(32)【飛燕】①
今日も依頼を受注しようと受付に依頼書を持って行ったのだが、受理されずに別室に連れて行かれた【飛燕】の四人。
受注処理がなされていない魔獣や獣も勝手に狩りつくして納品しているので、依頼受注の処理をあまり重要だと思っていないハーネルは気にも留めていないまま少しでも早く森に向かって獲物を始末して、一刻も早く<弓術>Aに到達したいと思っている。
多少ソワソワしていると扉が開いてギルドマスターが入室し、椅子に座りながら【飛燕】に対して、特にハーネルに視線を固定してこう告げる。
「お前等【飛燕】が何故呼ばれたか、当然理解できているな?」
「・・・言いたい事は分かるわ。でも、アレは他の冒険者達がノロノロしているのが悪いのよ?多少傷をつけているだけで中々倒せないから~、私が善意で始末してあげているの。感謝されるのが当然で叱責されるような内容じゃないわよ?」
パーティーメンバーからもそれとなく言われている事なので敢えてギルドマスターから言われず共、勝手に他人の獲物を横取りしている形になっている事は認識しているハーネルなのだが、自らの非を認める事はしない。
何としてもレベルAとなってミランダよりも優れている事を証明しなくてはならないと言う強迫観念によるものか、ミランダの後釜として加入した【飛燕】をここまで有名なパーティーに押し上げた自負か、彼女の中では絶対に譲れない一線だった。
「ハーネル、もうわかっただろう?この辺りで一旦抑えろ!」
流石にギルドの中、それもギルドマスターが目の前にいる場所で攻撃される事は無いだろうと言う思いもあって一応パーティーリーダーのミンジュが暴走気味のハーネルを抑えにかかるのだが、逆にその態度もハーネルの機嫌を損ねる。
「は?偉そうに何を言っているのかしら?少しは依頼達成の実績を出してから口を開いてもらえます~?いつまでも私におんぶにだっこのくせに・・・」
もはや収拾がつかないと思ったギルドマスターは、結論だけを告げる。
「パーティーの内紛はそっちで勝手に処理してくれ。だが、ギルドとして冒険者の最低限のマナーが守られていないと確認できている以上は【飛燕】にペナルティーを課す必要がある。ギルドから許可が出るまでは当面依頼の受注は不可。納品も受け付けない」
ミンジュ達男性陣にしてみれば死活問題ではあるのだが、ハーネルにしてみれば能力のレベルを上げるために獲物を始末すれば良いのでその結果魔獣や獣が納品できず共何ら問題は無く、更に今迄の報酬もかなり多く配分されている事から暫く無収入でも全く問題ないと思っている。
「別に構わないわよ~。って、何死にそうな顔をしているのかしら?別に依頼を暫く受けなくても生活できるでしょう?」
この時点で、ミンジュとしてはこのままハーネルをパーティーに加入させておくと自分達が過去のミランダの様に食うにも困る状態になる事が容易に想像できてしまうのだが、今この場でどうこうする事も出来ずにギルドを後にしていつの間にか各自解散している。
解散と言ってもハーネルだけは町の外に向かっており、どう考えても依頼も受けずに納品もしない状態で魔獣やら獣やらを狩るのは明らかなのだが、力関係もありこれ以上咎める事は出来ずに残された男性三人、ミンジュ、ラドルベ、バミューは酒場で昼間から酒を煽りつつ今後について話している。
「じゃあよ?おまけのスロノもついて来るが、ハーネルを追放してミランダを【飛燕】に入れるって事で良いか?」
「それしかねーだろうな」
「どう見てもハーネルはミランダの力に嫉妬しているからな。追放・・・ではなく脱退であれば受け入れてくれるだろうが、そうなると残念ながら今後高レベルの依頼を受ける事が出来ねー俺達の信頼度は大きく下がる。そこでハーネルに対しての抑止力と信頼度上昇の為にミランダを加入させるんだな?」
酒の力か今までの鬱憤か勝手にミランダとスロノの加入まで決めてしまっていた【飛燕】の三人だが、暫くは依頼を受けられない状態なのでギルドの事務処理も受け付けてもらえないだろうと言う判断から、新規メンバー加入とハーネル脱退について処理をする事も無かった。
一方のハーネルも毎日のように森に赴きいて一般的には相当強いとされているレベルBの、それも熟練の上位の力を遠慮なく行使しているのでいつも以上に他の冒険者からのクレームが多くなり、当然【飛燕】一行に対してギルドからの強制的な呼び出しがかかる。
「お前等、特にハーネル!あれほど伝えていたはずだが未だに行動に改善が見られねーとなると、資格剥奪も視野に入るぞ?」
レベルBの能力を持つ者は貴重なのだが、二つしかない冒険者の禁忌すら守れずに行き過ぎた行動であれば漏れなく処罰の対象になる。
男性陣三人は毎日のように酒を飲んで管を巻いていたのでハーネルの行動は簡単に想像できていたが把握はしておらず、ギルドマスターの言葉で想像が確信に変わる・・・と同時に、この場でパーティーから外しておかなければ連帯責任で自分達も資格剥奪の可能性があると恐怖を覚える。
「お、おい!ハーネル。もう俺達はお前を見限る。今ここで抜けてくれ!」
いつもの口調とは異なり少々弱気なのはいくらこの場所がギルドであるとは言え実力差が明らかだからなのだが、言われたハーネルはサバサバしたものでリーダーであるミンジュの申し出を難なく受ける。
「良いわよ~。私もいつまでも雑魚の面倒を見るのは疲れちゃったもの。で、これからは同じ獲物を狙う敵と言う事になるのよね~。フフフ、楽しみだわ。それと、ギルドマスターの言いたい事は分かったわ。暫く大人しくしているわよ。流石の私も資格剥奪は勘弁してほしいものね~」
ミンジュを始めとした三人はハーネルの言葉に背筋が凍るのだが、もう撤回する事は出来ずにオラオラしているのを尻目にさっさとハーネルは部屋から出て行ってしまう。
「ハーネルの脱退手続きだけは受け付けてやろう。もう数日様子を見て、お前等の素行に問題が無ければ依頼の受注を許可しよう」
助けを求めるような視線を向けられたギルドマスターは、これだけ言うとさっさと部屋から立ち去ってしまった。
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