(51)若手の教育
「死地に赴いて帰ってこられるほどの実力者であれば、真剣勝負一択しかないはずだ!そうだろう?今更泣き言を言わないよな?」
ギルドマスターのシャールとしては戦闘条件の選択権をスロノに与えているのだが、若手の一人が割り込むように大声で叫ぶ。
「このクソガキ・・・」
思わず本音が出てしまったシャールだが、相当不利な条件を突きつけられ、そもそもこの戦闘もあり得ない程の理不尽な言いがかりの結果なのだが、ターゲットとなっているスロノは全く表情に変化がなく涼しい顔のままである事から強制的に怒りを押し留める。
「俺はそれで一向に構いませんよ?でも当然条件は良く知っていますよね?回復薬を使用した場合は実費、後遺症が残ったり死亡したりしても文句は言えず、対戦相手の俺に対して何かを請求する事も一切出来ない。全てをしっかりと理解した上で言っています?」
スロノとしては、目の前の二人が【黄金】との出会いのきっかけになったレベルDの洗礼とも言える行動をした面々と同じような性格だな・・・と呑気に考える余裕すらあったのだが、言われている若手の冒険者側からしてみればバカにされているようにしか聞こえない。
「お前・・・随分と強気だな。さっきから俺のメンバーがしっかり鑑定して<収納>Eと言うしけた能力しかない事は分かっているんだよ!そうなると、どうせ何らかの攻撃と防御の魔道具を持っているんだろう?」
「そうそう。だけど残念でした!俺達は魔道具を無効にする魔道具を持っているんだよね!あははははは、これでお前の本来の実力が見られるわけだ」
若手に相応しくない傲慢な態度、間違いなく実力に合致していない武器を持っていると誰しもが思っていたのだが、どうやらどこぞの良い所の出のようで、魔道具を無効にすると言うとてつもない程に貴重で高価な魔道具を持っていると宣言している。
これほどの数の第三者がいるところでそのような事を言えば魔道具を奪う為にギルドから出た直後に襲われる可能性が非常に高くなるのだが、周囲の者達が想像している通りに相当地位のある家の者達であり、実は陰ながらしっかりと護衛が付いている。
「はっ、本来の力がねーのはテメー等だろうが?随分と偉そうな立場の者みてーだがよ?俺達が護衛の存在に気が付いていねーと思ったのか?甘く見られたモンだな。あぁ?」
【黄金】のメンバーであれば護衛程度の存在は直に看破できるし、レベルは少々落ちるが相当な修羅場を経験している<闘術>Bを持つギルドマスターのシャールも気が付いていたのだが、今の時点で漸く能力を自らに付与しようとしているスロノは正直気が付いていなかった。
スロノとしては護衛がいてもいなくても結果は何も変わらないので眉をしかめるような事は無く、逆にドロデス達が護衛まで付いている相当地位のある人間だと把握した上で自分を庇う為に行動してくれようとした事が嬉しくて頬が緩む。
「今更謝罪しても、もう遅いぜ?立場をわからせてやるからな!」
「そうそう。今更何を言おうがお前の運命は決まっているんだよ。それにもう隠すまでも無いが俺達は貴族だ。身分を隠して下々の事を知ろうとしていたけど、有名になっている【黄金】も底が知れたし、はっきり言ってこれ以上冒険者として活動する必要性も感じないからな。あと腐れ無い程にボコボコにしてやるよ!」
相変わらず威勢が良いのは若手の中の二人であり、残りの三人は何も話すような事はせずに黙って成り行きを見守っている。
「あっ、成程。大人しい三人が護衛の一部だったのですね。同じような年齢に見えますが、しっかりと鍛錬して相当な力を得ている・・・と。そして喧しい二人は見た目通りに雑魚と言う事ですか。はぁ~、子供のお守りも大変ですね。立場があるので従うしかないのでしょうが、その辺りはしっかりと考慮しますので安心してくださいね?」
突如としてスロノが全てを見通した事を伝えてきたので、流石に二人の貴族は一瞬黙り込む。
言われている事は事実で、若手の三人は自分の護衛兼パーティーメンバーとして同行させているので指摘の通りに自分よりもはるかに強く相当な修羅場を潜ってきていると知っているからだ。
鑑定によってスロノの能力が<収納>Eであると判断したのも三人のうちの一人なのだが、逆に鑑定されるとは思っていなかったようで僅かな動揺が見られる。
僅かで済んでいるのは見た目の年齢とは裏腹に相当な経験を積んできたからだろうが、甘やかされている貴族二人はそうではない。
「・・・!?」
「まさかとは思うが、【黄金】の誰かが俺達の情報を伝えたのか?それともギルドマスターか?汚いぞ!」
完全な言いがかり以外の何物でもなく、ドロデス達【黄金】としてもクズ二人は別にして残り三人の動きから相当訓練されている存在だと理解している中で、スロノも鑑定のような能力ではなく今迄の経験から見破ったのだと思っている。
若手貴族の言うような事は一切していないので半ば諦めつつも否定しようとしたドロデスなのだが、ギルドマスターのシャールに止められる。
「おいおい、俺達が何を・・・」
「ドロデス!こいつ等には何を言っても無駄だ。不快な時間が長引くだけだからここは悪いが抑えてくれ。それとお前等に伝えておく。俺や【黄金】はスロノに何も情報を与えていないし、助言すらしていない。これだけ不条理な言いがかりで相当有利な条件を突きつけているお前等の方が汚いと言う言葉に相応しいのだがな」
「ギルドマスター程度の分際で!俺達の立場は少し前に明かしただろう?身分の違いも分からないのが冒険者なのか?」
あくまで立場上敬うべき貴族なのだと主張しているのだが、海千山千のギルドマスターにそのような甘い考えが通じる訳がない。
「そのギルドマスターの権限でお前達の望みを一つ叶えてやる。冒険者としての活動の必要性を感じないと言ったな?ならば、自らその権利を放棄したものとみなし資格は剥奪する。希望を叶えてやるだけだから文句はないだろうな?」
相当な圧と共に宣言されては、確かに自分が冒険者としては活動する必要性がないと言ってしまった以上は反論できずにその分スロノに対する視線が厳しくなる二人だ。