(35)【飛燕】の焦燥
「畜生・・・遠距離一人いねーだけでなんでこれ程依頼をこなせねーんだよ!ふざけるな!」
嘆いているのは【飛燕】のリーダーであるミンジュ。
少し前に追放した<弓術>Bを持つハーネルと共に行動していた際には、本当に何も苦労せずに倒す事が出来ていた・・・と言うよりも、実はほぼ全てをハーネルが始末してしまっていたので全く戦闘に参加していなかったのだが、その魔獣に対して手も足も出ずに無様に撤退している最中だ。
「これで何度目の依頼失敗だ?ミンジュ」
「言うなよ、ラドルベ。お前ももう数えるのもやめているだろう?だが、本当にそろそろ何とかしねーと宿もやばいぜ?ミンジュ」
全員がレベルDの攻撃系統の能力を持っているのだが所詮はレベルDであり、ミランダが脱退した後に即座にハーネルを加入させてハーネルの力だけで楽々依頼をこなせるようになっていた為に各自の能力のレベルも最低のレベルEから毛が生えた程のレベルDの下位の域から脱していない。
パーティーとしての達成度合いだけはハーネルのおかげで異常に高かったおかげで【飛燕】としての名声、信頼度が上昇していたのだが、要が抜ければ化けの皮は直にはがれ、最大戦力であるハーネルが抜けても今までの実績から多少は苦労しても依頼は達成できるだろうと判断した受付によって依頼受注の処理がなされていたのだが、結果はその全てが失敗に終わっている。
何度も繰り返せば受付側としても冒険者の実力に合った依頼を出す義務がある以上は【飛燕】の評価を下げて行くのは当然で、以前は本来の依頼遂行中に遭遇した雑魚を倒す依頼ですら達成できない程に落ちぶれているので、日に日に評価は下がっている。
他力本願で得た過去の栄光だけが三人の拠り所になっているので、本当に少しだけ自分の実力不足を認めつつもやはり相互補完が足りていない・・・つまりは遠距離攻撃がいないせいでパーティーが上手く機能していないと言う判断に至る。
今の【飛燕】はパーティーリーダーであり<剣術>Dを持つミンジュ、<闘術>Dを持つラドルベ、<槍術>Dを持つバミューで構成されており、はっきり言って全員が近距離、かろうじて<槍術>Dのバミューだけが本当に少しだけ距離を取っても戦闘できると言う非常にバランスの悪いパーティーになっている。
今回も散々レベルを下げられた依頼であったのだが、全く歯が立たずにギルドに戻った三人は落ち込んだ表情で報告をすると別室に呼ばれる。
「【飛燕】の皆さん。正直今回の依頼はレベルD中堅の依頼でした。それでも未達成と言う事は、皆さんの能力レベルはEかE寄りのDだと判断せざるを得ません。異論があればギルド所属の鑑定士に能力を鑑定して頂いて判断させて頂きますが?」
あまりにも情けない結果続きであり最早初心者から抜け出たレベルの依頼しか出せないと判断した受付は、流石に何も対処せずにそこまでの処理をしては問題があると考えて【飛燕】に対して弁明の機会を与えている。
冒険者達は能力やそのレベルを明かすような事はしないのが一般的なのだが、ここまで失敗が続いている以上はギルド側もしっかりと能力を把握した上で依頼を出す事になると伝えており、この場で鑑定を拒否すれば容赦なく初心者が受けるような依頼しか回ってこない事になる。
ここまで来て慌てて自分達の能力を確認した結果、散々高レベルの依頼を達成していたのだが相変わらずレベルDであった事に気が付いた三人は、今更無意味ではあるが実力不足が公になるのだけは受け入れる事が出来ずに鑑定を拒否した上で必死にメンバー不足が実力を発揮できない一因だと喚いている。
言っている事は事実なのだが当人達の実力不足が最も大きな原因であり、受付も“はいそうですか”と受け入れる訳にはいかない。
「では最後の譲歩です。次の依頼が達成できなければ今後はレベルD下位相当になる依頼を回す事になりますので、よろしくお願いします」
その後の【飛燕】は何とか遠距離攻撃の能力を持つ者をメンバーに加えようと必死で行動しているのだが、ハーネル脱退直後であればまだ実績が否定されていなかった為に比較的楽に新メンバーが加入したのだろうが、散々依頼を失敗しているのは有名になっているので誰も加入しようとはしなかった。
「こうなったらもう一度ミランダだ。最悪は次の依頼を受ける一回で良いからな。何としても同行させるぞ?」
想像通りの行動をとり始めるのだが、この頃になると周囲の者達がミランダとおまけのスロノを自分達のパーティーに加入させようとする動きは顕著になっており、日々スライムの対処をしている二人に対して数多くの冒険者パーティーが接触を図っていた。
自分達の依頼達成に必死だった事からこの状況を把握していなかった【飛燕】は、いざミランダに接触しようとした所相当な冒険者達が群がっている事に気が付いて焦る。
「おい、お前等!俺のメンバーに何をしやがる!散れ!!」
ミンジュが殺気立つのだが、言われた冒険者達は全くの言いがかりを雑魚から言われても特に反応する事は無いので更に【飛燕】達は勝手にヒートアップし・・・最終的には最も近くにいた冒険者に小突かれてスゴスゴ撤退していた。
「おい、ミンジュ!どうするんだよ!」
「・・・こうなったら最後の手段だ。ミランダが大切にしていたアレがあったな」
「おいおい、そこまでする・・・しかないのか。わかったぜ」
過去にパーティーを組んでいたので他の面々よりも遥かにミランダの情報を持っている三人は、かつてミランダが拠点にしていたボロ屋に到着するとその裏手に回る。
表からは見えないが手作りの墓標が綺麗に掃除されている状態で存在しており、そこには正直価値があるようには見えないし実際に価値のないネックレスが目立たない位置に、当然隠すようにしながらも綺麗に置いてあった。
このネックレスはミランダが亡き両親から貰って残っている唯一の品であり、ミランダは冒険者として活動する際には命の危険がある事からそのネックレスを墓標に預けて絶対に無事に帰ってくると言う誓いを立てており、その習慣を知っていた【飛燕】の三人はネックレスを返す代わりに一度依頼を受けるように強要しようと考えていた。
因みに今ミランダが受けている依頼自体は低レベルで危険なものではないのだが、ミランダの事情を教えてもらっていたスロノもこのボロ屋に同行して共に祈りを捧げてから依頼に向かうようになっていた。
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