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収納ってなんだろう!  作者: 焼納豆
93/233

(93)ソルベルドの誤算②

 本気には程遠いながら、直接戦闘をして相手の力量を正確に理解し、間違いなく致命傷になるはずの攻撃を繰り出していたソルベルド。


 通常ではこのような事はないが対戦相手に敬意を表して少しでも苦痛の無いように配慮したので、眉間を狙って刺突を繰り出したのだが、手応えとしては想定内だったはずが何故か少々飛ばされていたミューが倒れていない。


 かなり覆面に損傷がある為に素顔が見え始めているのだが、血も出ていなければ刺突によるダメージもなさそうに見える。


 異常事態である事は間違いないので、僅かな油断や綻びから全てが瓦解する可能性がある事を知っているソルベルドは一旦距離を取って状況把握に努める。


 未だ絶対的に有利な状態にあると知りつつも、最悪はハルナを諦めて撤退する事も視野に入れている。


「まるで、忌々しいリリエルを相手にしているかのような感じやな・・・」


 陰のソルベルドとして、同格の中では最も相手にしたくない聖母リリエルを相手にしているかのような錯覚に襲われている。


 聖母リリエルは、その溢れんばかりの回復能力に物を言わせて自らを回復し続ける事で鉄壁の防御力を誇っており、ついでに局部的に過剰な癒し・・・過剰であれば体に害がある程の威力で回復術を行使する事が出来るので、処理し辛い相手と認識していた。


 術の行使には疲労が伴うので連続して永久に回復が出来る訳も無く、術の連続発動が出来なくなった時点でソルベルドが有利になるのだが、そこに至る間では間違いなくリリエルが有利になると思っていた。


 幾度も対戦時の状況を想定しているソルベルドなので、正に今目の前のミューがリリエルの防御力に近い力を発揮していると判断して警戒する。


「わ、私は弟や妹が命を懸けて守ったハルナ様を、命に代えてお守りする義務がある!」


 一瞬折れた闘志も戻っているように見えるが、失った体力までは回復していないのは誰の目から見ても明らかだ。


 ここでソルベルドが同じ一撃、いや、それ以下の一撃でもミューはあえなく散ったのだろうが、数多くの経験をしてきたソルベルドから見てもあり得ない事態だと判断していたので、逆に追撃が来る事はなかった。


「お前・・・何者だ?」


 いつものふざけた言葉は消え失せ、思わず完全な素が出てしまっているソルベルド。


「私はハルナ様の護衛騎士、ミュー。ミュー・パーミットだ!命を懸けてハルナ様を守る者!心に刻んでおくが良い!」


 攻撃速度はレベルCの下位と言っても過言ではない程に遅く切れが無くなっているのだが、それでもハルナを守る気概だけで攻撃を仕掛けているミュー。


 この行動が罠である可能性も捨てきれないと考えているソルベルドなので、異常な防御力を見せていた頭部に軽い遠距離攻撃、漆黒の槍を使った風圧を与える。


―――フォン―――


 軽い風切り音と共にボロボロになっていた覆面が全て飛び散り、鋭い銀目のミューの素顔と頭上の獣人族特有の耳が露わになる。


 この軽い攻撃だけで膝をついてしまったミューだが、その後もハルナを救う為に必死でソルベルドに向かう。


 何故かこの状態でもソルベルドはミューに対して一切の攻撃をせず、音も無くこの場から消えて行った。


「ハ、ハルナ様!ハルナ様!!」


 敵であるソルベルドがどこかに隠れているのかもしれないが、今はそんな事を考えられずに倒れているハルナに近づき、必死で声をかけているミュー。


 ソルベルドにしてみれば生き証人は残しているし作戦は完全に瓦解し、時間をかけて収集した情報も全て利用できなくなっているのだが、不満そうな表情は一切ないままに王国バルドの拠点、誰もいない部屋に戻っている。


「あの覆面に何らかの力が付与されとったんやろな。結果だけ見れば良かったんやが、ハナから素顔を晒しておけば怪我もせんかったやろうに」


 余裕があるのか口調も元に戻っており、ちぎれた覆面の一部を手にしながら嬉しそうに独り言を呟いている。


 その数日後・・・


 襲撃があった為か、これ以上は不可能と言って良い程に全戦力を駆使して厳戒態勢がひかれている王宮に、連絡を受けたリューリュとリリエル、そしてスロノがやって来た。


 本当は【黄金】も来る予定だったのだが、あまりに長期間テョレ町を開けていたので指名依頼が山の様に溜まっており、差し当たってハルナを始めとしたソルベルドの復讐対象になる人物達の身の危険が無く全員無事だと理解した際に全員で検討した結果、スロノだけが王国バルドに向かう事になった。


 逆に戦力が分散した【黄金】の危険度が増すのだが、ギルドを通した情報展開においてソルベルドらしからぬ動きを把握したことから、取り敢えずは安全だろうと判断していた。


「大丈夫でしたか、ハルナさん?」


「はいっ。ミュー様が私を守ってくださいました」


「本当にスロノちゃんの心配が当たったわね。にしても、どれだけ引き出しを持っているのよ?まさかリリちゃん(リリエル)の回復術を覆面に押し留めるなんて、規格外も良い所だわ」


「そうですね。私もとてつもない能力だと思っておりますが、結果的にミューさんが無事だったのですから良かったではないですか?」


「そうだけどさ?スロノちゃんは<魔術>を使った上に、私達を救う為に派生能力で私では不可能だった回復までしてくれたのよ?本当、どっちがSランカーか分からないわ」


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