(47)寝起きから朝食
「うぉーい。お前等、起きろ!」
ドロデスが未だに屍の様になっているジャレード、オウビ、そしてスロノに声をかけて起こすのだが、全員が少々苦痛の表情を浮かべている。
「お前等、相当飲んだくれていたからな。ホラよ、水だ」
自分も・・・とは言わずに取り繕っているのだが、実際にはドロデスも二日酔いで激しい頭痛がしているのは内緒だ。
「おはよう!まさかとは思ったけど、一晩中飲んでいたのね。まぁ、久しぶりにスロノ君と会えたから気持ちはわかるけど、程々にした方が良いわよ?」
ドロデス達の事を良く知っているのか対外的な交渉と行動の決定を行うためには知らなくてはならなかったのかは分からないが、丁度全員が水を飲んで一息ついたころを見計らったようにミランダがハルナを伴ってギルドにやって来た。
「お、厳しい厳しいご意見番の登場だぜ」
これもいつものやり取りなのだろうか、ドロデスもミランダからの忠告に敢えて怯えるような態度を取って返して見せた。
「ミランダさんも立派な【黄金】の一員なのですね。本当に嬉しいですよ」
互いに信頼している様子が見て取れるので、自分も嬉しい気持ちになるスロノ。
「フフ。ありがとうね、スロノ君。っと、ホラホラ、むさ苦しいおっさん達はさっさと顔でも洗ってきて!はいっ、行った行った!」
完全に尻に敷かれている旦那の図ではあるのだが、ミランダの声を聞いて屈強な男三人はノソノソ立ち上がって外の水場に移動しており、空いた席にミランダとハルナが座る。
「あっ、じゃあ俺も顔を洗ってきますね?」
自分はむさ苦しいおっさんと言う括りではないと思っているスロノは、とりあえずサッパリしたいのでドロデス達の後を追う。
「ふふ、そうね。行ってらっしゃい、スロノ君。寝ぐせも凄いわよ?」
ドロデス達と同様にすっかり警戒心も無くなって完全に無防備状態になった上で飲み明かしてしまったので、真面に布団で寝ていない事もあって寝ぐせが凄い事になっていた。
恥ずかしさか何とも言えない安堵感かは分からないが、慌ててギルドから出て行くスロノを見て微笑んでいるミランダ。
「フフ、相変らず優しい所は変わっていないわね」
実はミランダとハルナも互いの事情を宿で話した上でスロノについて、【黄金】について夜通し語り合っており、少々眠気が襲い掛かっている。
「とりあえず、シャキッとできるような朝食にしましょうか?」
テキパキと注文を済ませているミランダは、以前スロノと行動を共にしていた時に好んで食べていた食事もしっかりと注文して男性陣四人を待ち構えており、冷水で顔を洗ってサッパリしたのか表情が少し引き締まった四人が戻ってくる頃には食事が机の上に並んでいた。
「おぉ、流石はご意見番のミランダだぜ。見事なお手並み、恐れ入る!」
「凄いですよミランダさん。俺の好物、覚えていてくださったんですね?」
「当然じゃない?さっ、温かい内に食べましょう?」
周囲の者達の視線を受けているのは相変わらずなので、この場で依頼についての話は一切せずに本当に世間話、そしてミランダはスロノから直接経験していた楽しい話だけを聞いて笑顔で食事をする事が出来ている。
スロノとしても敢えて最後に裏切られたリノを始めとした暗い経験については話す必要はないと思っているし、この場にはハルナもいる事から余計に楽しい話をするべきだと意識しながら話している。
「改めておはようございます、【黄金】の皆さん!」
朝一番でドロデスに声をかけてきた受付が、ある程度食事も済んでゆっくりしている状態を確認して再び何かの書面をもって【黄金】の元にやって来た。
「あ、本当にごめんなさいね。予想はしていたけれど、メンバーがギルドで寝落ちしていたみたいでご迷惑をおかけしました」
改めて、と言う言葉を聞いて即座に反応して見せたミランダに対して、普段から信頼関係がある受付は笑顔で対応する。
「いいえ。毎日では困ってしまいますが、普段お世話になっている【黄金】の皆さまですから大目に見る事が出来ますよ。それに、意外とドロデスさんだけではなくジャレードさんやオウビさんも可愛い寝顔なのが分かって楽しかったです!新たな発見ですね」
まさか寝顔をしっかりと観察され、更には可愛いと言われてしまった三人の男性陣は赤くなった顔を隠すように下を向いてしまう。
「ぷ、あははははは、良かったじゃないですか!」
「ちょっと!ふふふふ、スロノ君?そこまで笑っちゃ可哀そうよ?自称繊細なんだから!」
その後は暫く可愛いと言う話で盛り上がってしまい、本当に心の底からいたたまれない気持ちになっている強面三人は屈強な体をこれ以上ない程に小さくしてチマチマとデザートを食べていた。
その姿も余計に可愛さを増してしまい自爆している事には気が付かないのだが、周囲の何も知らない冒険者達は突然現れた第三者と思っているスロノと呼ばれている男性が憧れの【黄金】と飲み明かし、その上で笑い飛ばしているのだから面白くない。
更には普段は自分達には結構そっけない紅一点のミランダからも温かく迎えられているので、同行していたのが獣人と言う事もあって少々暴走してしまう。
その結果どうなるのかはどう見ても明らかなのだが、それすら考えられない程に嫉妬していたのだろう。