(37)スロノの力と
「スロノ君・・・私、アレがないと・・・お父さんとお母さんとの唯一の思い出なの。あのネックレスがないと・・・」
この世の終わりのような表情を見せているミランダを見て、ネックレスを見つけるのは当然で、更に今後の活動についても考えなくてはならないと思っているスロノ。
スロノ当人は能力を明らかにするつもりが無いので積極的に力を行使する事が出来ない以上、同じような力を持つ信頼できるパーティーに加入させて安全を確保するべきではないのかと言う思いが芽生えていた。
スロノにとって信頼できるパーティーとはドロデス率いる【黄金】しか知らないのだが、その実力を判断すると間違いなく今のミランダと同じレベルAの力を持つメンバーで、残りの二人も戦闘の様子から近距離攻撃系の能力を持っていると判断していた。
パーティーの相互補完と言う観点から行けば、想像だが【黄金】パーティー三人は全員が近接戦闘、一人は盾を使っていたので防御に優れていると判断されてもバランスが悪い組み合わせになるが、各自が上位のレベルを持っているのであれば力技で突き抜ける事が出来る。
そこに保護対象でもあり遠距離攻撃もできるミランダが加入すれば、互いにより安全になるのではないかと考えたスロノ。
加入が認められればスロノは今後も色々と旅をする予定なので、町を拠点として活動している【黄金】と共に行動する事は無くミランダとは必然的に別れる事になるのだが、旅は一期一会と割り切ろうと思っている。
「っと、先ずは探し物だな・・・」
色々考えると独り言が出てしまい、今尚墓標の周辺を涙ながらに探しているミランダの為に少し能力を使う事にした。
【飛燕】三人の様子から判断するとネックレスを処理した後に建屋の中で眠っていたようなので、この場で眠れるほどに時間的余裕があったと考えるとそう遠くに隠しているわけではないと判断していた。
三人の内の誰かが身に着けている可能性も考えてあの場で<鑑定>Aを自らに付与して所持品の検査を行ったのだが、三人共に所持していない事は確認済みだ。
「そうなると、これしかない・・・か」
どこにあるのか分からない以上は闇雲に探しても見つからないので、再び自らに<操作>Cを付与して近くにいる獣を一時的に支配下に置き、匂いによって探し出す事にした。
支配下に置く獣も無駄に能力について疑われない程の強さにする必要があるとは思っているが、そもそも明かしていない能力が一つある事はミランダに伝えており、そのおかげで今のミランダがある事は当然理解している中で今尚スロノの能力について聞くような事は無かったために過剰な警戒は不要であり、何よりも一刻も早くミランダの拠り所になっているネックレスを見つける事が大切だと行動する。
町中にいる以上は危険な獣などいる訳も無く、余計な事を考えていたと少し恥ずかしくなったスロノは最も近くにいた犬を支配下に置く。
「ミランダさん・・・あそこの女性の匂いが付いた品がこの周辺に隠されているはずだ。それも今日隠したのでまだ強い匂いが残っている。何としても探してくれ」
未だに墓標周辺を探しているミランダをよそにスロノはスロノで行動を始めて犬に命令すると、一旦ミランダの匂いを嗅いだ犬はフンフン鼻音を立てて周辺を嗅ぎまわる。
何をおいても中途半端と言う認識がないままに行動していた【飛燕】の三人なので、墓標からそう遠くない位置に埋めていたネックレスは難なく犬に発見され、犬は匂いに反応してスロノを見つめて座り込む。
勝手に掘り起こしてはネックレスを痛める可能性があるので、何かを見つけた時にはこうするようにスロノが指示をしていたのだ。
「ここか。良くやった!見つかればすぐに解放するから、悪いけど少しだけ待っていてくれ」
犬に命令し、言われてみれば少し掘り返したように見える地面を慎重に掘り起こしているスロノはやはりと言うか、浅はかと言うか、相当浅い位置に埋めてあったネックレスを難なく発見する。
スロノも直接ミランダから事情を聞いてネックレスを見せてもらっているので、多少土はついているが探し求めている品だと分かると即座に犬を解放してミランダに駆け寄る。
「ミランダさん!見つけましたよ!!あいつ等は適当に埋めていたみたいで、なんだか表面がおかしかった場所を掘り返してみたら直に見つかりました!」
スロノの事を気にする余裕がなかったミランダはスロノが何をしていたのか一切わからずに只管ネックレスを探していたので、能力の秘匿については余計な心配だったと思いつつも笑顔で見つけた品をミランダに手渡すスロノ。
「あ、ありがとう!ありがとう・・・スロノ君!」
安堵からか泣き出してしまったミランダに対して上手い行動をとれる能力を持っているわけでもなく実力も無いスロノは、只管オロオロしてこの時が過ぎるのを待っていた。
ある程度時間が経った頃、漸くミランダも落ち着いてくれたようだ。
「こんな事になるのであれば、もうこれはずっと身に着けておいた方が良いかもしれないわね」
軽く水で洗い異常がないかを確認した後にしっかりと首につけて安堵の表情を浮かべるミランダと、決意が鈍るのを嫌い一気に話を進めようとしたスロノ。
「あの・・・ミランダさん?きっと今後ミランダさんの実力を知って手中に収めようとする連中、利用しようとする連中は後を絶たないと思います。正直、俺一人では守り切る事も出来ませんし、かえって足手纏いになってしまうかもしれません」
「足手纏いだなんて、そんな事・・・」
当然反論するミランダだがコレは想像できていた事なので、優しい笑顔のまま片手を上げて制止した上で話しを続けるスロノ。
「ありがとうございます。でも、間違いなく一人ではミランダさんを守れるはずもありません。そこで、俺が唯一信頼できると断言できるパーティーに加入してみては如何でしょうか?この町からは離れる事になってしまいますが、とても良い方達ですよ?」