(66)魔道リューリュ
―――コンコン―――
「う~い。全員起きてるぜ?」
一晩泊まり、ギルド内部と言っても油断していたわけではないので、ハルナを含む全員が部屋に運び込まれたベッドからノックの音で起き上がる。
誰が来たかは気配からドロデスが真っ先に判断できたようで、軽く全員が起きているのを確認すると入室を促している。
「早朝からすまないな。魔道リューリュが想像以上に早く到着したので、早い段階から面通しをして必要に応じて打ち合わせでもするかと思った次第だ」
「おはよう!ギルドマスターから紹介頂いたリューリュよ。リリちゃんが助けを求めたパーティーに早く合流したかったの。これからよろしくね?」
人懐っこそうに見える黒髪をおさげにしている女性が、ギルドマスターの背後からヒョコッと現れて笑顔で自己紹介をしていた。
黒い瞳は全てを見通しているように見えてしまうのは、別格のSランカーであり<魔術>Sを持っていると知っている故の先入観もあるのかもしれない。
「こっちこそよろしく頼むぜ。【黄金】のリーダーをしているドロデス。こっちの二人はシャイなんで話せねーが、ジャレードとオウビ、紅一点のミランダ。そして俺達の仲間であるスロノと・・・言ってもいいのか?」
仲間であるとは言っても突然現れた初見のSランカーに対して、ハルナがこれから向かう王国の王族である事を告げて良いのか確認しているドロデス。
「あ、大丈夫よ?ドロデスちゃん!あなた達やスロノちゃん、ハルナちゃんの情報もしっかりと持っているわ。ハルナちゃんは大変だったわね。でも問題ないわよ?これからは【黄金】やスロノちゃん、私、それに向こうで活動しているリリちゃんも味方だからね」
流石はSランカーで情報網も凄いと思いつつも、かつて“ちゃん”付けで呼ばれた経験が無いのでどう反応して良いのか分からない三人の屈強な男性陣。
「プッ。あははははは。皆さん、なんで固まっているんですか?良かったじゃないですか!今まで経験した事のない呼ばれ方ですよね?」
「ふふ、ちょっとスロノ君。可哀そうよ!繊細なんだから!」
思った以上に人懐っこく親しみやすいSランカーが味方になってくれたので、相当心に余裕が出たのか今の三人の男性陣をからかう余裕も出てきたようだ。
「うっ。まぁ、確かに今迄経験した事のねー呼ばれ方だがよ?俺達も過去の俺達じゃねーぜ?その程度で取り乱さねーよ?なぁ、ジャレード、オウビ!」
明らかに動揺しており、話を振られたジャレードとオウビも高速で首を上下にしている。
「あはははは、面白いわね。退屈せずに済みそうよ!でも楽しそうにしている所申し訳ないし私のせいで出立を遅らせていたのでこんな事を伝え辛いけど、向こうにいるリリちゃんが心配なの。今すぐ出立できる?」
冒険者は経験が豊かであればあるほど即断即決が出来るし、急な展開によって行動が変わる事にも慣れている。
当然【黄金】やスロノとハルナも直ぐに出立できる状況だったので、目の前に来ているギルドマスターのシャールに挨拶をして直にギルドを出て町も出る。
当初の作戦では色々な意味で街道を外れて行動する予定だったのだが、余計な時間を消費したくないと魔道リューリュが伝えてきた事から最も足の遅いハルナをスロノが抱え、全員何らかの力で高速移動している。
ドロデス達強面三人は身体能力が劇的に上昇する能力持ちであり、他は<魔術>を使い風の力で追随している。
流石は魔道リューリュの二つ名を持つSランカーなので、この移動速度でも互いがしっかりと意思疎通できるように風の流れを調整して声を届ける余裕すら見せている。
「コレは凄いな。俺ではここまでは出来ない。どこまで鍛錬すればここまでできるのかわからないな」
思わず漏れたスロノの感想は魔道リューリュには聞かれているのだがリューリュはスロノの能力について何も聞かされていないし、流石に普段は何も能力を付与していないスロノなので情報が公になっておらずに知る由も無いので特段反応しない。
リューリュクラスになると<魔術>に関する知識も豊富なので間違いなくミランダとスロノは<魔術>持ちだとは理解しているのだが、そのレベルまでは何となくA程度だろうと思っているだけだ。
「止まって!」
突然リューリュが全員に指示を出し、その雰囲気から間違いなく敵・・・陰のソルベルドと場合によってはその仲間が襲撃しに来ていると判断したので全員が警戒態勢を取る。
言わず共そこまで反応できた状況を見て、これならば過剰な保護をする必要はないと安堵しつつも一点を睨んでいるリューリュ。
「陰湿の、間違えたわ。陰気のソルベルド。出て来なさいよ?二つ名の通りにコソコソ。堂々とできないのかしら?それとも日の光が苦手なのかしら?」
正直リューリュ以外には気配が全く分からなかったのだが、とある大きな木の後ろから陰のソルベルドが手に槍を持ちながら出てきた。
「はぁ。中々面倒な奴が同行してはるな。もっと楽にくすんだ黄金を始末できると思うとったのに、余計な手間が必要になるやんか。おまけも引き連れて、ホンマ始末が面倒やな」
ドロデス一行が想定していた通りに待ち伏せしていたのだが、早朝に合流して即行動したためか魔道リューリュがこの場にいるとは知らなかった陰のソルベルドは面倒くさそうな態度をとりながらも戦闘態勢に移る。
明らかに人数的に不利なうえ、自らと同格のSランカーが存在しているのに余裕の態度を崩す事が無い陰のソルベルド。
「あ、そこの王女だけは生かしておいてやるで?色々と聞きたい事もあるし、必要な物もあるさかい。安心しとき?」