(50)少しだけ力を使う
「おい!テメー等、随分と大人しくなったじゃねーかよ?あぁ?俺達の楽しい一時を二度も邪魔しやがって、そのまま帰れるとは思っちゃいねーだろうな?」
ドロデスがスロノに文句を言って来た若手冒険者達を睨みながら恫喝しているので、口うるさい二人の冒険者達は怯えて下を向いて震えているだけ。
周囲の冒険者達は【黄金】にケンカを売ると言う自殺行為が出来る訳も無いので、只管存在を消してとばっちりが来る事を避けている。
ドロデスは一度目はキツク口頭でお灸をすえる程度で見逃していたのだが、その後ギルドマスターの指導を受けて尚再度文句をつけ、第三者が犇めくこの場でスロノの能力を宣言した挙句に戦闘系でないと把握した上でケンカを吹っ掛けてきた事が許せないので、実際にこの後は強制的に自分が相手をしてやろうと思っている。
ギルドに対する交渉、依頼人との交渉などは普段ミランダが行っているのだが、こう言った荒事は見かけ厳ついドロデスの方が適しているので全て任せており、今回の騒動ではドロデス達と同じく若手冒険者の態度が許せないので止める事もない。
この流れで行けば間もなく若手冒険者はギルドマスター承認の元で闘技場に移動させられ、大勢の冒険者が見ている中でドロデスに完膚なきまでにボコボコにされる未来が確定する。
暫くは怪我の影響で大人しくなることは間違いないのだろうが、ギルドマスターにすらたてついている冒険者達がそのままでいるはずも無く、弱者で【黄金】に取り入っている雑魚であるとの認識のスロノが単独で動いている時を狙って襲い掛かる可能性は非常に高い。
【黄金】やギルドマスター、更にはこの状況を見ている依頼書を握りしめている受付の女性ですらその程度は把握できているので、暫くはしっかりとこの冒険者五人を監視しなくてはならないと考えている所で徐にスロノが立ち上がる。
「あの・・・、皆さんが考えている事は良く分かります。指導の後でも大人しくするわけがないと思っているのでしょう?」
「・・・そうだな。スロノの言う通りになると思っているからな。ちょっときつめに指導してやろうと思っているが、どうだ?数か月動けねー程ボコれば良いんじゃねーか?」
スロノも自分達と同じ事を考える事が出来ていると把握したので旅をする事で相当な経験をしていたのだろうと嬉しくなっているドロデスだが、言っている内容は厳しい。
「それも有りかもしれませんが・・・実際に俺と闘って結果を理解すれば、今後余計な騒動は起きないと思います」
スロノが<収納>Eだけの力ではないと分かってはいるのだが、本当の強さを完全に把握できているわけではないので確認してしまうドロデス。
「おい、スロノが戦るのか?」
「そうですね。彼等の希望もそうですから、今回に限り直接対応しようかと思っています。これも、ドロデスさん達から背中を押してもらって旅をした事で身につける事が出来た力ですよ」
【黄金】の表情に少しだけ不安が見えた事を見逃さなかったスロノは、複数を相手にする事に対して全く問題ないと安心してもらう為に冷静に返す。
余裕の口調から、確実に勝つと言う言葉を使わず共その意図をしっかりと理解した【黄金】一行とギルドマスターのシャールだが、若手達は無駄に息を吹き返す。
「はっ、偉そうに。旅をする程度で<収納>Eが強くなるわけがないだろうが!」
もうこれ以上は何を言っても無駄だと、シャールがこの場を纏めにかかる。
「は~、ピーピー喚くのはその程度にしておけ。で、スロノは直にでも対処できると言う事で良いか?」
「そうですね。面倒な些事はさっさと済ませるに限りますから。ですが一応マスター承認の上での戦闘と言う事で、罰則は無しでお願いしますよ?」
「はははは、それはそうだろう。大丈夫だ。たとえ手足がもげようが、間違って死んでしまっても罪には問わない事を約束しよう」
完全に自分達を無視している挙句にまるで手も足も出ずに敗北するかのようなやり取りを目の前でされているので、怒りでプルプル震えている口うるさい二人の若手はここぞとばかりに有利な条件を呑ませる方向に移行する。
「そ、そこまで言うのであれば、俺達全員を相手にしてもらおうか?死の淵から生還できるほどの強さがあれば、一つのパーティーを相手にしても楽勝のはずだからな。まさか今更逃げないよな?」
流石にコレはどうかと思っているシャールが文句を言おうとするのだが・・・
「そうですね。個別に相手にすると時間の無駄で面倒ですから、纏めて相手になってあげますよ?」
あっさりとスロノが申し出を受け、自分よりもスロノの事を良く知っているはずの【黄金】のメンバーがその言葉を聞いて動揺する素振りを一切見せない事から許可を出す。
「良いだろう。何より不利になるスロノが良いと言っているからな。だがお前達に伝えておく。ここまで有利な条件で無様を晒した場合、他人の能力を公に宣言した事も含めてきっちりとギルドとして指導する事になる事は覚えておけ。じゃあ、早速行くぞ?」
スロノがすぐにでも対応できると言った事を確認していたので若手冒険者達には都合を聞く事無く移動を始めるシャールと、その後ろをついて行く【黄金】一行、スロノ、ハルナ、若手冒険者五人、そして野次馬冒険者多数。
向かっている先は冒険者の鍛錬場になっている空間の一角であり、実際に戦闘訓練までできる闘技場を備えた場所。
「で、条件はどうする?」
条件とは、武器の刃を潰して殺傷能力を下げたり特殊な道具を使用して魔法の威力を下げたりした上で比較的安全な状態で戦闘を行うのか、真剣に行うのか・・・だ。
通常鍛錬と言う意味合いで両者合意の元であれば真剣な戦闘が行われる事も稀にあるのだが、その場合には回復薬は準備されるのだが命の保障は無く、当然結果による罰則も適用される事はない。