(44)ハルナ
私は獣人国の王女であるハルナです。
今私はどこの国にいるのか目的地がどちらなのか全くわからないまま、兄と姉に扮した信頼できる侍従の助けによって国を脱出して移動している最中にオークと言うブタの魔獣に襲われてしまい、大切な二人を失ってしまいました。
私は後先考えずに近くの町まで必死で走り、何とかギルドで助けを求めたのですが・・・聞いていた通りに人族は私達獣人には非常に冷たくて誰もが相手にしてくれなかったので絶望していた所、突然一人の黒目黒髪の方が声をかけてくださいました。
その後事情をお話しするとその方は私を抱えて勢いよく現場まで向かって下さったのですが、残念ながら二人は既に・・・。
悲しみに暮れておりましたが何時までもクヨクヨしては二人に会わせる顔がありませんし、王女として《・・・・・》国の為に行動して散ってしまった二人の気持ちに報いるためにも絶対に前を向かなくてはならないのです。
目の前の二人に感謝の気持ちを胸の内で伝えると共に決意を新たにすると、その方・・・スロノ様と仰いましたが、二人の埋葬まで力を貸してくださいました。
その後この場所は危険と言う事で再び町に戻っているのですが、その最中に私の目的を聞かれ、恩人とも言えるスロノ様に対しては話せる範囲で事情をお伝えする事が誠意だと思い人族の冒険者パーティーである【黄金】の皆様に助力を求めに行く最中だった事を明かしました。
この場で私が獣人国の王女である事は告げずとも良いでしょう。
口ぶりからスロノ様は【黄金】の方々をご存じのように聞こえなくもなかったのですが、獣人国にもその名声が届く方々なので同じように噂を耳にされているのでしょう。
冒険者パーティーと言えば当然獣人国にも獣人のパーティーが存在しますが、今回に限らずとも彼等に助力を求める事はできません。
何故か彼等は非常に好戦的なので、恐らく安定を望む私の考えには賛同できないのでしょう。
以前から私を王族と認めないと平然と公言するような方々でしたので、仮に魔獣達から襲われて彼等の生活が厳しい状況になったとしても絶対に私の言葉に耳を貸す事は無いでしょう。
では核心の話をしたいと思いますが・・・今回【黄金】の皆様に助力をお願いするのは結果的に獣人国の安定に繋がるのですが、恥ずかしながら唯一の正当な王位継承権を持つ私の命を狙う臣下が多数いるのでその対処になります。
その気配を目ざとく掴み、そして情報を精査した結果王宮にいるのは危険であり、更に城下町に滞在したとしても冒険者達は私の事を良く思っていないので危険だと言う判断に至った二人の信頼できる侍従によって、私は国外に脱出して今に至る訳です。
【黄金】の皆様からすれば、全く縁もゆかりもない国の醜い部分の後始末をして頂くような依頼になるので断られたとしても仕方がないと思っておりますが、その結果待っているのは・・・あの臣下の者達と冒険者達の態度から、他国への侵略を即座に行うのは容易に想像が出来ます。
つまりここがどこだかは分かりませんが、人族の国に対しても容赦のない侵攻を行う可能性が高いので、人族の町であるこの場所もやがてはその波にのまれる事でしょう。
本来であればお父様がもっとしっかりと臣下の者達を制御できれば良いのですが、私に似たのか私がお父様に似たのかわかりませんが非常に温厚なので、結果的に臣下が増長するのを許してしまってこの状況に陥ってしまったのです。
侍従の命を失ってしまうと言う痛手を負っている為に部分的には手遅れの感は否めませんが、私としては散ってしまった二人の為にもこの経験を無駄にせず行動する義務があります。
スロノ様は私が全てを話していない事に恐らく気が付かれているでしょうが、強制的に聞き出そうともせずに紳士的な対応をして下さっています。
その上、私の目的である【黄金】の皆様にお会いする旅に同行してくださるとまで仰ってくださったのです。
正直この場所がどこだかもわかりませんし人族の町を避けて今迄のように行動するのは絶対に私一人では不可能な上、人族の町に一人で入ろうものならその未来は容易に想像できます。
恐らく、いいえ、間違いなく見せ物やら慰み者になるのでしょう。
私自身に戦闘力がるのかと言われると、獣人故か普通の人族と比べると身体能力が高く<闘術>Dがありますが、それだけです。
正直スロノ様の申し出は涙が出るほど嬉しく、申し訳ない気持ちはありながらも国のため、亡き二人の想いに応えるためにも有難く受け入れさせて頂く事にしました。
「良し。それじゃあ・・・あまり気分は良くないかもしれないが、俺の流儀として世話になったギルドには何かしらの挨拶をしてから去るようにしているんだ。今回は手紙やら事前に事情を話す事はしていないので、悪いがギルドで挨拶をしてから向かおうと思っている。とりあえずギルドに来てくれるか?」
門の外でスロノ様を一人で待っていても危険なので、ここはスロノ様の申し出通りに共に行動させて頂いた方が良いでしょう。
その後は想定通りと申しますか、誰しもが私に対して非常に厳しい視線を向けられている中で、スロノ様は庇うようにさりげなく立ち位置を変更してくださった状態で受付に向かわれました。
「俺は今からこの町を出るので、挨拶に来た」
「ご丁寧に有難うございます。それで・・・リノさんは如何致しますか?」
そう言えばスロノ様はリノさんと言う方に裏切られて元からこの町を出るつもりだったと仰っていましたが・・・受付の方の視線を追うと、彼方で下を向かれている方がそうなのでしょうか?
「俺には関係のない赤の他人だからな。如何と俺に聞かれても困る」
驚く程そっけない返事ですが、スロノ様にここまで言わせてしまうなんて本当にリノさんと言う方は見る目がなかったのですね。