(6)ロイハルエスとトレン
休みが始まります!
この世界で戦闘を行う者、特に獣や魔獣と呼ばれている存在と戦闘を行う場合には、複数の異なる能力を持つ人物が纏まりパーティーを組んで対処するのが一般的だ。
その理由は最初に認識した能力に他ならず、基本的には各自が一つ能力を持って活動しているために回復が出来る者、攻撃魔術が使える者、身体能力の高い者、夫々得意な分野が大きく異なる事から互いをカバーして行動する必要がある。
ギルドに所属している略全ての冒険者がパーティーを組んでおり、理由はどうあれ単独で行動しているスロノは異質な存在ではあったのだが、この町のギルドでは薬草採取関連の依頼しか受けていない事から危険性は極めて低いためにソロでもやって行けるのだろう、と、受付を含めた全員が判断していた。
最終的には追い出された形になったのだが、最後に所属していたパーティーの仲間であったリノと、パーティーを破壊する為に派遣されて思惑通りに事が進んで気分を良くしていたトレンは、あろう事か元凶とも言えるロイハルエスと共に依頼を受けて活動していた。
リノにとってみれば恐怖の対象、自らを追い出した元凶とも言える存在なのだが、現パーティーリーダーのトレンの強い要望もあって断れずにロイハルエスとその取り巻き・・・当然女性だけで構成されている一行と共にブタの顔をして強靭な肉体を持つ魔獣のオーク討伐依頼を受けていた。
能力としては、リノは<回復>、トレンは<索敵>、ロイハルエスは獣を操る事が出来る<操作>の能力持ちで、その他の有象無象は<裁縫>だの<調理>だの、魔獣討伐に使えるような能力を持っている者は殆どいなかった。
ロイハルエスも<操作>Eなので、せいぜい制御できたとしても最弱の魔獣と呼ばれている粘性の生き物であるスライムを一体制御できるか否かと言った所で、当然のようにオークを、それも複数体支配する事などできはしない。
各自が実力を大きく見誤っていたのかと言うとその部分がある事は否定しないが、取り巻き、リノを含めた肉の盾を利用する事によって数体であれば討伐する事は可能であると言う甘い判断からの行動だ。
討伐依頼を受けるにあたり、今迄の実績から想像できる実力の数段飛ばしの相手であるオーク討伐依頼を受けたので受付としては引き止めてはいたのだが・・・贅沢三昧の男性二人なので、最早資金が枯渇して今の生活を維持できなくなっていた事に耐えられなかった。
取り巻きを奴隷商に売ると言う悪徳非道な事も出来なくはないが、そこまで露骨な事をすると次の取り巻きが来ない事、今までの実績からギルドからは監視対象になっている気配が伝わってくるので、大人しく少々厳しい依頼を受ける事にした。
厳しい依頼と受付に認識されているが故に過去と同じように生贄によってメンバーが削減されてしまっても、戦力不足であった事は明らかなのである意味余計な疑いはかけられないだろうと言う甘い思惑も有った。
その結果・・・
「おい、早く俺を助けろ!」
「いや、俺だ!うわぁ~」
囮など使う余裕は一切なく、魔獣を討伐できる実力も能力もない為にその全てがオークに飲み込まれていたのだが、リノは何故か今日の依頼から荷物を全て持たされていたので最後方にいたのが功を奏して荷物を全て捨てて一気に逃げてギルドに駆け込んだ。
「リノさん、だからあれ程言ったではないですか!あなた達にはオーク討伐は荷が重いと!こうなる事は貴方達以外の誰もが把握していましたよ!!」
「で、でも・・・助けてください!お願いします!!」
この場にいる冒険者、スロノを含むのだが、実力的にオーク複数体を相手にしても勝利する事が出来る存在はいるのだが、誰一人としてリノの懇願とも言える救出に向かおうとする者はいない。
「リノさん?貴方は現場から運良く逃げてきたのですよね?であれば、残念ですが相当時間が経過しているはずです。仮に誰か一人でもオークに対抗できる戦力がいるのであれば救出隊を向かわせる事も考えますが、あのメンバーではもう生きてはいないでしょう」
受付のこの一言が全てを物語っており、<回復>Eしか持っていないリノが現場からこのギルドに戻ってくる時間であれば、オークが獲物を確実に始末するには十分すぎる時間と認識されていたからだ。
「そ・・・そんな」
リノも少し距離はありながらもその目で手も足も出ずに嬲られているトレン達を見ており、薄々感じてはいたが受付から事実を直接的に告げられて膝をついて愕然としている。
一方の受付はこうならないように日々的確な助言を行っていたのだがその一切を無視して想像通りの結果になっただけの自業自得だと思っており、同じような経験を何度も繰り返しているおかげか極めて冷静に事務的に対処する事が出来ている。
「リノさん?この後現場には調査隊を派遣しますが、間違いなく使い物にならない遺留品が数点残っている程度でしょう。その後パーティーは解散と言う処理を行いますので、今後については早めに考えておいてください」
敢えて救助隊と言わずに調査隊と言っているのは、既にしっかりと当人に説明しているのでそれ以上の言葉をかける事なくさっさと受付に戻ってしまった。
「随分と冷静な・・・と言うよりも、そうじゃなきゃ冒険者を相手にする受付などやってられないのかもしれないな」
やり取りの一切を冷静に観察していたスロノは、相変らず独り言を呟きながらも茫然とし続けているリノを冷めた目で見つめていた。
周囲の冒険者も慣れたもので、一瞬静まり返ってリノと受付の話を慎重に聞いていたのだが誰しもがもう手遅れだと正しく認識しているので一切腰を浮かす事無く再び喧騒に包まれる。
一部の者達は自らの恋人や剰え妻、更にはパーティーメンバーを強引に引き抜かれるような形になった経験をした者もいるようで、凶報を聞いて楽しそうに酒を飲んでいる者すらいる。
冒険者は力と結果が全てであり、奪われれば報復を!と考える者もいるのだが、今でも未練のある奪われた人物が敵側にいるので手が出せず、中には既に囮や生贄になって行方知らずの者もいるのだが、生存していないと言う情報が全く掴めずに淡い期待を持ってしまい報復できなかったのだ。