(88)Sランカー
各自が好き勝手に行動しているSランカー達なので、獣人国家の王国バルドに流星ビョーラが入国して国王側の依頼を受けていた事に対して、今更ながら驚いていた魔道リューリュ。
立場的には同格で権力・財力もあるのだが、やはりその力をどのように使うのかは個人の性格に大きく依存しており、例えば無駄に頂点を目指す為に情報収集に余念がない陰のソルベルドや、目に見える範囲で救いの手を差し伸べているので情報を積極的に手に入れる事は無く、権力に全く興味のない聖母リリエル。
ある意味両極端なのだが、一方で魔道リューリュはある程度情報を仕入れつつも、敵対していない同格の存在について詳細を積極的に得ようとは思っていなかった。
故に、流星ビョーラがどのような性格なのかは知らないのだが、恐らく縁もゆかりのも無いであろう獣人国家の揉め事に対して、大々的に動いた事に驚いている。
「リューリュさんの疑問は分かりますけれど、恐らくあの方はお金が大好きとの噂ですから・・・国家から多大な報奨金が提示されたのではないでしょうか?そのお金がどのように使われているのかまでは分かりませんが」
特段情報収集をしているわけではないのだが、民に直接触れているリリエルであれば嫌でも噂話を耳にするので、結果として信憑性としては低くなりつつも相当な情報を得ていた。
「・・・そ、そっか。そう言うやつなんだ。まぁ、陰湿のソルベルドよりは遥かに真面よね?労働に対する対価。冒険者としては当然だものね」
この立場であれば十分以上の貯蓄があるはずだし、依頼を受けず共大陸のギルドから定期的に金銭が与えられるので、それ以上に何を求めているのか少々疑問に思っているのだが、依頼に対する報酬を得るのは至極真っ当な話ではあるので半ば無理やりではあるが納得しているリューリュ。
そもそも余計なお世話なので、話題を別の存在の対応に変化させる。
「でもさ?ビョーラは今回ある意味味方だったから良いけれど、明確に敵になった陰湿野郎をどうするのか、少し真剣に考える必要があると思わない?今回間違いなくアイツがミュラーラとか言う男に力を貸していたし、私達なんて毒殺されかかったのよ?と言うよりも、スロノちゃんが居なかったら死んでいたわね」
「・・・最低ですね。冒険者の禁忌行動ではないですか。ですが、訴え出るのは難しいのでしょう?仮に資格が剥奪されても、自惚れではなく私達の力があればどうにでもなってしまいますからね」
Sランカーも含めて冒険者資格剥奪には、罪も無い人物を襲ったと言う明確な物証か複数の目撃証言と共に被害者の証言が必要になるのだが、複数の証言が出来る人物が被害者であるために該当とならない可能性が高い。
その上に訴えが通ったとしても、聖母リリエルが言っている通りに既に相当の権力・財力を手中にしているので、どの様にでも活動出来てしまう。
「そうなのよね。でもこのまま放っておいたら、陰湿野郎の事だから私達だけじゃなくって【黄金】やスロノちゃん、ひょっとしたらこの国家自体も逆恨みで攻撃しかねないよ?」
「そこは否定できないのが悲しいですね。私も癒しの作業中に色々と間接的にですがちょっかいをかけられました。その程度で済んでいたのは、何かに忙しかったのか私との相性が悪いと認識していたせいなのか・・・何れにしても、どう考えても今後大人しくしているとは思えませんね」
現実的に、陰のソルベルドは聖母リリエルとの対決には慎重だった為に直接的に手を出していなかったので、正しい推測ではある。
悲しい事に、逆恨みで何かをしでかす可能性が高い部分も含めて正しい。
何処を攻めて来るのか選択肢が多すぎるので守るにしても戦力を分散せざるを得ず、逆に先手必勝と襲おうとしても、どのSランカーよりも存在が掴みにくい陰のソルベルドなので、今の所良い対策案が出てこない。
「どうしよっか?今のところはこの国で全員が固まっているから大丈夫だと思うけど、何時までもこの状態のままと言う訳にはいかないもんね」
「そうですね。一応危険性だけは対象の方々にお伝えした方が良いでしょうね」
魔道リューリュと聖母リリエルと言った二人のSランカーでも明確な対策案が出せないまま、差し当たって注意喚起だけを行うべく食堂に向かう。
最近では国王、ハルナ、【黄金】一行、スロノと共に食事をするのが一連の流れになっており、話の内容は重苦しくなってしまうのは申し訳ないと思いつつも説明をする事に決めていた。
「えっと、こんな時になんだけど・・・ソルベルドの事で話があるの」
ある程度楽しい食事が済んだのを見計らって、リューリュが重い口を開く。
この場の誰しもが国家の敵、更には【黄金】一行やスロノを明確に殺害しようとした存在の名前が出てきた事から、緊張の面持ちに変わる。
「あいつの事だから、絶対に今回の失敗を根に持っているのは間違いないわ。二つ名の通りに陰湿のソルベルドなので、逆恨みからの攻撃を受ける可能性があるの」
わざと二つ名を間違えているのだが、直接ソルベルドの悪意を受けた面々はその内容を否定せずに黙って続きを待っている。
「私達もそうだけど、【黄金】一行もスロノちゃんもずっとこの国に留まる事はないでしょう?バラバラになった所を襲い掛かってくる可能性が高いのよ」
誰がどう考えてもその通りなので、今は戦力が王国バルドに密集しているので安全は担保出来ている状態だが、実際に分裂してしまえば【黄金】一行では太刀打ちできない事は明らかであり、スロノ単体でも非常に厳しいだろう。
「逆にこちらから攻撃を仕掛けようにも、陰湿者に相応しくどこにいるのか最も分からない男だし、正直私達もどのように対応すべきか悩んでいるの」
格上が現状を冷静に分析しているので各自が非常に悩みだすが、やはりどう考えても対処できる案など出る訳も無く、多分に仮定を含んだ案が飛び交う事になる。
「じゃあ、正直厳しいけどギルドに依頼して、私達の他のSランカーに声をかけるわ」