(90)ソルベルド①
戦場で暴れつつ、Sランカーと直接的に対峙できるチャンスを棒に振ってしまった陰のソルベルド。
どう甘く見積もっても、あの状況では自分の勝利はあり得ないと即座に冷静な判断をして、証拠隠滅まで行っていた強者だ。
「何やねん!折角あそこまで上手く行っとったのに。事の始まりは、あのスロノとか言う雑魚・・・やあらへんな。あの男の力を見誤ったワイの失態や」
自分の非をあっさりと認められる所も別格の力を持つ為の資質と言えるのだが、行ってきた事は最悪なので、人格は破城していると言えるのかもしれない。
「しっかし、このまま引き下がるわけにはいかんやろが、問題はリューリュと・・・特にリリエルやな」
リリエルは戦闘になった際の相性が最悪と認識しているので、自らが欲する最強の座に到達するにはどうすれば良いのかを含めて、必死で考えている。
リリエルは同じ国家で活動していたので、目的を達成する一環として即座に襲い掛かる事も出来たのだが、ソルベルドがそうしなかったのは絶対の勝利が確約されていなかったためだ。
「何はともあれ、一先ずワイのメンツを潰してくれた連中への躾が必要やな」
リューリュやリリエルが想像していた通りに逆恨みからの復讐を行おうとしているのだが、即行動には移せない。
撤退するに至った相手戦力、そして復讐の対象である存在達が未だ王国バルドに密集しているからであり、一先ず最も弱い部分を攻めるために得意の情報収集を始めている。
つまり・・・身分を商人ではなく一般の民として、再び王国バルドに入国していた。
人族では目立ってしまうので、外観からは獣人族と区別がつかない様に変装している程の念の入れようだ。
数日後・・・
「ミュラーラのおっさんは始末されたようやし、こうなると王族の情報はそう簡単には掴めんな。まっ、逆に言えばワイが関与した事実を知る存在が消えたとも言える訳やし、そこは甘んじて受け入れる他あらへんか」
今まではミュラーラと互いの益の為だけに行動を共にしていた中で、あり得ない程国家の情報を楽に手に入れる事が出来ていたのだが、既に厳罰に処されたと民にも理由と共に広く公開されており、貴重な情報源を失っていた。
一方で、自らの黒い部分・・・真実を知る存在が消された事で、より安全になったと安堵できる部分もある。
「ホナ、今まで得た情報から・・・やはりあのチンチクリンを攫って餌にし、個別に対応するのが最善やろな」
今のところは屈強な防衛線の内側で生活をしているハルナだが、長い時間何もなければやがては外出もするだろうし、間違いなく一般的には隙と言えないながらもソルベルドの実力から考えると、大きな隙が出来るのは間違いない。
「家宝は寝て待て・・・や」
身体能力の高さを活かして日々遠くで厳しい修練をしてから王奥バルドに戻って情報収集を・・・と、毎日それなりに充実した生活を送っているソルベルド。
やがて民の話しから、ハルナの依頼でこの国に来ていた【黄金】一行やスロノ、魔道リューリュ、更には最も厄介だと思っていた聖母リリエルまで出国したとの情報を掴む。
この面々は国家に多大な貢献をしたと、ミュラーラの反逆罪の告知と共に広く開示されているので、出国ともなれば絶対に王侯貴族だけではなく民も含めて大々的な見送りがあるはずだと思っているソルベルド。
確かに修練から戻った際には町がざわついていたので、出国したのは事実だろうと考えて早速行動を始める事にした。
「あいつ等の事や。出国自体がワイを誘い出す罠の可能性も捨てきれんから、大胆かつ慎重に動く必要があるやろな」
現実は、この国に最早癒しは必要ないと判断したリリエルは他の苦しんでいる人々の所に向かいたい気持ちが大きくなっていたし、リューリュもギルドからの指名依頼が溜まっている。
【黄金】も、拠点であるテョレ町で疲れている体を癒したいとの思いがあった。
数か月王国バルドで生活したのだが陰のソルベルドの手がかりは一切なく、ギルドに依頼していた流星ビョーラへの依頼も、別の依頼を既に受けていると断られてしまっていたし、暴風エルロンに関しては反応すらなかった。
ソルベルドの手がかりがないと言う事は、国内において今迄の様な大きな騒動が起きていないと同義であるので、これ以上引き止めるのも良くないと判断した国王バルドによって謝礼と共に依頼を完全に終了すると宣言されていた。
つまり、罠ではなく本当に各自が拠点やら依頼に向かっていたのだ。
Sランカー二人は別にして、王国バルドに残った面々や【黄金】一行には不安が拭えない部分があるのも事実だが、永遠に全員が一カ所に留まる選択肢はないので割り切って行動する事にしていた。
「ホナ、本腰を入れて躾をしてやろか?」
再び王国バルドが騒動に巻き込まれてしまうのか・・・陰のソルベルドが不敵に笑ってその姿を消した。
最強の防衛線を担っていた存在が出国した為、暫くは最大限の厳戒態勢となっていた王宮。
騎士は常にピリピリしており、ギルドへの依頼によって戦力の高い冒険者、情報収集能力の高い冒険者を雇い、王宮の外で活動をさせている程の念の入れようだ。
外部の者を王宮に入れては陰のソルベルドを招き入れる事になりかねないと言った不安から、依頼を遂行している人物は王宮に入る事は出来なかった。