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収納ってなんだろう!  作者: 焼納豆
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(70)聖母リリエル

 少し時間は戻り、ソルベルドとミュラーラ公爵が互いの醜い欲望を曝け出して協力を確約した頃・・・


 日々色々な場所で癒しを行っている聖母リリエルは、自分が理想とする世界が中々訪れない事に少々疲れを感じていた。


 公開されている能力は<回復>Sだが、だからと言って攻撃力がない訳ではなく、あり得ない程の回復力にモノを言わせて防御を全く考慮せずに物理的な攻撃が可能だし、過剰な回復や部分的な回復などで相手の行動を阻害したりダメージを与えたりする事も出来る。


 正に【黄金】のドロデスが感じた通りに別格の強さを持っているのだが、聖母リリエルの二つ名が示す通りにおっとりとした優しい性格であり、自ら好んで戦闘するような事はない。


 金目金髪で優しい雰囲気を醸し出しながら日々奉仕活動を行っていたのだが、人族の国家を渡り歩いて活動している最中に、獣人族国家の王国バルドが何やら不安定になっているとの噂を耳にする。


 同時に見下す種族で滅んでしまえばよいとの会話も聞こえてくるのだが、リリエルにとっては種族で差別などするべきではないと、【黄金】やスロノと同じ考えを持っているので、その話しを耳にして多少不快になりつつも、何かできる事はないのかとの思いで目的地を王国バルドに決めて移動していた。


「はぁ~、人の欲って深いですね。獣人種でも同じとは想像していませんでした。何時になったら平和な時が訪れるのか・・・」


 道中時折襲い来る獣や魔獣がいるのだが、特段反撃する事も無く鉄壁とも言える防御でいなし、どうしても周囲に影響を与えてしまう可能性がある存在だけは少しだけ威圧して逃げてもらっていた。


「ここですか。噂通り・・・いいえ、噂以上ですね」


 入国時に人族である事から怪訝な視線を向けられるのだが、相当温和な雰囲気を機敏に感じ取ったのか特段絡まれる事も無く、ゆっくりと周囲を散策しながら感想を漏らしている。


 どう考えても落ち着いて生活できているとは言えず、雰囲気がそうさせるのか所々で小競り合いがあり、程度はあれ怪我をしている者が多数いる。


 中には大きな荷物を抱えて行動している存在も見受けられ、どう考えても何かあった際にはそのまま出国して逃亡できる準備をしていると理解できる。


 人族の国家で聞いたのはあくまで噂であり、そもそも基本的に交流がないので事実は異なる事を期待していたのだが、悪い方向に異なっており、想像を上回る環境の悪さだと理解したリリエルは深く考えずにギルドに向かう。


 たとえ異国、異種族が生活している異国であってもギルドは存在しており、ギルドに認められているSランカーであればどこに行っても無下にされる事はない。


「こんにちは!」


 柔らかい雰囲気を曝け出している人族の女性が獣人族国家の冒険者ギルドに単独で来るなど有り得ないので、受付は一瞬固まってしまうのだが……そっと提示されている身分証とも言えるカードによって目の前の存在が大陸に五人しか存在しない内の一人だと嫌でも理解し、慌てて立ち上がろうとする。


「あっ、大丈夫ですよ?そのままにして頂けると私としても助かります!」


 無駄に騒がれる事を良しとしない性格なので、慌てている受付を落ち着かせると目的を告げる。


「ここに来るまでにある程度の事情は把握しました。まさか王位継承権を持つ方が逃亡するとは・・・いいえ、逃亡せざるを得ない程とは思いませんでした」


 本来他種族の、極端に言えば敵対種族の女性がこのような事を言えば即座に捕縛され厳しい罰が与えられるのだが、別格の存在であるためか不敬罪ととられかねないこの言動を直接聞いている受付の女性は、何も行動する事はない。いや、できない。


「私では国内事情を安定させるほどの力はありませんが、せめて皆さんの傷を癒したいと思います。ですから、暫くはこのギルド周辺で奉仕活動をさせて頂きます。今日はその連絡をするために訪問させて頂きました。宜しくお願いしますね?」


 不敬罪に近い発言の後には国家の為、国民の為に奉仕活動をすると言っているので、感情が両極端に振れてどうして良いのか分からない受付をよそに、リリエルは優しい笑顔のままギルドから去って行く。


「アレが聖母リリエル・・・」


 初めて頂上の存在と会話したのがリリエルだったのが影響し、ギルド認定Sランカーは人ならざる存在だと言う認識を少し変えていた受付なのだが、相手がリリエルではなくソルベルドであれば恐怖の対象になっていた可能性もある。


 数日後・・・


 依頼の受注、達成報告はギルドで行われるので人の出入りが激しいのだが、いつも以上にギルド周辺は賑わいを見せている。


 原因はリリエルの奉仕活動であり、仲間からリリエルの話を聞いた負傷した冒険者、冒険者が癒されるのを目撃した周辺の民達、一部はリリエルの優しい雰囲気に当てられて会いに来ているだけだが、多数の人物がギルド前に屯していた。


 結果的にソルベルドと同じようにリリエルの存在もミュラーラ公爵に認識されるのだが、混乱を収める方向の行動を行っているので敵と認定される。


「ソルベルド。どうやら聖母リリエルがギルド前で奉仕活動をしている様だぞ?」


「知っとるわ。ホンマ面倒なやっちゃ。ワイの攻撃が最も通り辛い存在やから、対処するのも厄介やわ」


 頂点を目指す為の障害になり得る同格の存在の情報は誰よりも熱心に仕入れているソルベルドなので、リリエルが鉄壁の防御を誇っている事実も知っており、倒される事はないながらも倒すとしては最も面倒な相手だと認めている。


「あの癒しの力は相当だ。Sランカーだけの事は有る。だが、それを逆手にとって、癒された人物も戦場に送り込むように招集すれば良いのだ」


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