(48)冒険者とギルドマスター
ギルドの一角で楽しく食事をしている【黄金】のメンバーと、見た事がない男性一人と獣人の女性一人。
昔からギルドに勤めている職員、長くこのギルドを拠点としている冒険者は男性の名前がスロノと聞いた時点で全てを思い出して違和感なく今の状況を受け入れているのだが、【黄金】の噂を聞いて肖りたいと思っている面々にとっては自分達は箸にも棒にもかからないのに、何故ポッと出の存在があれ程親しそうに出来ているのか納得できない。
更には人族の間では見下す対象となっている獣人まで居るのだから、気持ちが抑えられない部分があっても仕方がないのかもしれない。
受付もいるので万が一にも【黄金】側から何か手を出そうとした際には止めてもらえると言う冷静な部分もありつつ、数人が思い切ってスロノ達のいる席に近づく。
「おい、薄汚い獣人がこの場にいて良いと思っているのかよ?」
「そうだ。俺達が崇め、目標としている【黄金】のメンバーに迷惑をかけているのが分からないのか?それにお前もだ。この薄汚い獣人を連れてきた挙句に図々しくも共に食事をしているお前だ!」
スロノについて知っている冒険者はこの状況を見て血の気が引き、受付もスロノの事をしっかりと思い出しており、まるでミランダが【黄金】に加入した時の様だと思いつつもどう対処すべきが少々悩んでしまうが、何もしなければ若い冒険者達は瞬時にボコボコにされるかもしれないと多少の焦りから良い結論が出てこない。
「おい、オメーら!」
焦る受付がどう対応するか少々悩んだ一瞬のうちに、ドロデスが立ち上がり若い冒険者と対峙する。
「鬱陶しいが、先ずは少し状況を話しておくぜ?俺が、俺達がスロノを受け入れたのは過去、明らかに死地にいる状況でも諦めずに必死に対応していたからだ。それに他者を思いやる心も持ち合わせているからな。俺達が出来る事はしてやろうと思ったわけだ。それに引き換えテメーらは何だ?努力もしねーでピーチクパーチク囀りやがって!ウルセー事この上ねーぞ?」
完全に悪い意味で憧れの【黄金】から目をつけられたと思った若い冒険者達は、慌てて反論する。
「と、とても死地に赴いて対処できる力があるとは思えません。絶対に【黄金】の皆さんの優しさに胡坐をかいているだけです!」
「そうですよ。レベルは明かせませんが俺の能力は<鑑定>です。その上でコイツの能力は<収納>Eでした。コイツが死地に行っても本当に死ぬだけですよ!皆さんに取り入る為に何か汚い事をしていたに違いありません!」
普段のスロノは町中で活動している際には安全が確保できているとの判断から自分自身に過剰な能力の付与はしておらず、特に今日は【黄金】の面々と素のままで飲み明かしているので何も能力がない状態、つまり目の前の男が喚いている通りに元から持ち得ている<収納>E.しか持っていない状態だ。
「あのよぉ、テメーらがどう喚こうが俺の判断は、俺達の判断は変わらねーんだよ。折角良い気分だったのに面倒クセーいちゃもんつけやがって。態々公衆の面前で他人様の能力までペラペラ喋る所も気に入らねー!結局のところ何が言いてーのかわからねーが、すり潰されてーのか?」
寡黙な二人のジャレードとオウビも若手冒険者達に対して怒りの表情をしており、普段ならば仲裁に入りがちなミランダも頭に来ているようで、間に入るそぶりを一切見せないままに厳しい視線を若手の冒険者達に向けている。
こうなると一受付で騒動を抑えられるわけも無く、本来は受けてもらいたい依頼について話をしたかったのだが急遽同僚に視線で救済の合図を送る。
幾ら怒っている【黄金】であったとしても最低限の理性は保てているのは明らかでありこの場で周囲を破壊するような暴れ方は絶対にしないと分かっているのだが、最早互いに引けない所に来ている事も明らかなので上位の存在に出てもらって場を治めてもらう事にしていた。
流石に各種騒動の対応もお手のもので、窓口にいる受付も即座に行動してギルドマスターであるシャールが出てくる。
「おいおい、どうしたドロデス。って、ミランダまでか?コレは随分と荒れているようだな。全く、出張から帰って来たばかりだと言うのに早速揉め事・・・うん?どこかで見た事がある様な」
「お久しぶりです、ギルドマスター。以前この町で【黄金】の皆さんと共に活動させて頂きましたスロノです」
「・・・お!あの時の、ギルドからの依頼でレベルDになりたての冒険者に同行したスロノか。思い出した!あの時は悪かったな。で、ジャレードやオウビまでこうなっている所を考慮すると、相当余計な事を言われたか?」
流石に状況を把握する能力は長けているので、ギルドマスターはあっという間に現状を理解したようだ。
「そうですよ。折角私達が良い気分で食事をしていたのに色々と余計な事を言ってきたので、流石の私も頭に来ていた所です!燃やし尽くそうかと思いましたよ!!」
更にここぞとばかりに交渉担当のミランダが告げたので、ここまで拗れてしまえば絶対に【黄金】に加入する事ばかりか何かしらの手ほどきを受ける事、更には共に飲み食いする事すら絶対にできないと分かった若手は、最後に一泡吹かせてやろうと暴走する。
「事実を伝えただけですよ。薄汚い獣人まで引き連れて、力も無いのに【黄金】に取り入った挙句に偉そうな態度。人として気に入らなくなるのは当たり前でしょう?」
「そうそう。俺達は【黄金】の皆さんに憧れていましたけれど、正直幻滅しましたよ」
「そうかい、そうかい。そりゃー良かったぜ。俺達もお前等みてーなクソ雑魚にブンブン飛び回られるのがうっとうしかったからな。せいぜい俺達の視線に入らないようにしろよ?依頼実行中も時折俺達の後をコソコソ追跡していた事を気が付かれていねーとでも思ったか?一応同じギルドの冒険者として色々配慮してやったが、今日限り一切何もしねーぞ。何が言いてーのかは自分で考えろ」
実は目の前の彼ら以外にも少しでも【黄金】に肖ろうと強さの秘密、動きの勉強、時には獲物のおこぼれを狙っている冒険者が追跡していたのだが、しっかりとその行動は補足されており、【黄金】としては迫りくる魔獣から時折彼等を守るように行動していた。