
マインかローレンが、回復魔法持ちだったか。しかし、やはり腐っても一流パーティの一員だった経験がそれを否定する。
回復魔法に限らず、魔法の練度は魔力の総量による。獣人族と人族ではどう考えてもこんな回復魔法を使えるほど魔力量があるはずがない……いや、時折アルフォードのような、種族もクソもないバケモンが生まれることもあるから、否定はできないか。
だが、魔力量なんかよりおかしいのは、この二人が絶対に魔法名を唱えていないということだ。無詠唱? そんなの絵空事。ファンタジーだ。
……いや、そういうことに決まってる。先生にも、不可解なことがあればまずそれを疑えって教えられてたじゃねぇか。
スキル。女神様から与えられた祝福。
魔法や回復薬でもどうしようもないことでも、スキルなら実現可能だ。俺はそのことを、身を以て知ったばかりじゃねぇか。
「俺を、騙してやがったのか?」
俺がそう問いかけると、マインはすっかり元通り綺麗になった顔を歪めたのも束の間、フンと鼻息荒くこう言い放ってきた。
「そっ、そうよ? でもっ、何の文句もないわよねっ!? だってザマァル、金貨百枚の借金負うくらいマインのこと好きなんだから、この一週間楽しかったでしょ!? おっぱいも三回も触らせてあげたんだから、逆恨みしないで感謝して欲しいくらいだし!!」
「……はははっ」
ああ、こりゃなんとも、最高の展開だ。
なにせこれで、このクソ女がどれだけ惨たらしい死を迎えたところで、本気で『ざまぁ(笑)』と思える。
きっとその時の快楽も、それに比例するだろうステータスアップも、あの日とは比べ物にならないに違いないんだからよぉ……!
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