(42)ミランダの活躍
「今日はミランダを含めた新生【黄金】の初仕事だ。気合入れて行くぜ?」
ギルドでいつもの依頼を受けようとしていたのだが、周囲にいる冒険者達の視線に目ざとく気が付いていたドロデスによって敢えてミランダの実力を見せつけて余計な妬みの視線に晒されないようにするべきだと判断され、急遽受ける依頼を変えている。
寡黙な二人もその程度の意図は把握できるのでドロデスのこの言葉に大きく頷いており、通常では受ける事のない広範囲における魔獣の駆除依頼書を手に持っていた。
【黄金】の男性陣三人の力があれば近接戦闘能力だけでも大量の魔獣を相手にする事は不可能ではないが、広範囲になるとやはり相当疲れる上に万が一の可能性もゼロではない為にこれまで基本的にはそのような依頼を受けていなかった。
今回は毎日のように自己アピールをして【黄金】に加入したいだの加入できる立場だの、勘違いしている面々に対してミランダの実力を把握させて矛先が向かないようにする為、丁度良いとばかりに広範囲に一気に攻撃する必要がある依頼を選ぶ。
当然だが、仮にミランダに戦闘能力がなくともスロノの願いである事から無条件にパーティーに加入させる事は総意として決定していた。
「あれ?【黄金】の皆さんがこの種の依頼を受けるとは、珍しい事もあるのですね。って、あぁ、わかりました。なるほど・・・では見通しの良い崖の上から殲滅すると良いかもしれませんね。今迄の目撃情報から魔獣が移動していなければ、この辺りが良いかと思いますよ?」
流石に受付も即座にこの依頼を受けた意図を把握し、ミランがどのような能力を持っているのか聞かず共広範囲殲滅系統、レベルは不明だが<魔術>を持っている可能性が高く、その実力を周囲の冒険者達に見せつけるのだろうと確信して適した場所を説明している。
「おぉ、何時も悪いな。気を利かせてもらって助かってるぜ?」
「フフ、どういたしまして。これからは【黄金】の皆さんとお話しする際には強面ではなく綺麗な方とお話しできる楽しみもありますから、今後も誠心誠意対応させて頂きますよ?」
「手厳しいじゃねーか。だけどよ?強面とか言ってるが、全然そんな対応には見えねーぞ?繊細な俺達を捕まえて虐めているのが現実だろう?」
すっかり顔馴染みになって専属対応のような立ち位置になっている受付なので、相当な強さを持っている【黄金】に対してもフランクに話をする事が出来ている。
「こちらこそ今後ともよろしくお願いしますね?改めまして、昨日から【黄金】の一員になりましたミランダです」
「あ、ありがとうございます!やっぱりこうでなくっちゃ!ドロデスさんとは違うわね!!」
相当危険な依頼の受注処理を行っている場面とは思えないやり取りで、寡黙な二人はニコニコしつつスロノと共に状況を見ているのだが、周囲の冒険者達から見ればその笑顔すらも相当に恐ろしく感じている。
その程度の力しかない冒険者達でありながら【黄金】に入って身の丈に合わない実績を積んで自らの力を得ようとしている者、過分な報酬を得ようとしている者に溢れているのだから救えない。
スロノも今は何も付与していないので最弱の部類に入るのだが状況はしっかりと把握する事が出来ており、何故過去の自分がこれほど【黄金】に気に入られて家族の様な信頼関係を築くまでに至ったのか不思議になっている。
「そう言えばドロデスさん?なんであの時、俺と行動を共にしてくれたんですか?」
「んぁ?あぁ、コイツは伸びるって言う勘もある。荷台を見た際に周囲を警戒し必要に応じて保護する依頼を継続して受けているのは今も変わらねーが、その経験から他の連中とは違ってあれ程の目にあってもスロノの目には力が消えていなかった。んで、少し話せばかなり芯が通ってるじゃねーか?正直見た目上の強さだけで見ればまだまだだったが、俺達は行動を共にする際にそこはあまり重視しちゃいねーんだよな」
本来のパーティーであれば被らない能力を持つ人材を適切に加入させるのが基本だが、ドロデス達ほどになるとそもそも近接系統しかいないアンバランスながらも破格の力を持っているので、メンバーに力を要求する事は二の次になっている。
一般的な感覚ではないので誰にも理解される事はないが当人の口からそう説明されれば納得できる部分が多く、当時の自分が認められていた事が嬉しく口元が緩むスロノ。
「ありがとうございます。もちろんミランダさんは力もありますし人柄も文句なしですよ?」
「ははは、分かってるぜ?スロノの紹介だし、俺達も色々経験してそれなりの目を持っているから昨日だけでしっかりと把握できたからよ。それに今後は・・・悔しいが受付の言う通りに俺じゃあ怖がられて碌に話を聞いてもらえねーっつう苦労をしなくて良いと思うと嬉しくてよ!!改めて色々とよろしく頼むぜ、ミランダ!」
周囲の者達の妬みの視線を意に介さずに会話が行われ、やがて金魚のフンの様にあからさまな冒険者の傍観者を引き連れて受付から教えてもらった場所に到着する【黄金】一行とスロノ。
「うぇ~、こっからだと随分と距離があるが、相当いるじゃねーか。虫かよ!?スロノは見えるか?」
「はい。見えますね。でもこれと似たような状況でしっかりと成果を出した実績がありますから全く問題ありませんね。と言うよりも本気を出し過ぎると二次被害が出かねませんから、上手く調整をお願いしますね、ミランダさん?」
「大丈夫よ、スロノ君。それにドロデスさん、ジャレードさん、オウビさん。沢山配慮いただいて有難うございます。早速動いても良いですか?」
「あぁ、大丈夫だが・・・一応念のために言っておくが無理はすんなよ?最悪は俺達が突撃して始末すりゃー良い話だからよ?」
傍観者の冒険者達はドロデスの言葉を聞いて相当甘いと思っているのだが、その直後にミランダが両手を上にあげた瞬間に震えだす。
過去に町に侵入する魔獣の群れを殲滅した時の様に超高濃度の力が圧縮されていると嫌でもわかる炎が既に揺蕩っていたからで、ミランダがその魔法を眼下に行使して以降、冒険者達は誰一人としてミランダに対して妬み、恨みの視線を向ける事が無く唯々恐怖の視線を向ける事になっていた。