(81)パーミット侯爵
獣人国家の王国バルドも、人族同様王侯貴族が存在しており、序列や爵位も同一だ。
その中で、現国王に次ぐ権力を持っているのが公爵であり、支えている体で裏では実権を握る為にあの手この手で国内を混乱に貶めているミュラーラ公爵と、公爵に比べて爵位は低いながらも、こちらは心底国王一族、特に次期国王になるハルナ王女に忠誠を誓っているパーミット侯爵。
パーミット侯爵はその忠義から、身辺警護も含めて自らの血族をハルナの付き人として与えており、そこから正体不明の存在が王宮内で暗躍している事実を知るのだが、遥か格上のミュラーラ公爵が背後にいるとは理解できない。
時は遡り、未だハルナ王女が国内に留まっている頃・・・国内の状況は不安定になるばかりか、何故か侵略ととられかねない戦争まで勃発しているので、その対処に追われてハルナ王女に視線を向ける余裕がなくなっていたパーミット侯爵。
ミュラーラ公爵の掌で転がされているのだが、実の所国王までもが同じ状況に陥っているので、誰も何かを疑問に思わず行動している。
「パーミット!何故か北部の状況が非常に悪い。余とミュラーラは他の地域について検討するので、その方が急ぎ出向いて対処せよ!」
「承知いたしました」
ミュラーラ公爵が起こした騒動なのだが、鎮圧させるためにはある程度の力が無ければ無駄に兵力だけを失ってしまうと騒動を起こしている当人から進言され、その通りに対応している国王。
王都に権力者がいない状況にし、その隙にハルナから指輪を奪う事にしており、その際抵抗されれば指輪が手に入るのであれば容赦なく消すのもアリだと指示を出していた。
襲われる側のハルナや使用人の立ち位置で護衛も行っているパーミット公爵の息子、娘は、日々何かしらの攻撃がある事からハルナに危険が近づいているのは認識しており、このままでは命の危険すらあると実父であるパーミット侯爵に進言していた。
この進言は、常にハルナの傍にいなくてはならない状況である為に間に人を介しており、そのままミュラーラ公爵の元に行き握り潰されている事を知らずに、未だ来ない助けを待っていた。
「このままでは・・・決断の時よ?」
「そうだな。父上からの援助が見込めない以上・・・その上、他の方々も日々勃発している戦争の対処で手いっぱいである事を考慮すると、その方が良いだろうな」
「どう考えても城の誰かが刺客を送っているのよ?今迄は平和だったのに、戦争まで起こせる存在。相当な人物が関与していると見るべきよ?なので、お父様以外の助力は考えない方が良いわよ」
ハルナを守りつつ王宮にいれば、爵位の高いパーミット侯爵であればそう時間が経過せずに直接的に会って話が出来ると思っていたのだが、ミュラーラ公爵によって僻地の任務に飛ばされ続けているので全く会えずにいる。
その情報も、ハルナの心労にならないようにと言う配慮を見せる体で厳に秘匿されているので二人は知る由も無く、最早残された時間はないとパーミット姉弟が判断するのにはそう時間がかからなかった。
二人の姉弟がハルナを国外に脱出させようと決断しており、推測ながらも国家重鎮がこの騒動に関連していると正しく現状を理解し、下手に身内以外に助力を求めては逃亡すらままならないと二人だけでハルナを逃がす事を決断する。
二人の父であるパーミット侯爵も王国バルドの為、ハルナ王女の為に必死で任務を遂行している中で、王宮の状況を知る時間すらないままに多方面で勃発する暴動やら戦争やらの対処に日々追われている。
此方は、まさか同じく国家重鎮であるミュラーラ公爵の指示によってSランカーである陰のソルベルドが動いた結果だとは理解できないまま、毎日必死で戦っているのだが・・・一向に王都に戻れない状況に多少の苛立ちを感じていた。
離れている親子共に王国バルドの為、国王やハルナ王女の為に必死で行動しており、ハルナを逃がす決断をした姉弟はこれからの行動をハルナに告げている。
「ハルナ王女。私達の力不足でこの王宮に留まっていては、御身をお守りできない可能性が高くなってきました」
「二人には何時も良くしてもらっていますので、感謝しています。お二人だけであれば攻撃される事も無いでしょうから、どうぞ私の事は見捨ててください」
これから逃亡の説明をしようとしていたのだが、最近では攻撃が直接的になってきているのでハルナも身の危険を感じており、その中で忠臣からこのように言われては命を諦める覚悟をしてしまった。
「ハルナ王女。何を仰っているのですか!これからも私達二人は王女の盾となり剣となる所存です!」
「愚弟の言う通りです、王女。ですが、あまり猶予はありませんので落ち着いて話を聞いて下さい。これから私達は三人の家族、恐れ多くも私が長姉、弟が兄、王女が末妹として国外に脱出します。その後、この国にまで名声が届いている【黄金】と呼ばれているパーティーに助力を申し出ましょう。脱出の方法は・・・」
こうして無事に王都を出てテョレ町に向かっていたのだが、その道中に余計な騒動に巻き込まれてオークに襲われ、必死でハルナを逃がして命を落としていた。
その後暫くすると、パーミット侯爵家姉弟がハルナ王女と共に失踪したと報告を受けていたミュラーラ公爵は、指輪を得る機会を失ってしまったと悔しがりつつも、同格に近い存在であるパーミット侯爵の力を削ぐことにした。
パーミットが久しぶりに王都に戻ると、当然任務達成報告に王宮に出向くのだが・・・そこで待っていたのは息子、娘が王女を拉致したと言う冤罪に関する糾弾であり、事実三人揃って王宮だけではなく王都にも存在していない事から、事情が分からない侯爵が反論する術はなかった。
「パーミット侯爵。私は非常に残念ですよ。まさか侯爵家から反逆者が出ようとは、同じ国家を支える立場として軽蔑すべき対象です」
謁見の間にて、国王と共に真の忠臣であるパーミット侯爵を攻め立てているのは元凶であるミュラーラ公爵であり、最も邪魔なパーミット侯爵の力をこの場で削げるので内心非常に機嫌が良かった。