(94)安全の為に①
少し時は遡り、未だ関係者が王国バルドに留まっていた頃・・・何時までの王国バルドに居続ける訳にはいかないと、全員が話し合っていた。
いつもの流れで夕食を全員で食べているのだが、ここで言う全員とはミューやパーミット筆頭公爵を除く面々だ。
「相当な期間国に留まりましたが、今の所は敵の気配も無ければ攻撃も一切ありません。私もそろそろ他の場所に移動して、癒しを必要としている方々の為に動こうと考えています」
聖母リリエルらしい希望を告げており、これをきっかけに他の面々もそろそろ区切りをつけるべきだと思い始める。
「確かに、我が国を救って頂いた上に長くその身を拘束してしまった。この時間で防衛体制も整える事が出来たので、こちらの事は安心してもらいたい」
国王バルドが謝辞と共に、この中では個人としての戦力が最も弱いので安心させるための材料を告げている。
「実は私も指名依頼がたっぷり来ているらしくて、昨日ギルドに言ったら矢のような最速が来ているみたいなの。ドロデスちゃん達も同じ状況だったわよね?」
ギルドにはソルベルドの所在に対する調査依頼を継続的に出しているので、時折顔を出していた面々。
「・・・そうだな。ついでに、残念ながらクソ野郎の所在は未だに分からねーらしいぜ?」
未だに年下の女性に“ちゃん”と呼ばれる事に慣れていないドロデスなので、一瞬反応が遅れてしまう。
結果的に今の所所在はつかめていないし、他の依頼・・・残りのSランカーに助力を求める件については、流星ビョーラには断られ、暴風エルロンは音沙汰がないので撤回されている。
「私も大丈夫ですので、皆様は夫々必要とされている方の所へ向かって下さい。本当にありがとうございました。私にはあれほどの相手と戦う力はありませんが、これからはミュー様の助けを受けて立派な国主になるべく精進します!」
王位継承に必要な指輪は既にスロノから返却してもらい、国王バルドとハルナしか知らない場所に隠されており、混乱があってもそのまま逃走せずにしっかりと返却までしてくれたスロノに対してハルナは絶大な信頼を寄せている。
「そうですか。立派な王になってくれると嬉しいです。俺は、俺達はいつでも力になるから、遠慮なく頼ってほしい」
「スロノ様、皆様・・・」
「ちょっと、良い雰囲気になっている所を何だけど、言い辛い事を言うわね。正直ソルベルドが襲ってきた場合、最も危険なのはハルナちゃんよ?国王としての立場があれば周囲に近衛がワンサカいるけど、王女にはそれほどいないでしょう?」
「そこは、余の護衛を全てハルナに与えれば解決ではないか?」
我が身より娘なので当然のように国王バルドはこう告げるのだが、あっさりと否定される。
「ばっかねぇ~。そんな事をしてもソルベルドは防げないわよ?保護対象がそれなりの動きが出来ない以上、近衛を増やしても厳しいわよ」
勝てない前提なので、何とか応戦している間に当事者が逃げる事が必須であり、庇護者にもある程度の能力が求められると告げている。
バルドとハルナは両者ともに身体能力が上がる<闘術>を持っているのだが、ハルナはレベルDであり危険な状態に陥った際に逃亡できるほどの能力を持っていない。
詳細を聞かず共その程度の力量だと判断できているリューリュやリリエルなので、このまま話は続く。
「リューリュさんの意見は正しいですね。私もそう思います。正直あの方はしきりに私との直接対決を避けている節がありましたから、私の回復能力を恐れていたのかもしれません。同等の能力が護衛のミューさんにもあれば話は大きく変わってくるのでしょうが・・・」
Sランカーの二人はミューの実力もある程度理解しているので、こちらも<闘術>を持っているのだろうと確信しており、自らを瞬時に癒せる鉄壁の防御などできる訳がないと悩んでしまうリリエル。
このレベルで術を行使するには、例えスロノが自らに<回復>Aを付与しても絶対に実行不可能だ。
僅かな対策案も暗礁に乗り上げてしまったので、その日、それ以上深い話は出なかったのだが、近い内に出国する事だけは決定していた。
「どうするかな~」
「スロノ君。やっぱり気になるよね?私もSランカーの凄さを身に染みて理解しちゃったから、ハルナさんの安全を何とかしたいと思っているの」
スロノが悩んでいる内容を正確に把握できていないミランダなので、どうすればハルナの安全を担保できるのか、その手法を探す為に悩んでいると思っているのだが実際にはそうではなく、対処する為にはスロノの能力である<収納>Exの力を部分的にでも公開せざるを得なく、どの程度公開すべきかで悩んでいた。
実は、スロノの能力は各人が持つ能力自身も収納できるのだが、あろう事か斬撃やら魔術やらも収納する事が出来ており、この力を使えばリリエルの能力ではなく発動されている回復術を収納し、何かに付与する事ができる。
過去の心配は、付与したもの自体に回復術がかけられてしまい術の起動が終了してしまう事だが、既にいくつか自分の回復術を行使して実験し、この部分も解決している。
例えば、損傷の無い何らかの品に回復術を付与しておけば術は発動せず、その物が大きく破損、人で言えば動けなくなるほどの損傷を負った際に術が発動される事を発見していた。
その他にも術は物の周囲に何もなければ物自身を、物に損傷が無くとも接触している何かに大きな損傷があれば、物との接触面積に応じてそちらを修復していた。