(36)ミランダとの交渉
「良し、コイツがあれば・・・とは言え、隠していやがった有り得ねー魔術の力で攻撃されちまっては正直厳しいからな。どこかに隠蔽する必要があるだろ」
「そうだな。だがミランダも何時までも情けねー。どうせここにあいつの両親は眠っちゃいねーんだろう?いつまでも訳の分からねー事をしやがって。過去を引きずるようでは大物にはなれねーんだよ!」
「そう言うなって。そのおかげでこうしてしっかりと弱みを握る事が出来たんだから、助かった部分もあるだろう?」
過去、共に行動した際にミランダから聞いた話では、この拠点で両親と生活していたのだがある日二人は森に入って帰らぬ人になっており、遺品も回収する事が出来なかったと言う事だった。
「まっ、あっちに埋めておけば見つからねーだろ。んじゃ、埋めるぜ?これで俺達は再び返り咲けるんだ!」
「そうだな。当然一度の依頼だけで解放なんかしねーんだろ?ある程度金が貯まったら解放しても良いとは思うけどよ。ここまで来たら半端な額じゃ納得できねーよな?」
自分達だけが感じる事が出来る明るい未来を想像している【飛燕】の三人は、数多くの冒険者が群がっているミランダとスロノがいるいつもの場所に向かっても碌に話も出来ないだろうと思いこの場所で二人の帰還を待つ事にしており、過去能力が暴走してしまったミランダの為に高価な鑑定まで行おうとした姿勢などは完全に消え去っている。
当初の目的は冒険者ギルドの試験のような依頼を一度受ける際に同行させるはずだったのだが、その後の事まで考えた結果自分達がある程度贅沢に暮らせるだけの資金を貯めるまで留まらせると言う結論に至って気が緩んだのかいつの間にかボロ屋の中で寝てしまい、ミランダの焦ったような声で目が覚める三人。
「アレ?ここに置いていたはずなのに・・・無いわ!」
モソモソと起き上がった三人は今までの依頼の失敗による疲労とボロ屋で寝てしまった事による体の痛みを耐えつつ起き上がり、軽く体を解す余裕を見せつつ外に出る。
「よぉ、ミランダ。お前の探し物はあのネックレスか?」
「!?・・・まさか・・・返してよ、ミンジュ!!私にとってどれほど大切なものか知っているはずでしょう?」
この状況であれば誰でもわかるが、明らかに目の前の【飛燕】パーティーがミランダの大切な品であるネックレスに何かしたのは明らかであり、涙ぐみつつもミンジュを睨みつけているミランダ。
「おいおい、まるで俺が奪ったかのような言い方はやめて貰いてーな。証拠も無いのに冤罪を吹っ掛けると最悪は資格剥奪だぜ?」
余裕の表情を崩さないミンジュは、物的証拠がない以上は冤罪だと主張したまま理論的には崩壊している事を平然と告げる。
「コレは独り言だけどよ?これから暫くの間俺達の依頼に同行してしっかりとした成果を出せば、探し物が見つかる可能性は高いんじゃねーか?」
どう考えても脅迫であり冤罪などと言っている事がバカバカしくなるほどに真っ黒なのだが、後がないミンジュ達にしてみれば正当な交渉の範疇に含まれるので同じく後がない【飛燕】の残り二人も迷う事無く追随する。
「俺達は知らねー仲じゃねーだろ?ミンジュの提案は正直魅力的だと思うがな」
「俺も同意する。そもそも他の選択肢がある訳がない。ミランダも俺達の依頼に同行すればそこそこ威力のある能力を試せる機会が増えるだろう?今の様に最底辺の依頼をチマチマ行う必要もない。互いに益があるのは誰の目から見ても明らかでは?」
あわよくば余計な存在で今後邪魔になる可能性がゼロではないスロノを排除できればと言う思いから、明言はしないが同行するのはミランダ一人と暗に告げている【飛燕】一行。
「スロノ君・・・」
心の支えが奪われたと理解しているミランダは自分で考える余裕が無いようで縋るようにスロノを見つめ、見られたスロノは想像以上の対応に少々荒い部分が出てしまう。
かつて【黄金】と共に行動をしていた時に指導されていたのだが、冒険者があまり下出に出ると色々と舐められて問題が起こる可能性が高いと教えられており強気なスロノが顔を出す。
「はぁ、呆れるな。実力も無い連中が見捨てた相手の真の実力を目の当たりにして平然と縋りつく。それも大の男三人が恥ずかしげも無く堂々と脅迫か。恥も外見も無い程度の存在だからこそここまでの事が出来るのだろうな。勉強になった。参考にはならないけどな」
見た目遥か年下のスロノにありのままの事実を指摘されてしまい一瞬手が出そうになる【飛燕】の三人なのだが、どう考えてもスロノの傍にいるミランダは自分達よりも格上の実績を残しており、有り得ない程の威力の魔法をその目で見ている事から返り討ちにあうと思い睨むだけ。
「一応相応の実力は理解しているらしいな。で、ミランダさんのネックレスはどうした?少しでも破損していたらどうなるかわかっているだろうな?」
傍にいるミランダは恐怖の対象になり得るが、何も力を提示していないスロノは雑魚扱いであるので少しならば反論しても問題ないだろう・・・と、比較的冷静に状況を見極めている【飛燕】。
「聞いていなかったのか?お前はスロノと言ったな。ミランダの力を自分のモノと勘違いして偉そうにしているようだが、俺達は何もしちゃいねーんだよ。証拠も無しに疑うのは弱者のする事だぞ?」
煽りながらもミランダが攻撃に移らないだろうギリギリの範囲を彼女の表情から判断しつつ話せるので、その部分に特化すれば相当高い力を有しているミンジュ。
「ミランダさん。これ以上アイツらに何を言っても無駄ですね。俺達で探しましょう。大丈夫ですよ!」
「はははは、見つかると良いな。おいミランダ!俺達と共に依頼を受ければ間違いなく探し物は見つかるだろうな。そこを良く考えて明日ギルドに朝一番で来いよ?」
これだけをミンジュが言うと【飛燕】三人は交渉と言う名の脅迫が上手く行ったと確信してこの場から去って行き、ギルドで明朝一番から受けられる難易度の高い依頼を受注した。