(65)思わぬ援軍
「そんじゃ、できる事はした。想定できない事が起きる可能性が高けーが、そん時は臨機応変に今までの俺達の経験、信頼を拠り所に行くぜ?」
これ以上できる事はないと判断したドロデスがこの場を〆、ギルドで屯していても状況は前に進まないと頭を切り替えてギルドマスターのシャールに挨拶だけして王国バルドに向かう為に全員で部屋の外に出て、ギルドマスターの私室に移動した。
「悪いな、邪魔するぜ?」
「どうした?何かあったのか?」
ギルドマスターは【黄金】一行が今日は行動しないと読んでいたのだが、数多くの冒険者の行動を見てきた経験か表情を見てこれから動く可能性が高いとは分かっていつつも聞いている。
「一応クソ野郎と対峙する前提で話をして、追加の準備もいらねーから早速王国バルドへ向かおうと思っている。んで、挨拶に来たわけだ。世話になったな」
負けるつもりはないが確実に勝てる保証も無く、仮にソルベルドに勝利してもSランカーが絡んでいる事が判明した以上は想像を超える難易度の高い依頼であり、聖母リリエルからの依頼遂行中に何かが起こる可能性もある。
普通の依頼でも命がけなのが冒険者なので、普通とは言えない今回の依頼に向かう以上は二度と会えなくなる可能性も考慮したのかしっかりと挨拶をしておくべきだとの総意によってこの部屋に来ている。
覚悟をもってこの場所に来ている事も理解しているギルドマスターなのだが、少々タイミングが悪いと苦笑いをしている。
「全員の気合が入りまくっている所で腰を折るようで申し訳ないが、今日動くのは待ってほしい。実はもう少し正確な情報を得てから話そうと思っていたんだが、緊急連絡がとあるギルドを通して入って来た」
「んぁ?聖母リリエルの依頼は急を要するんだろ?俺達の恩人を待たせるわけにはいかねーんだがな?」
「そうだろうな。分かっているが、そこも踏まえた上で俺からの要望だ」
敢えて聞かず共ギルドマスターであればドロデス達が感じている恩、何を置いても聖母リリエルの力になりたい気持ちは痛い程理解しているし、出立を止められているドロデス達もギルドマスターの頭脳は知っているので全てを理解した上での発言である事も知っている。
中途加入のミランダは聖母リリエルから直接的な恩を受けたわけではないので、ギルドマスターとの話しには口を挟まずに黙って聞いている。
「シャールがそこまで言うのであれば今日は動かねーが、理由はきっちりと聞かせてもらうぜ?」
「当然だな。まぁ座れ」
全員が座ったのを確認すると、一層表情が厳しくなった上で説明を始めた。
「今回、突然現れた陰のソルベルドが聖母リリエルの行動を阻害する為に動いているのには正直驚いたが、俺達には理解できない程に複雑になっている様だ。ハルナには酷かもしれんが、人外の化け物達が王国バルドを起点に蠢いている」
「シャール。その話ぶりだと他のSランカー共も絡んでいるように聞こえるぜ?」
「ドロデスの推測通りだ。と言っても俺が自ら掴んだわけではなく向こうから連絡してくれて関連を知ったのだが、今回ギルドを通して俺に連絡をくれたのは“魔道リューリュ”で、話しぶりから察すると“聖母リリエル”側の可能性が高い」
「おいおい、本当に化け物共が絡んでくるのかよ!魔道リューリュも出張ってくるとなると、Sランカーの残りは二人。そいつらも今回の件に関係あるのか?」
「いや、今のところ確証はないが、聖母リリエルと魔道リューリュがタッグを組んでいるとしたら、その程度の情報を陰のソルベルドが掴んでいないわけがないだろう?二対一で勝てると思う程自惚れてはいないはずだ」
「成程・・・な。残りの二人のどちらか、又は両方がクソ野郎側にいる可能性がある訳だし、逆に聖母リリエル側にいる可能性もある。思った以上にコイツは易しい依頼じゃねーな」
「依頼そのものは聖母リリエルの援助としか聞けなかったが、今更ながら考えればあのSランカーが援助を求める時点で厳しい依頼なのは間違いなかったな。だが、事実を把握しても依頼は受けるのだろう?」
「当然だな」
「だな。で、魔道リューリュは明日にこちらに到着する予定だそうだ。その後全力で王国バルドに向かうように伝えてくれと言われた」
これで<魔術>A一人と<魔術>S二人が同行する一団になるのだが、スロノの能力についてはギルドマスターにも言えないので黙りつつも戦力が遠距離側に大きく偏っているなと感じているドロデス。
「わかった。じゃー、到着したら声をかけてくれ。あの部屋で一晩過ごせば良いんだろう?」
「その通りだ。いくらSランカーと言ってもギルド認定があってこそだからな。ギルド内で何かをする事は絶対・・・と言えない所が情けないが、少なくとも周辺の宿に泊まるよりははるかに安全でゆっくり休めるだろう」
何となく出鼻をくじかれた感はあるが、これ以上ない程の戦力が追加で加わるので更に安全が確保された事は間違いなく、一行は部屋に戻る。
「ドロデスさん?私達の作戦、少し考え直さないとダメじゃないかしら?結構能力が被っているし、遠距離と近接、両極端よね?」
「そうだな。確かに極端ではあるが魔道リューリュであればピンポイントの攻撃も出来るんじゃねーか?それ以外は今迄の作戦を踏襲して、初撃は加わった<魔術>で全力攻撃。その後は俺達も突っ込んで近接を行いつつ魔道リューリュのお手並み拝見だろうな」
「一応本人に可能かを確認してからですよね?俺はそこまで狙えないので、何とか上手く動きますよ」




