(60)王国バルドへ行きたいが
ハルナの同行宣言もあるし、恩あるSランカーのために内容を聞かずして依頼を受けると明言したドロデス一行に対して力になりたいと思っているスロノなので、こうなったら自分も同行するほかないと決断する。
自分が行くことで、聖母リリエルからの依頼のほかにハルナの依頼をこなし易くなるはずだとの思惑もある。
「わかりました。俺も同行させてもらいますよ?ハルナさんの依頼だけではなく、リリエルさんの依頼に対しても力になれるかもしれませんからね」
「はははは。頼もしいじゃねーかよ、スロノ。期待しているぜ?」
話が纏まったので直ぐにでも出国するべく行動を開始し、ハルナの依頼については詳細を聞かずとも王位継承にかかわる話なのは間違いないので道中に聞けば問題ないだろうと、全員が席を立って出口に向かう。
「おや?またお会いしましたな、兄さん。そちらの【黄金】と言う名前負けしている方々もお久しぶりや」
タイミング的に確実にスロノ達の話を聞いていただろう男、スロノやドロデス達にも見覚えがある行商人がギルドに現れた。
本来二つしかない冒険者の禁忌の一つである“裏切り行為”に相当することを平然とやってのけたのだが、残念ながら今の時点で証明する手立ては全くないのでこの場で暴れるわけにはいかず単純に睨みつけるだけのドロデス、ジャレード、オウビ。
「あなたが・・・どう見ても私たちの会話を聞いた上でこの場に来ていますね?初めまして。私、新たに【黄金】のメンバーとして活動していますミランダです。まぁ、自己紹介をするまでもなくご存じでしょうけれど」
怒り心頭のドロデス達では交渉も何もないと理解しているので、あえて一歩前に出て自己紹介から始めているミランダ。
「そうやな。ワイは姉さんの事も知っとるで。なかなかの<魔術>を持っとるようやな」
ミランダは目の前の商人モドキがこそこそ嗅ぎまわっているのも知っているぞ!と、釘を刺したつもりなのだが、何も牽制にはなっておらずに額面通りに受け取った答えが返ってくる。
「それで?コソコソしていると思いきや突然こんな場所にきて、用件は何でしょうか?まさか商品を買ってくれなどと厚かましいお願いではないですよね?」
「そらそうや。流石のワイもそこまで厚かましくはできんて!ホナ、駆け引きは苦手やさかい、スバリ言わせてもらいましょ?依頼を受けた件、王国バルドの依頼はキャンセルしてほしいんですわ。もちろんタダとは言いまへん。こんなもんでどうでっしゃろ?」
胡散臭い商人の男が手に持っていたのは誰がどう見ても黄金であり、ドロデス達にしてみればパーティーの名称になっていることから明確に馬鹿にされていると受け取る。
この場で暴れるわけにはいかないが、以前の背後からの攻撃の復讐もあるのでどう料理してやろうかと考えていたのだが、ここまで熱くなってはいつもの力を出せないだろうに・・・と、直接的な攻撃を受けていないからか冷静なミランダが継続して対応する。
スロノにしてみれば特段嫌なことをされた訳ではないので一歩引いてはいるのだが、目の前の男とドロデス達では信頼度において比較する必要もないので警戒は怠っていないながらも今のところは自分自身に能力を付与していない。
少し前に色々とドロデス達と過去の経験について話した結果この男は普通の行商人ではないうえに、今思えばあの時にもスロノが強めの能力を行使した気配を察知していた節があるからだ。
「申し出は理解しましたが、ギルドを通して正式に受注していますから撤回はしません。これが私達【黄金】の総意です」
「頭が固い姉さんやの~。どの道依頼は上手くいかへんって!それならば、態々遠くまで足を運ばずに多大な報酬を得るほうが利口ちゃいます?」
勝手な言い分が続くので、流石にドロデスが切れて大声で反応してしまう。
「しつけー野郎だな。たった二つの禁忌も守れねーようなクソ野郎の言葉なんぞ信用できるわけがねーだろうが。あぁ?」
完全に切れている【黄金】なのでギルド内部とはいっても相当危険なのではないかと怯えている冒険者が多数おり、流石に騒ぎを聞いてギルドマスターが出てくる。
「何を騒いで・・・お前か!」
お前が指している人物はドロデスではなく胡散臭い訛で話している行商人に対してであり、ギルドマスターはいつもとは異なって即何かを告げることはしない上に少々汗をかいている。
「随分と偉そうなギルドマスターやな。ワイが今ここで何かギルドに迷惑をかけているわけでもないでっしゃろ?むしろこの濁った黄金が喚いているだけとちゃいますか?」
「この野郎・・・我慢ならねー、表に」
「ドロデス、止めろ!」
過去の事情を知っているかは不明だが、ギルドマスターから非常に信頼が厚いドロデスが切れている状況を見ても以前のようにこの場を上手く収めないばかりかドロデスに行動制限をかける。
まさかギルドマスターから制止されるとは思ってもいなかったので少々面喰い、少しだけ冷静になれたのか事情をかいつまんで説明する。
「おいおい、何を言っていやがる?こいつは禁忌すら平気で破るクソ野郎だぞ?その上に理由もなしに依頼を蹴るように言いやがる。何の権利があってここまでふざけた態度をとれるんだ?」
「ドロデスの言いたい事は理解できる。だが、相手が悪い」
何が何だかわからない表情の【黄金】一行は行商人に視線を固定しているギルドマスターと行商人を交互に見ているのだが、この状況でも行商人の男はふてぶてしい態度を崩すことがない。
「ギルドマスターはよくわかってはるな。くすんだ黄金も理解せんとあかんで?」