11. 大火傷。
今日は三話投稿予定です!
《マイヤー大森林》。冒険都市マルゼンを半円状に取り囲むように生い茂る大森林だ。
マルゼンは女神様の結界によって強い魔物が寄り付きにくくなっているので、森林を入ったところは弱い魔物が、奥に潜れば潜るほど強い魔物が出るようになっている。
また、森の中に一つダンジョンがあり、森では出てこないような魔物も生息しているので、初心者から玄人まで利用できる、冒険者にとって最高の狩場と言える。
マルゼンが冒険者街になっているのも、この大森林があってこそといえるだろう。
「ふんふんふ〜ん」
そんな魔物の巣窟に、俺は自称冒険者・マインと二人きりで歩いている。
流石にあのビキニアーマーは不味いことは分かっていたようで、先ほどのフリフリの地雷系ファッションのまま、ズカズカと森を歩く。だったらなんであのビキニアーマー買わせたんだよ。おかげですっからかんだよもう。買っちゃった俺も俺だけど。
今回受けたクエストは、マインの冒険証によって受注した、増殖傾向により森から間引く必要のあるスライムを狩る討伐ものだ。いわゆる雑魚狩りで、手軽く金が稼げるので俺としては助かったのだが……こいつの狙いはなんなんだ?
……まさか、青姦か!? クソ、そりゃぁ慣れっこだけどよぉ!
となると、俺たちの後を誰かがついてきていて、マインが俺に襲われたと叫んだところを、俺の肩をポンポンと叩くはずだ。
姿こそ見えないが、確かに俺たちを追ってきている気配を感じる……にしたって、なんでこんな場所を選んだのか不思議なもんだな。美人局をやるなら、すぐに衛兵に突き出すぞと脅せる場所がいいと思うんだがな
ここら一帯は結界の影響が強くてろくに魔物も寄り付かないので、魔物目的の冒険者たちも見当たらない。なのに、俺たちを追う者の気配を感じる、気がする……べっ、別に、残念だなんて思ってないんだからな!
にしたって、なんでこんな場所を選んだのか不思議なもんだな。美人局をやるなら、すぐに衛兵に突き出せる場所がいいと思うんだが。マインは結界の影響俺たちの周りには、その気配以外に人気もないぞ。だからこそ、気配を悟ることができたってのもあるしな。
……ま、美人局なんてやる連中がまともな思考ができるわけないから、考えても無駄か。
「……ボール」
「ん? 何か言ったか?」
「え、ううん、何も言ってないよ?」
「……そうか」
おかしいな。確かに、声が聞こえたような気がしたんだが……ま、冒険者が腐るほどいる森だ、奴らの声が木霊してきたんだ……。
「……あ?」
俺は辺りを見渡して、妙なものを見つけて立ち止まった。
斜め前、ここら一帯で一番大きな木のあたり。その真横に、ぷかぷかと浮いている赤の点があったのだ。
その赤の点は、最初は小さかったが、徐々に膨らんで行く。火の玉、だ。
「おい、俺の後ろに」
マインにそう言いながら、剣を引き抜く。そして、ゆっくりと木の周りを半周したが、人影はない。もう一度辺りを見渡すが、やはり人影は見えない。
形状からして間違いなく『火球』の魔法だと思うが、術師が見当たらない。
魔法は自分の体から漏れ出す魔力を使う。その構造上自分の近くで魔法を出現させるのが普通で、自分から離れた位置で魔法を出現させるには、相当な才能が必要なはずだ。
その時、その火の玉が、びゅっと俺の方に飛んできた。迫り来る火の玉を見て、そこまで早くないし、今の俺なら回避できると、焦りながらも判断する。
「あっ、危ない!」
俺が回避行動をとろうとしたその時、俺の前に飛び出してきた人影があった。マインだった。
「……は?」
じゅう。
肉の焼ける音がした。
遅れて、鼻がひん曲がるような悪臭と、鶏が首を落とされる時のような、反射的に耳を塞いでしまうような金切り声。
ばたり、と、マインが仰向けに倒れた。ついさっきまで綺麗だった顔は、真っ黒こげでぷすぷすと音をたて、歯茎
や皮膚の先の血管がむき出しになっている。
一応三年間冒険者をやってきた俺でも直視することさえままならないほどの重傷だった。
「……マイ、ン?」
恐る恐る声をかけるが、マインはフリルだらけの洋服が土色に染まるほど、土埃をたてながらのたうち回ると、ピタリと動きを止めた。
……え、どうすんだ、これ。
ここから回復師のいるマルゼンまで、こいつを背負って行くか?……いや、それじゃあ間に合わない。この冒険者がうじゃうじゃいる森なら、回復師か、回復薬を持ってる奴がいるはずだ!
「うぉ、エッグいなぁこれ。ザマァルくんこれどうするつもりなの?」
探しに行こうと立ち上がった時、後ろから男の声がして、俺はすぐさま声の主に剣先を向けた。
「ちょっとちょっと、勘弁してくださいよぉ。俺はあんたの味方っすよ?」
「……おっ、お前!?!?」
俺は、一瞬マインのことも忘れて、その男のことを凝視してしまった。
まず、その顔だ。
(俺に、そっくり……!?)
いや、俺よか男前は男前だが、俺と会ったことのない奴なら、十中八九ザマァル・モーオソー本人だと勘違いする程度には似ている。
しかし、似ているのは顔だけだ。
(なんでこいつ、全裸なんだよ……!?!?)
正確には、首から巾着袋を下げているが、それが服ってことにはならないから全裸で間違いない。ここが魔物の出る森だとか以前の問題で、外で全裸は常識的に良くない。
「……お、お前、何もんだ!?」
俺は、やっとのことで動いた口で、当然の質問をする。その俺にそっくりの男は大げさに肩を竦めて、「やれやれ、俺も有名になったもんだと思ってたけどなぁ」とため息をつく。
「ローレンってんだけど、聞いたことない?」
「ローレン……?」
どこかで聞き覚えがある名前だった。それも、つい最近……あっ。
『清純派グラドル冒険者、マイン、冒険者クラブで豪遊! 担当は全身鎧ホスト、ローレン!』
週刊武春の記事……。
「お、お前、全身鎧ホストの……」
「お、なんだよ知ってたの? あ、そっか、今俺全裸だからか。嬉しいねぇ、天下のザマァル様に認知されてるなんてさぁ」
ローレンは、俺と同じ顔で、ムカつくくらい似合う嫌味ったらしく笑った。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!
この小説の続きを読みたいと少しでも思っていただけたら、ブックマークと
↓の★★★★★を押して応援してくれるとありがたいです!
読者様の応援により、作品が多くの人々の目に届くようになり、更新の原動力になります!
なにとぞ、なにとぞ、よろしくお願いします!