(4)スロノ脱退
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「おいスロノ!お前はゴブリン程度の討伐に四苦八苦する程度の実力しかない上に唯一使える能力の<収納>の発動も極めて遅い。無駄にリノの<回復>迄要求した挙句に、報酬も過分に要求する。もう俺達としては我慢の限界だ。さっさとこのパーティーから抜けろ!」
ギルドの内部、以前リノを無駄に追放したロイハルエスも見守っている中でスロノの追放宣言がトレンの口から吐き出される。
内容は全てが事実に反する事なのだが、同行している残り一人のパーティーメンバーであるリノもトレンの言葉に同調するのでこの場でスロノの無罪を証明する手立てはない。
いや、実はスロノの実力を見せてしまえばそれで済むのかもしれないが、スロノは過去にも異国で同じような状況に陥った経験があり、今の所多少の事では自分の能力を晒す事、無駄に使う事をしないと誓っていたので黙っている。
冷静に考えれば戦闘向けではない能力の<収納>E.でゴブリンを圧倒すること自体がおかしいのだが、目的を達成できた喜びに浸っているトレンと、そのトレンがロイハルエスの依頼によって差し向けられた手先だとは知らずにほれ込んでしまっているリノには理解できない。
一瞬だけでも仲間として楽しく生活する時間を与えてくれたリノに対して内心で感謝しつつも、今までも一人で行動していたのだからと強制的に自分を納得させてすべてを受け入れるスロノ。
「わかった。今この場で抜ける」
これだけ言うとギルドを後にするのだが、何も弁明すらしなかったことで受付からもトレンの言い分が正しいのではないかと言う思いを根付かせてしまった。
「はぁ~、ダメだったか。裏切られた人物を庇って仲間にしたのにあっさりと手のひらを返されるんだから、もうずっと一人で良いか?出会いに恵まれたのは最初だけだな」
独り言を呟きながらも、宿に向かっているスロノの目には涙が溜まっている。
口ではこう言いながらも過去には良い出会いを経験していた為に一人ボッチは寂しいものであり、短い間とは言え安らぎを与えてくれたリノには感謝していた。
自らの能力を隠しているスロノにとってみれば、絶対に裏切らない相手であれば少しだけ助力をしても良いと思っていながら冒険者として活動していたのだが、本当に一部の例外を除いてある程度経験もあり能力のレベルも高い冒険者には見下され、その経験を活かして弱っている人間を救って仲間にすると決意していたところ、おあつらえ向きにリノが目の前で追放されていたのでこれ幸いと仲間に引き込んで生活してみた。
結果は、ロイハルエスの企みもあって心を許し始めていたところで大きく裏切られる結果となってしまった。
「まっ、残念ながらそこまでだったと言う事か。幸せを願ってはいるけれど、間違いなく無理だろうな。でももう他人。俺がどうこうすべき事じゃないよな」
相変わらずの独り言だが、涙を拭いながら必死で前を向こうとしている。
「っと、あの宿だとあいつ等とかち合う可能性があるか?じゃあ、今日は違う宿を見つけてっと」
何とか気分を盛り上げようと独り言を呟きながらも街中を歩いているスロノ。
はたから見れば不審者なのだが、周囲も喧騒に包まれているのでそのような目で見られなかった事だけは幸運だ。
その後数日はギルドで再び薬草採取の依頼を受けていたスロノなのだが図ったようにリノとトレンがギルドで待ち構えており、仲良さそうな姿をスロノに見せつけていた。
「あいつ等。依頼を受けに来ている様子もないから、俺にあの姿を見せる為だけにギルドに来ているのか?今までの報酬も溜めてあるとは言えそもそも難易度が低い依頼だから、それ程貯蓄がある訳ではないだろうに」
もう呟きが癖のようになってしまっているのだが答えてくれる人がいる訳ではなく、いつもの通りに薬草採取の場所に向かう。
「あっ、こんにちは!」
初心者が受ける依頼であるためにこの場にいるのは初心者しかいないのは当然で、全く警戒心が育っていないのかスロノに笑顔で挨拶をしてくる一人の少年。
「こんにちは!」
スロノもささくれている心を落ち着かせたいと言う気持ちもあって、普通に挨拶をして世間話をしながら薬草を集めている。
「・・・そうなんですか。僕は知らなかったです。どんな能力が芽生えるのかは希望通りには行かないじゃないですか?それでも修練すれば希望の能力が得られる可能性があると思いますけど、最初に得た能力にほとんど全ての力を持って行かれるのですね」
「残念だけど、一般的に言われているのはそうだね。君は腰に短剣があるから<剣術>が欲しかったのかな?」
「そうです。でも今持っているのは・・・」
「まった!自分の能力をそう簡単に他人に言ってはダメだよ。弱点になってしまう可能性があるからね」
初心者にありがちなミスだが、自分の能力をさらけ出してしまうと言った愚行を行おうとした少年を優しく咎めるスロノは、話し方も気を付けて会話をしている。
「あ、そうですね。ありがとうございます。でも<剣術>を持っていない事はもう明らかですよね」
「そうだね。その後修練で<剣術>が取れたとしても、そっちのレベルを上げるのは相当苦労するみたいだよ。最初に得た能力の方が圧倒的に伸びるのが早いのは、本人の希望ではなく適正によって能力が付与されていると言われているからなんだ。つまり、適性がある方に経験が持って行かれやすいと言う事らしいよ」
「そうですか。でも諦めずに頑張ります!」
一般的な話しかする事ができないスロノなので、目の前の少年が希望の能力が開眼し、レベルが上がる事を祈りながら作業を続けていた。