(5)スロノの能力
今日も連投したいと思います
「今日も無事に一日が終わったか。あの少年に<剣術>が芽生えて育てば良いけど、現実は厳しいだろうな」
宿の一室で相変わらず独り言を呟いているスロノは、自分の能力を何となく確認する。
自分の能力であれば意識する事で目の前にその能力が他人には見えない状態で表示されるが、鑑定の能力者によって鑑定しても同じような表示が行える。
スロノの表示には相変わらず<収納>E.の文字が浮かんでいる。
「このE.がなぁ~。俺も最初に見た時にはどうやって生活しようか悩んだけど、これのおかげで安全に生活できているので助かるな。ここには電気もなけりゃスマホもないし、完全に路頭に迷うかと思ったぜ」
この言葉からわかる通りにスロノは日本で生活した記憶が若干残っている人物であり、その恩恵なのか、通常であれば能力のレベルを示すだけの表記の後ろに小さな“.”が見えている。
「こいつを拡大すると・・・まさかだよな。これであればこのまま鑑定されてもレベルEとしか見えないだろうから、周囲も油断してくれるから助かるっちゃ助かるが」
自らの目の前に浮かび上がっている文字を拡大させるスロノ。
通常の鑑定能力による鑑定を行った場合にはこのような事ができる訳もなく、またする必要もないので見逃されているのだが、自分で表示した物であれば如何様にでも操作できるために拡大を続けているスロノ。
そこには・・・・・・
<収納>Ex と表記されており、小さな“.”は“x”を表していた。
この世界のレベルはSからE迄の分類とされているのだが、最上位と認識され、その力を持っているのも世界中で数人しかいないSを凌駕するレベルだったのだ。
一般的な<収納>はその名の通り収納して排出する事ができる能力ではあるが、基本的には無生物の物体のみを収納する事ができる。
スロノの能力は当然大きく異なっており、生物だけではなく能力すらも収納できるのだ。
その排出先を自分にすれば好きに能力を使えると言う優れものであり、仮に鑑定されそうになれば再び収納に戻せばその能力は鑑定される事は絶対に無い。
排出対象を他人にする事もできるのだが、一時少しだけテストもかねて過去のパーティーメンバーに能力を与えてみたところ、当然のように増長してスロノ自身の扱いが一気に悪化した事から、その能力はしっかりと回収、収納し、さっさと脱退した経緯がある。
「しっかし、随分と集めたもんだ」
自身の収納の中には生活物資や素材、貨幣も大量に入っているのだが、能力も数多く入っている。
リノが持っている<回復>や少年が渇望している<剣術>もあるのだが、本当に信頼できると確信した時でなければ絶対に能力を与える事はしないと誓っていたので、誰にも与えていない状態のまま保管されている。
「ぶっ壊れ性能だとは思ったけどさ」
実はこの各種能力、本当の例外を除いて人から奪うような事はしておらずに獣達から奪った能力であり、例えば少し前に討伐したゴブリンも個体によっては<剣術>Eやらを持っているのでその個体から能力を抽出保管している。
過去に能力の統合を試したところ、なんと同じ複数の能力を統合するとレベルが上昇した能力として保管しなおす事が出来ており、その結果どうなるかと言うと・・・結構な数の能力が高いレベルで収納されていると言う破格の状態になっており、隠してはいるが実力は相当高い冒険者になっている。
実は高いレベルの<鑑定>も持っているのであの薬草採取場に気を失ったふりをしていたトレンの事も看破できたのだが、経験不足もあってリノを追いかけて周囲の気配を掴む方に意識が向いていたのでそこには至らなかった。
残念ながらリノは結果的に多少の甘い言葉によって態度が一変し、恩人とも言えるスロノに事実確認する事なく切って捨てるような事ができる存在であったので、あの場で鑑定してトレンが無傷であったとしてもこの結果は変わらなかっただろう。
相変わらず薬草採取の依頼を受けつつ時折あの少年と合って会話を楽しみながらも、無意識のうちに一線を引きながら接してしまっているスロノ。
ギルドの受付の対応も少々厳しくなってきたなと感じており、どうせ嘘しかないトレンやリノの話を鵜呑みにしているのだろうと判断し、この町も潮時だと思い始めていた。
「どの道、あんな連中を視界に入れるのが苦痛だからな。丁度良いか?」
あんな連中とは、当然リノ、トレン、ロイハルエス達の事を指しているが、そうでない人物もおり、最後にあの少年に挨拶だけはしておこうと思い、依頼時に会えたら別れを告げて翌日にでも町を出れば良いかと考えてその日もギルドに薬草を納品し、食事はどうしようかと悩んでいた。
「この場所もあと少し。どうせならギルドで食事をしてみるか?」
今までは一人で食事をするのが少々寂しかったので、周囲で仲間と楽しそうにしている冒険者が羨ましい事もあって宿や道中の店で食事をしていた。
リノといる時にはロイハルエスとなるべく会わないように配慮していたのだが、もうそのような事をする必要はないしこの場所での食事が経験できるのもあと少しの期間だと思い、思い切って食事を注文する。
やはり周囲が楽しそうに今日の依頼について話したり明日の依頼の相談をしたり、更には関係ない話で盛り上がっているのを羨ましそうに聞きつつモソモソと食事をしていたところ、入口から大声を叫びながら入ってくる冒険者がいた。
「た、助けてください!オークの群れに仲間が囲われてしまいました!!お願いします!!」
そこには傷だらけのリノがおり、いつも一緒にいるトレンとその取り巻きの姿は見えずに思わず周囲を確認したところ普段この時間にはこの場所にいるロイハルエス一行もいない事に気が付いたスロノだが、その視線は少々冷めたものだった。