(31)その後の一行
ミランダはスロノと共にこの場に残って魔獣の整理をしており、スロノは能力を見られても良い範囲、一体を収納して別の場所に移動し・・・を繰り返しているのだが、その中でも新たな能力を多数得る事が出来ているので自然と笑顔が漏れてしまう。
ミランダも散々悩まされていた高出力の能力を完全にコントロールできることがわかり、荷台に乗って少し休んでいる最中に自分の能力を確認した結果いつの間にか<補強>が無くなっていたので驚いたのだが、<魔術>のレベルがBからAに上昇していた為に元の<魔術>Bと統合されて高い能力が行使できるようになったのだろうと無理やり納得して深く考えるのをやめて純粋に喜んでいた。
どう考えてもスロノの不思議な能力の影響である事は事前にスロノ自身が仄めかしているので間違いないのだが、そこについて詳しく聞くつもりも無ければ<補強>について聞くつもりもない。
他の者達から見れば漁りと侮蔑の言葉で呼ばれてしまうこの作業を本当に嬉しそうにこなしているように見えるので、余程人が良いのかとんでもない変わり者なのか判断に苦しむ所だ。
ひたすらスロノとミランダが作業をしている最中に門の中が歓声に包まれており、間違いなく先行組、【飛燕】達が偉そうに戦果を報告しているのだろうと思っているのだが二人が作業の手を止める事は無い。
そもそも迎撃に向かったのはギルドマスターを除く10人だけで、有り得ない程大量の敵を殲滅した証拠は残念ながら溶岩地帯になっている崖の下の本当に一部しか残っていないのだが、この場に到達した獣や魔獣の数の多さから元を断ち切りに行った者達が倒した数は容易に把握する事が出来ていた。
加えてギルドマスターが報告をした事実が公開された為に、町が、つまり自分達の命や生活が助かった事に安堵の表情を浮かべて喜びを爆発させているので、【飛燕】の偉そうな言葉に対して町の人々が歓喜したのではなく正確な報告がギルドから公開されて喜びの声を爆発させていた。
その後暫くはミランダ、そして常に行動を共にしているスロノに対して町の人々や冒険者達がお礼を伝えてくれるのだが、別格の実績を叩き出しているのにやはり二人は今迄通りの非常に危険度の低い依頼をこなすに留めていた。
「えっと、スロノ君?私もスロノ君のおかげで能力を制御できるようになりました。なので、私の事を気にしているのであれば、そこは気にせずにもう少し実入りの良い依頼をしても良いと思いますが?」
相変わらず真面目な話をするときは言葉も真面目になってしまうミランダは、何時もの宿のベッドの上に正座して床に敷かれている布団の上で座っているスロノに話しかけている。
あの依頼達成時に相当な報酬を得た二人なのだがスロノはその報酬のほぼ全てをミランダの将来の為にと強制的に渡しており、宿ももう少し良い宿で二部屋に変えられる環境なのだが、節約と今まで慣れてきた環境を変えたくないと言う思いで全く同じ生活をしていた。
ミランダは確かに自分の術で目に見えた脅威を取り払ったのだが、元をただせば・・・決して口外出来ないしするつもりもないが、全てスロノの力であるとは理解しているので報酬の分配も激しく抵抗したのだが、結局スロノに押し切られていた。
スロノとしては他人には理解できないが何よりも得難い能力の収納と言う報酬を貰っていたので、全く金銭を貰わないとミランダが困ると言う思いだけで本当に少しだけ報酬を受け取り、他は全てミランダに押し付けていた。
「そうですね。でも、正直ミランダさんの能力に見合った依頼を受けてしまうと相当危険ですし、中途半端にレベルを下げると他の冒険者の実入りに大きく影響が出る可能性が高いので、可能であれば今迄通りが良いですが・・・」
ミランダの実力であれば以前スロノが行動を共にしていた【黄金】パーティーがこなしていた依頼を受ける事も可能なのだが、いくらスロノが多才な能力を持っているとは言えその全てを公開しているわけではないので動きに大きな制限が出る。
結果的に互いを補完すると言っても不足する部分が多数あるのでそれ程危険な依頼は受けられないと言う結論に達しており、逆にレベルを少し落とせば二人でも安全に依頼をこなせるのだが、そうなるとそのレベルの依頼を受けていた冒険者の食い扶持を大きく奪ってしまう事になる。
普通は問題ないのだが、ミランダほどの力・・・レベルAの力と言えばそれ程大きな影響があるのは一般常識であり、そこまで言われてやっと納得の表情のミランダ。
「そうだったわ!ごめんね、スロノ君。ちょっと能力がうまく使えるようになったからって暴走しちゃったわ!」
毎日同じ底辺の依頼を嬉しそうに受けている二人をよそに、一応魔獣や獣の群れに対しての対応で相応の成果を出しながらもミランダの陰に隠れてあまり賞賛される事の無かったハーネルは、今の自分の実力ではミランダが見せたほどの火力が無いのは理解しており、何とかレベルを上げようと躍起になって暴走気味になっている。
本来は他の冒険者が始末しようとしている獲物であっても視界に入るか気配を感じた瞬間に即座に<弓術>Bを使って仕留めてしまうので、日に日に【飛燕】としての評判も悪化する。
「おい、ハーネル。お前、そろそろいい加減にしておけよ?他の冒険者からの視線に気が付かないお前じゃねーだろうよ?何をそんなに焦っているんだ?」
「煩いわね~。レベルDの雑魚には分からない話なのよ。余計な事を言わないで頂戴、ミンジュ!」
言われたミンジュも言ったハーネルも互いに非常に険悪になるのだが、【飛燕】の男性陣三人共にレベルDの能力であるため、いくらハーネルにとって不利な近接した状態とは言えそもそもの動きが大きく異なるので間違いなくハーネル一人に手も足も出ずに負けるだろう。
そこを理解しているのか直接言われたミンジュと残りの二人ラドルベとバミューも渋い顔をするのだが、これ以上文句を言う事は無い。
今の【飛燕】の名声はハーネル一人の実力でたたき出したと言っても過言ではない事を悔しいながらもしっかりと理解しているので、言えないと言った方が正しいのかもしれない。
この対応しかできないのだが、それ故にハーネルの素行は日に日に悪化し・・・やがてギルドマスターに呼び出されるに至る。
「お前等【飛燕】が何故呼ばれたか、当然理解できているな?」