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収納ってなんだろう!  作者: 焼納豆
55/234

(55)貴族の護衛と過去の話

 ミランダから自分が手を抜いていたと指摘されているスロノは、暫くぶりに会った彼女も相当成長しているのだと理解できて嬉しくなっている。


 既に能力は全て収納しているので周囲の喧噪も何を言っているのか分からないし早足で去って行った二人の貴族も何処にいるのか把握できていないスロノは、闘技場の上で倒れている三人に対して【黄金】の面々が怪我の無い様に多少の刺激を与えて意識を戻しているのを見ている。


「うっし、そんじゃあこいつらは暫くシャール預かりって事で良いよな?」


 ドロデスの否とは言わせない強制的な一言によって、普段相当無理を聞いてもらっている立場のギルドマスターとしては断れる訳もなく少々ふらふらしている三人と共に消えて行く。


「こうしておかねーと、あれだけ脅して尚余計な事をして来る奴もいるからよ?まっ、さすがにギルドマスター預かりであれば貴族様と言ってもそうそう襲う事はできねーからな」


 どのような立場であの二人の若手貴族の護衛についたのかは不明だが、あっさりと切られた挙句に護衛としての任務を全うできなかった事もあり、逆恨みから襲われるところまで考慮していたドロデス。


「本当にドロデスさんの言う通りよね。もう嫌になっちゃう。こればっかりは何回経験しても慣れないわ!」


 ミランダもブチブチ文句を言ってはいるが、その視線は優しく三人の護衛だった者達に向けられている。


 その後は席に戻り何事もなかったかのようにスロノの旅についての話を始める事ができるのは、全員・・・ハルナも含めて数え切れない多種多様な経験をしてきたからだろう。


 本当はハルナの国についての話をミランダがする予定だったのだが、今回の戦闘でスロノの実力の一端が明らかになった事もあって道中どのような経験をしたのか知りたくなっていた為にこうなっている。



「スロノ。まぁ、この場所にも相当面倒な連中がいるのを理解してもらえたと思うが、旅をしている間にも色々な連中と遭遇したんだろ?取りあえず最後のリノって奴の話は聞いたが、その他の事も教えてくれよ!」


 食事をしたばかりなのだが、再び大量の食糧が並べられている席で楽しそうにスロノに話しかけるドロデス。


 同じ席に座っている【黄金】のメンバーであるシャレード、オウビ、ミランダ、そしてスロノが連れてきた獣人のハルナも実は全員興味津々だ。


「別に構いませんよ。以前ドロデスさんが話していた通りに相当な人がいましたね。リノの話は既にしているので他の話になると・・・正直沢山あり過ぎますけど、どれも楽しい話ではないのが残念です」


「はははは、それも経験だろう?そこまで酷いのも珍しいが、何度も言うがその経験があって今のスロノがいるんだぜ?」


「でも時折ふと思うんですよ。最初にドロデスさん達に会っていなかったら、その後に出会えたのがミランダさんじゃなかったら、同じように旅をしたとしても心が折れていたかもしれないって」


「おいおい、嬉しい事を言ってくれるじゃねーかよ、なぁ?ミランダ!」


「そうね。私もスロノ君には相当助けてもらった立場なのであまり偉そうな事は言えないけど、そう言ってもらえると嬉しいわ!」


 ギルド内部にある食堂で盛り上がり始めるが、少し前の偉そうな貴族の惨状を見ていた事が原因で周囲に近づいて話を聞こうとするような面々は誰一人としていない。


 寡黙なジャレードとオウビは、同じく何を話せば良いのかわからなそうにしているハルナに食事と飲み物を勧めるようなしぐさをしており、そちらはそちらで交流が出来ているようだ。


「それじゃあ楽しくないながらも良い経験をした話ですと、ミランダさんに黙って出て行った直後に活動した話なのですが・・・」


◇◇◇ 数年前 ◇◇◇


「とりあえずミランダさんには申し訳ないけど、悲しい別れだけは御免だから仕方がないな」


 一人納得しつつ歩を進めているが、あまりにも近いとミランダを含む【黄金】と予定にない再会をしてしまう可能性を考慮してある程度の距離を確保した上で初めての町に到着したスロノは、到着したこの町でも同じように運搬の仕事を行う事を決めており当然単独行動をする予定でいる。


 冒険者からは最底辺の仕事と認識されて見下される可能性が高いながら、今での経験から同種の魔獣や獣であったとしても生息地が異なれば得られる能力も異なる事を知っており、安全に新たな能力を手に入れられる事を期待している。


 今のスロノであれば相当な力を収納しているので安全に狩りが出来るし高い能力を持つ敵を相手にしても大丈夫ではあるのだが、特段名の知られていない単独の冒険者が突然現れてそのような事をしては悪目立ちする事は間違いないと思っており、敢えて過去の行動を踏襲している。


 到着した町は王都とまではいかないながらもある程度栄えておりこれならば運搬の仕事も簡単に見つける事が出来るだろうと安堵していたのだが、いつの間にか大勢の人込みに飲み込まれてその流れに逆らえずに全く意図しない方向に進んでいた。


 周囲の話を聞く限りでは何かから逃げたり迎撃に向かったりするような危険が伴う話ではなく、どうやら有名な行商人が予定にないまま突如として来訪した為にその話を聞いた全員が慌ててその場所に向かっている事を把握して安堵しつつ、どう考えても強制的にこの流れから離脱するには周囲に影響を与えてしまう可能性が高いので流れに身を任せている。


 やがて大きな広場に到着するとそこには既に多数の人だかりがあった為に、何とか徐々に壁際に移動して少しでも自らの意志で動けるような立ち位置を確保しつつ、折角なら……と、多少の能力を自らに付与して遠目から行商の様子を見る事にした。


 付与した能力はどのような品を売っているのか把握するための<鑑定>と、品を遠目で見られるように基礎能力上昇を行うべく<闘術>だ。


 体を使う能力の<闘術>や<剣術>は身体能力を劇的に上昇させるので、距離が離れて通常では見えない品々も確実に視認することができる。


 鑑定の結果は一般的な品々、所謂生活必需品やら消耗品だったので特段興味が湧く品ではなかったなと思い、能力を再び収納している非常に短い時間で背筋に氷を入れられた様な感触を受けてしまったスロノ。


 能力を収納しつつ感じたモノであり、収納が終わると何も力のないスロノが違和感を覚えるわけもなくもちろん遠くの行商人を識別できるわけもない。


「何だったんだ?」


 仮にここが町の外であれば身の危険を感じて再び能力を自らに付与したのだろうが、今は周囲に人が多数いるので安全だろうと思い特段何かをすることなく行商人のいないほう、人が少ないほうに向かって歩き出すスロノ。


「ちょっと兄さん!」


 背後から声がして振り向くと能力を付与した際に認識していた行商人が目の前にいたのだが、この距離を瞬間移動できるわけもなく他人の空似なのだろうと普通に対応するスロノ。


 スロノの仮定は完全に外れており、この男は相当なレベルの身体能力が上昇する何らかの能力を持っているのでその力を使ってここまで瞬時に移動していた。


 実はスロノが感じていた背中の嫌な感じはこの男がスロノの視線を感じ取り、その気配をつかもうと周囲を警戒していたのが原因だ。


 全容をつかむ前にスロノが発していた気配は完全に消えてしまったので、行商人の男は気配を察知したこの辺りで自分から遠ざかろうとしている存在に声をかけていた。


 スロノが高い能力を駆使していたと把握したわけではない。


 今のスロノは戦闘に関する力など何もない所謂不遇と呼ばれる状態なので、現状でありえないほどの力を行使できる存在だと明らかになることは絶対にない。


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