(95)安全の為に②
実験結果から、ミューに回復術そのものを付与したタイツやら覆面やらをつけてもらえば、その物と守るべき対象・・・今回はミューになるのだが、接触面積は最大となるのでミューの損傷が最大限の威力で回復される事になる。
懸念される事と言えば敵の攻撃の強さであり、攻撃の強さによってはミューの損傷具合が大きい場合、使い捨てになってしまう所だろうか。
多少の懸案事項はあるのだが、今後ハルナとハルナを守るミューに対しての安全を何も担保せずに出国する選択肢はないので、最低でも聖母リリエルにはある程度力について説明しなくてはならないと思っているスロノ。
本来冒険者の立場としては、自らの能力を明らかにするのは弱みを曝け出すと同義であるので愚かな行動だと認識されている。
どう切り出すべきか悩んでいるスロノの目の前にいるのは、過去自らの能力が<収納>以外も保持していると明確に告げた相手のミランダ。
今回のソルベルドの騒動で<魔術>Sを保有している事も明らかにしているので、ミランダは恐らくスロノが持っているのは<収納>と<魔術>だと判断していると思いつつ、今回の対策案についてリリエルの回復術自体を収納するための説明方法を考えている。
その表情を見て色々と思う所があったのか、ミランダはスロノの目の前に来て座り込むと、優しく諭すように告げる。
「スロノ君?私、勘違いしちゃったかな。勝手な推測で間違っていたら恥ずかしいけれど、ハルナさんに関する対策、スロノ君なら可能なのかな?でも、実行するために必要な能力に関して明かしたくない・・・違う?」
当初は大きな勘違いをしていたミランダだが、スロノの態度、表情を見て真実に辿り着く。
「・・・流石はミランダさんですね。実はその通りです」
ミランダを含めた【黄金】に対しては、流石に<収納>Exについて告げる訳にはいかないがその他の能力、つまり保管している能力についてはある程度話しても良いと思えるほど信頼を寄せているので、安易に問いかけを否定するような事はしない。
「そっか。どんな方法で何の能力かはわからないけど、誰かの協力が必要なら遠慮なく言ってね?ドロデスさん達も絶対に力になってくれるよ?」
この状況でも自ら能力に関して聞いてこない所も信頼できる要素の一つになっているのだが、逆にミランダのこの態度が今回の作戦の全てを明かして相談しても良いと、スロノの気持ちを後押しした。
「えっとですね、俺の能力を使って術自体を何かに与える事が出来ます。こんな能力は俺が知る限りあり得ないので説明が難しいですが、例えば外套にリリエルさんの強力な回復術を与えておけば、一回限りの可能性は高いですが同じ効果がでます」
「す、凄いじゃない。一回でも十分な牽制になるんじゃないかしら?敵はリリエルさんの能力を苦手としているみたいだから、価値ある対策よ?」
スロノの説明内容は能力に関して詳しい冒険者であったとしても鼻で笑って全く相手にしない程あり得ない能力なのだが、ミランダは全く疑う事無く信用している。
過去に、自らの足かせとなっていた<補強>を何とかしてくれた実績があるからだろうか・・・
「あ、ありがとうございます。で、一回だけと言う懸案はありますが、実行するにはリリエルさんの本気の術を俺に向けてかけてもらう必要があります。正直、怪我も病気もしていない俺に対して全力の回復術・・・依頼すると怪しいですよね?」
「リリエルさんなら、細かい事は気にしないと思うけど・・・」
「そうかもしれませんが、あのクラスになれば術が俺に対してしっかりと発動したかは分かると思うのですよ。正直、発動後・・・つまり術が消費した状態であれば他の物にその術を与える事が出来ないので、発動せずに霧散した感覚になると思います。あのクラスであれば絶対に違和感を覚えるはずです」
「そっか。でも、実際に回復術が必要ない状態だから霧散したと言えなくもないじゃない?」
堂々巡りだが、スロノはリリエルであれば間違いなくそんな理由で術が霧散したのではないと理解できると思っている。
「そうかもしれませんが、Sランカーですからね」
「そう言われると、そうよね。じゃあ、簡潔にハルナさんの安全のためとだけ伝えれば、多少違和感を覚えても何もないと思わない?」
聖母リリエルと直接話す時間もあったので、今まで触れ合って二つ名通りの慈愛溢れた性格である事を理解したおかげか、何とも言えない結論ではあるがその案で進める事にした。
「リューリュさんも細かい事は気にしない性格だから、問題ないわよ!」
そして再び夕食時・・・
「えっと、ちょっと良いですか?実は、今後俺達が出国した際のハルナさんの安全ですが、ここにいらっしゃらないですがミューさんが護衛に就くのですよね?」
「そうだ。余の護衛を移譲できないと理解できてしまったのでな」
近衛騎士でもソルベルドに対しては時間稼ぎしかできないので、その間に当事者が逃げられるほどの能力が求められる為、結局近衛をハルナの護衛に就けても意味がない。
相手は別格の存在であり、今集結している一行が個別行動となった際の対策に有効な手立てがない以上、命を懸けてハルナを守った二人の姉であるミューが護衛に名乗りを上げたのをそのまま受け入れる事になっていた。
「えっと、ちょっと説明が難しいのですが・・・仮にあの陰のソルベルドの一撃があっても、一度だけならば防げる可能性があります」
「はっ?」
ミランダにしか話す時間が無かったので、この場で聞かされたドロデスも脊髄反射で声が出るのだが、一呼吸おいて考えればスロノの実力を考慮すればあながちあり得なくもないと思い直す。




