(39)ミランダの決意と【飛燕】②
ミランダが大切にしていた手作りの墓標がある場所で、隠しておいたネックレスがどうなっているのか確認している【飛燕】の三人。
「おい!掘り返されていやがるぞ!なんでここに埋めてあるってわかったんだ?それも、他の場所は一切掘り返した形跡がねーぞ」
「今はそこが重要じゃねーだろ、ミンジュ」
「その通りだ!今からでもミランダを追う必要があるだろうが!」
最後のバミューの言葉とほぼ同時に三人共に門に向かって全力で走り、間もなく勤務を交代する夜勤をしていた門番からミランダが町を出た事を確認すると慌てて街道を走って行く。
本来は急ぎであれば馬だの魔獣だのを借りて高速で移動する事も出来るのだが、もう彼等にはそのような事をするだけのお金は一切無い為に自分の足で動くほかない。
ミランダとスロノの目的地の手がかりすらないままに、とりあえず分岐が来るまで街道をひた走っている最中に何とか二人を補足できないかと淡い期待をしたのだが、どうやら夜間に相当な距離を移動していたようであえなく分岐に辿り着いてしまう。
「どうするよ?」
「正直、依頼の件もある。俺達が本来依頼として向かうべきは右だが・・・」
「右に行くと湖はあるが町はない。追いかけるならばここは左だぞ?その先にも分岐はある。そこに至るまでに捕まえる事が出来るのか・・・」
若干冷静になって話をしているのだが、ミランダに追いついたとして果たしてネックレスすら取り返されている状態で自分達の為に力を使うかと言えば・・・どう考えてもネックレスを隠したのが【飛燕】一行だと明らかになっているので絶対にないだろうと思い至り、依頼遂行と言う唯一の選択肢を選ぶ。
「クソがっ!こうなったらやってやるぜ!俺達が本気を出せば今回の依頼程度難なくこなせる所を見せつけて、受付の生意気な奴に土下座させてやる!お前等も分かっているよな?ここが正念場だぞ!気合を入れろ!!」
「当然だ!俺達の真の実力を拝ませる時がやって来たぜ」
「お前等の言う通りだ。俺達はミランダがいようがいまいが、全く影響が無い事を分からせてやる!」
ミンジュの勢いに強引に乗る形で残りのラドルベとバミューも自らを鼓舞し、結局三人は分岐を右に進んで依頼を達成するための行動を始める。
最終的な結果は態々説明するまでも無いが、目的の討伐対象である魔獣に到達する事なく途中の雑魚に怯え、傷つけられてあえなく撤退した。
「あら?随分とお早いお帰りですね。間違いなく今日は早朝から依頼を受けると聞いておりましたが、内容から早くとも夕方に戻られると思っておりました。では、成果を提出していただけますか?」
ほうぼうの体で逃げ出しているので見た目からボロボロであり誰がどう考えても依頼など達成できている様子はないのだが、今までの鬱憤を晴らすかのように受付は敢えて依頼の達成証明を提出しろと【飛燕】に告げる。
「・・・無い。あの場所に到達するまでに余計な獣や魔獣の数が多すぎた。想定以上の消耗をしてしまったので身の安全を確保すべく勇気ある撤退、戦略的撤退をして戻ってきたところだ」
「そ、そうだぜ。ミンジュの言う通り、撤退が出来る事も上に行ける冒険者の必須能力だからな」
「二人に付け加えると、数日英気を養って再びその依頼を達成してやるつもりだ」
勝手な事を言い続けているのだが、何が言いたいのかと言うと今回の判定基準になっている依頼は失敗ではなく延期だと主張したいようだ。
「は~。はいはい。言いたい事は分かりましたよ。ですが、コレは期日の有る依頼です。確かに高レベルの能力を持つに至る冒険者の方々は引くべきところは引ける勇気をお持ちですが、自分の力を過信して能力以上の依頼を受けた挙句に逃げ帰るのは、決して勇気ある撤退とは言いません。それは無謀と言います。言葉の意味、わかりますよね?」
完全な正論で迎撃され、当然ギルドの中である以上は強制的に威圧する事も出来る訳も無くスゴスゴと撤退して行くほかない【飛燕】の三人は、力なく受付から踵を返した際に背後の受付から再び声がかかる。
「あっ、【飛燕】の皆さん?」
何か救いの手があるのかと、期待の表情で振り返る三人。
「ぷっ・・・あ、ごめんなさい。皆さんが全く同じ表情と仕草だったので。それで今後ですが、先に申し上げた通りに依頼については相応のレベルのみ受注できるので注意をお願いしますね。それと今回の依頼未達成によるペナルティーは他のパーティーに急ぎで討伐依頼を出す事になりますので、その補填分の虹貨1枚(100万円)をお支払い頂く事になります。見るからにお金がなさそうなので、最低金額にしておいてあげました!」
一瞬何かを期待してしまった三人は、受付の言葉を聞いて一気に絶望の表情に変わる。
罰金を支払いたくとも手持ちはゼロであり、今日の夕食すら食べられないのだ。
「今後他の町で活動されたとしても、条件と罰金は全ギルドに伝達されますから逃げる事はできませんよ?それと、どう考えても今は払えないでしょうから、生活に必要と思われる最低分を残して依頼の報奨から自動で回収しますね!」
何から何まで先回りする様に告げられて完全に逃げ道が無くなってしまった【飛燕】の三人は力なくギルドから出て行き、冒険者を目指す者、能力に目覚めていない者、未だレベルEの域を出ない者達が集う広場に出向いて野営をする。
この場所であれば冒険者育成の観点からギルドの補助によって雨風凌げる環境になっているからだが、もうこの時点で無駄に高かったプライドはズタズタであり、その後は借金もある事からその日その日を必死で生き抜く事になる。
受けられる依頼もかつてスロノが受けていたのを見て散々バカにしていたような依頼しか受注する事が出来ず、結果的に能力のレベルが上昇するわけも無く・・・全く希望が見えないまま、流れに身を任せて日々を過ごしていた。




