(45)三度【黄金】の拠点の町へ
数年ぶりに数少ない信頼できる人達に会える事が楽しみになっているスロノなので、同行しているハルナに対しても過去の思い出話・・・当然楽しい話ばかりなのだが、独り言宜しく一人で話し続けていた。
聞かされているハルナは内容が楽しく温かみに溢れている事から退屈する様子も無く微笑みながらスロノの話を聞いている中で、やはり目の前のスロノは【黄金】の知り合いであったのだと理解する。
どう考えても仲間として共に行動したかのような話が数多く出てきているからであり、更にはそのパーティーに一人の女性を加入させた話まで出てきたのだから間違いないと確信するに至る。
スロノは相当多くの町を移動して能力をある程度隠しながら活動し続けているのに慣れてしまい、十分以上の経験もしているので【黄金】に会う為に町に戻っても良いとは思いつつも惰性で旅を続けていた。
そこに【黄金】に会うきっかけを与えてくれた幼い獣人のハルナに感謝しつつ、久しぶりに楽しく会話・・・と言うよりも一方的にスロノが話し続けているのだが、共に楽しく行動できるこの旅を心底楽しむ事が出来ている。
「今日はそろそろ終わりだな。次の町まではまだ距離があるから、申し訳ないが今日も野営になるぞ?」
「はい。大丈夫です!」
スロノの実力があれば全てとは言わないまでも野営をせずに町を渡り歩いて目的地に到達できる様に調整する事は可能なのだが、町にハルナと入った際の周囲の刺す様な視線、更には宿にも容赦なく宿泊を断られた経緯があるので、敢えて野営になるように調整している。
食料や消耗品はスロノの収納に潤沢に入っているが時折日中町に立ち寄って補給し、その際には一時的なのでハルナも完全にフードを被った状態で共に行動して安全に過ごす事が出来ている。
宿に入る際にもこの手で行けるのかと思いきや、安全の観点からか素顔を晒さない状態での入室が認められなかった経緯がある。
全ての町が同じかどうかは不明だが、気分の良いものではないこの状況を心の弱っているハルナに何度も経験させる事は避けたいと思ったスロノの独断で野営が続いている。
隠してはいるが流石は王族であるハルナなので、スロノの配慮には気が付きつつも何も分からない体で共に旅を続けている。
本心から全く不満がないのは、やはりスロノの過剰な対応によるものだろう。
食事は有り得ない程に温かく贅沢で、当然美味しい。
その上、何故か風呂まで入れる上に温かい布団まで出てくるのだから文句のつけようがない。
「そう言えばハルナ。俺は色々な町で活動をしていたが、確かに獣人族を直接目にした事は無かった。勝手な想像になるが、獣人国では逆に人族がいないのか?」
「そうですね。基本的には余程のもの好きでなければ入国する事は無いでしょう。逆も然りですので、スロノ様が獣人族を目にしなかったのだと思います」
焚火を囲いながら美味しい食事を食べつつ世間話をしているのも日課であり、その後はいくら言おうが絶対にスロノは見張りの任をハルナにさせようとはしないので、大人しく床につく一連の流れが定着している。
いくらスロノが超人的な能力を数多く持っているとは言え毎日徹夜では身が持たないのは当然で、実際にはスロノもしっかりと睡眠をとっている。
夜には<索敵>Bの能力を行使して眠りについており、レベルがAやSでない所に少々不安を覚えると言う相当贅沢な悩みを持ちつつ安全を確保している。
今日も今日とて日が昇ると朝食を食べて他愛の無い話をしながら街道を進むのだが、時折すれ違う馬車から人の視線がありそうな時には余計な軋轢を防ぐためにハルナはフードを被るようにしていた。
日数を数えているわけではないのだが、体感で二月程旅を続けたのだろうか・・・漸く二人の目の前には【黄金】パーティーが拠点としている町の門が見えている。
「こうして外から戻って来るのは二回目・・・か?」
無意識で漏れる独り言だが、横にはスロノにすっかりなついたハルナがいるので直ぐに返事が返ってくる。
「凄く立派な門ですね。それに・・・他の町の門で見た以上に冒険者の数が多い気がしますね」
「そうだな。多分・・・【黄金】に入りたいとか、修行をつけてもらいたいとか、そう言った連中が屯しているんじゃないのか?」
スロノ言葉はまさしく的を射ており、今尚広くその名声が広がっているパーティーの内の一つである【黄金】の力に肖りたい者達によって、入場門前には他の町と比較して数多くの人々による長い列が作られていた。
「どれほどの力になっているのか・・・楽しみだなぁ」
再び炸裂する独り言に対して、同じように自然にハルナも返す。
「私も、【黄金】の皆さんにお会いできるのが楽しみです」
相当長期間旅をしていたので【黄金】に依頼する国の平定に関する依頼、つまり国の状態は大丈夫なのか心配になっていたスロノだが、なんらかの根拠があるのかハルナは大丈夫と明言したのでそれ以上の事は聞かなかった。
実際にはハルナの死亡をもって王族から王位継承権を奪わない限り王位は継げず、その証としてハルナが身に着けていた指輪が必要になる。
つまりその指輪が奪われない限りは表面上ではあるが国は平定を保つ事が出来るので、理由は告げずにこの指輪さえ奪われなければ大丈夫とスロノに告げ、何の迷いも無くスロノの収納に保管してもらっている。
この旅路で、そこまでスロノの事を信頼できると確信していたハルナだ。




