(64)作戦を考える
突然スロノが人外の力を持つSランカーと同じレベルの力を持っていると言われた【黄金】なのだが、誰も疑うことはない。
ドロデス達はスロノが運搬の仕事をしていた時代にランウルフ程度に負けそうになっていた現実を見ているのだがそこから何か目覚めたのだろうと思っているし、ミランダは自らの能力調整ができたのは自分と同じ能力ではあるが別格のレベルである<魔術>Sと言われれば納得できる。
更にハルナも従者二人の埋葬時に流れるように魔術を行使していたのを目の当たりにしているので、当時はレベルSなどとは想像もしていなかったのだが言われてみればそれ以外にはありえないのだろうな・・・と、こちらも完全に納得している。
「一応、他言無用でお願いしますね?」
「当然だろうが。俺達を信用して開示してもらった情報だからな。本来は開示する必要がない能力を依頼遂行のために教えてくれたことは理解しているぜ?」
「そうね。冒険者として情報を秘匿するのは必須のところを教えてくれたのだから、私達も口が裂けても言わないわよ。じゃあ、気持ちを切り替えて迎撃について打ち合わせしましょうよ?」
確実に依頼者の元に到達することなく死亡する未来だった今回の依頼だが、状況は大きく変わったので作戦を考えるのにも多少気が楽になっている。
「一応クソ野郎の能力は<槍術>だと考えると、中途半端に近接された時点で対応が難しくなるだろうな」
「えっと、素人考えかもしれませんけど、そこまでのレベルであれば斬撃を飛ばすこともできると思いますよ?なので、遠距離にいるからと言って攻撃されない保証はありません」
スロノは<闘術>Aも持っており<魔術>と比べると射程距離は短いながらも打撃を飛ばせることから、その上のレベルSであれば当然のように斬撃を飛ばしてくるだろうと助言する。
「チッ。そういやそうだな。スロノの言うとおりだ。俺達でも飛ばせるんだから、クソ野郎が飛ばせねーわけはねーな」
確かにドロデスも<斧術>Aなので別格の力を持っているので事実斧を豪快に振り回して周囲に斬撃を飛ばせるようになっていたし、他の二人も各々中距離程度の攻撃手段を持っている。
「近接は、俺が受け流す!」
突然聞いたこともない渋い声が聞こえたので周囲を見てしまうのだが、声の発生源にはなぜか手を挙げている<盾術>Aのジャレードがいた。
生きるか死ぬかの作戦会議では、無口と言っていられなかったらしい。
「本当に久しぶりに声を聞いたぜ。ミランダやスロノは初めてじゃねーか?って、そんなことを言っている場合じゃねーな。確かにそれは必要だ。だが、わかっていると思うが絶対に正面から受けるなよ?受け流せ!相手は人の皮を被ったバケモンだからな」
コクリと頷くジャレードと、返事は声を出さないんだ・・・と、どうでも良いことを考えていたスロノ。
本来最も確実に敵の襲撃を撃退できる方法は各自が持っている能力をレベルSにしてしまうのが良いのだが、残念ながらそこまで能力を収納していない。
レベルSでなく他の能力を付与したとしても、突然初めての能力を与えてしまうと余計に混乱するので何らかの能力を付与する選択肢だけは取れなかった。
つまり【黄金】一行の戦力増強をこの場で行う事は出来ないので、自分が明かした<魔術>Sを含めて効率的な作戦、あらゆるパターンを想定した動きをこの場で決定しておく必要がある。
「俺達が近接して対応している場合、遠距離の二人とハルナを守る必要もあるだろう?仮に守りがジャレードとした場合、俺とオウビがクソ野郎と混戦状態でスロノとミランダは局部的に攻撃する事が出来るのか?」
遠距離攻撃を避けながら反撃するには混戦として味方に被弾する事を恐れて魔術を使えなくするのが最も効果的なので、スロノとミランダがどの程度狙いを定められるのかを確認するドロデス。
「私は正直厳しいわ。本気の二人、格上の一人が混線状態なら動きも相当でしょう?その中で目標の一人だけに攻撃するのは出来ないわね」
「正直俺もです。威力は無駄に高くできますけど、あり得ない程に高速で動く相手に追随させるのは厳しいですね」
【黄金】としてはスロノの<魔術>Sが攻撃の肝になるのだが高速で動いている混戦状態で敵だけに術を行使するほどの練度が無いのが仇になってしまい、そこを理解して少し悔しそうな表情になるスロノ。
「おいおい、全く問題ね~よ、スロノ!いくつか案はある。手っ取り早いのは、混戦になる前に逃げ場を無くすほどの広範囲で術をぶっ放しゃー良いんだよ。もちろんミランダも同じく術を重ねてもらえば、直接的な戦闘が始まる前にクソ野郎の丸焼きが出来るんじゃねーか?」
「そう上手く行くかしら?想像の遥か上を行く存在だから、二の手三の手を考えておくのは絶対よ?」
「そりゃそうだろうよ?だが、こっちもここぞと言った攻撃は重ねがけの術発動だからな。周囲への影響も……あのクソ野郎は全く考える事はねーだろうが、こっちはその辺も考慮しなくちゃならねーのが辛い所だな」
結構なパターンが取り上げられて検討しているのだがその中で唯一選択されなかったのは罠であり、何時何処で襲って来るのか分からない以上、適切な場所に罠を設置する事は難しいだろうと結論付けていた。
「んじゃ、周囲への被害とクソ野郎の武器の優位性を少しでも減らす事を目的に、街道から外れた森やら林やらを移動する。これで良いな?」
普通であれば取り回しの観点から<槍術>を使用する際に不利になる環境を選択しているのだが相手は別格の能力を持っているのでこの部分に関しては気休め程度で選択しており、最大の目的は周囲への影響、移動している人々を含む他の存在に影響を与え辛くすることだ。