(41)【黄金】と再びの別れ
「で、この町を出てから色々経験しましたけど、本当に・・・たくさんの人がいたので、苦労しましたよ」
「スロノも良い経験が出来たみてーじゃねーか。前に俺が言っただろう?いろんな奴らがいるんだよ。冒険者に限った話じゃねーのが悲しい所だがな。そう言った所も経験してしっかりとした目を養わねーと、突然背中から刺してくるような奴を仲間にして活動する事になりかねね~からな」
ある程度の自己紹介を終えて酒と食事を楽しみつつ・・・と言っても酒を飲んでいるのは【黄金】の三人、特に寡黙な二人が勢い良く飲みながら話に相槌を打っている。
「んで、ミランダと言ったか?お前も相当苦労したんだな。だけどよ?その経験が今言った通りに信頼できるか否かを判断できる力を養う事になったんだぜ?正直二度三度と同じ目にはあいたくねーだろうが、そう割り切ると良いぜ」
「ありがとうございます」
ミランダは強面で相当ガタイが良い【黄金】の三人なので少々腰が引けていたのだが、寡黙な二人を含めても信頼できる雰囲気が伝わり、何よりスロノが本当に打ち解けている姿を見て安堵する事が出来ていた。
「あの、受付で聞きましたけど・・・相当苦労した依頼があったみたいですね。それって俺がこの町を出る時に受けたギルドマスターからの指名依頼ですか?」
「おぅ、そうだぜ。スロノには隠す必要はねーしその場にいたから教えるが、まぁ、向かった町は想像以上に荒れていたからなぁ。環境が荒れると人が荒れちまうのも自然の摂理といやぁ~そうだけどよ?環境を整えて、荒れた連中を諭して・・・正直疲れちまった訳よ。俺達って、見た目通りに繊細だろ?」
「ぷっ、あははははは、そうですよね。皆さん拳で語り合う様な人達ですからね・・・あはははは、繊細!」
真剣な表情で強面ムキムキ近接戦闘能力持ちがこのような事を言って来るので大爆笑してしまうスロノと、つられてミランダも笑いが堪えきれなくなる。
「ふ、ふふふ・・・ごめんなさい。スロノ君!ちょっと!!」
その様子を見て厳つい顔ながら優しい笑顔を向けている【黄金】の三人は、若い女性が一人で相当苦労していた話を聞いて少しでも肩の力を抜いてもらいたい事もあって敢えてこのような事を言っていた。
「にしても、スロノ。お前、ちょっと笑いすぎじゃねーの?俺達は繊細なんだからよ!」
ドロデスのこの言葉には少々本音が混ざっているのだが、更に涙を流して笑ってしまうスロノだ。
「ふ~。でも皆さんの力が有れば多少やんちゃをしている人達でも、強制的に言う事を聞かせる事も出来たのではないですか?」
漸く落ち着いて、更にはミランダも慣れてきた様子が見えたので依頼についての話を続けているスロノ。
「確かにな。だけどよ?俺達って結局見た目通りに近接系なわけよ。つまり少数を相手に力を示すのはめっぽう得意だがよ、広範囲に一気に力を示して脅しをかけるのは少々苦手なんだよな」
脅しと言っている時点で全く繊細とは程遠いなと思いつつも、さっきのやり取りの真意にはしっかりと気が付いているスロノは丁度良いとばかりに本題に移行する。
「では俺から提案と言うかお願いがあります。俺は今後も旅を続ける予定なので今はこの町に留まる事はしませんが、ミランダさんは信頼できる力のある複数の仲間と共に行動する必要があります。既に説明している通りに、ドロデスさんが希望している広範囲遠距離攻撃能力持ちですよ」
「・・・正直に言えばパーティーのバランスと言う面ではこれ以上ない程に適任だが、直接的に聞いちゃいけねーのは知っている上で敢えて聞くぜ?おそらく<魔術>を持っているんだろう?レベルの方はどうなんだ?俺達の庇護が常に必要なのかそれとも同等に活動できる力はあるが、その力を欲している連中からの余計な勧誘を防ぐ意味でパーティーに加わるのか、判断してーからな」
結局レベルが低くともパーティーに入れて保護すると言っているドロデスであり、自分達と同じような戦力を持っている場合には共闘する事は有れ、言葉通りに戦力を欲している強引とも言える勧誘からは守るつもりで確認している。
「ありがとうございます。信頼の証として申し上げますが、私の能力はご指摘の通りに<魔術>でレベルはAを持っています」
「!?おいおい、すげー逸材じゃねーかよ!そりゃー無駄な面倒ごとに巻き込まれちまうわけだ。わかった。今からミランダは俺達【黄金】の一員だ。これからよろしく頼むぜ?スロノ。お前はスゲー人材を紹介してくれたな。正直俺達の名前が知られていねー町に向かう際、何もしてねーのに怯えられるんだよ!中々話しが出来なくてよー。そんな時にミランダがいてくれると思うと・・・嬉しくて涙が出て来るぜ!」
強面マッチョが三人揃って、一人は帯剣した上で立派な斧を背負っていればそうもなるよな・・・と思いつつも、これでミランダの安全は絶対に確保できた喜びと再び一人で旅をする事への少しの寂しさが同時に襲い掛かっているスロノ。
「スロノ君。スロノ君のおかげで今までも、そしてこれからも楽しく過ごす事が出来るの。本当に有難う。私は、私達はいつでもスロノ君を待っているわ」
感情の揺れをしっかりと把握したミランダが優しくスロノの手を取りこう伝えると、【黄金】の男性陣三人も笑顔で酒の入ったコップをスロノに向かって掲げており、彼らなりの激励をしていた。
「ありがとうございます。俺の方こそ、本当に有難うございます!」
その後は酒におぼれて意識が無くなる可能性が高いと自ら判断したドロデスにより、即座にパーティーメンバー追加の処理がなされて【黄金】の一員となったミランダ。
周囲からは羨望の眼差しで見られており、この町の守護神でありギルドマスターから絶大な信頼を得ている【黄金】に加入したいと思っている冒険者は多数いる中で誰もその目的が果たせていない中、突然ポッと出のミランダが加入できたのだから当然の結果だ。
一部妬みの視線もあるのだが直接【黄金】に物申せるような人物がいる訳も無く、翌日に新生【黄金】の初依頼時に、ドロデスが敢えて周囲の冒険者の目にとまるようにミランダの実力を見せつけた事によって妬みは完全に消え去り、彼等の表情は怯えに変わっていた。