(30)ミランダ開眼④
明日は休みだー!
「何~、あの人。実力を隠していたのかしら~?」
ハーネルが思わず口にしてしまうのも当然なのだが、今まで見た事もない程の威力の魔術を完全に制御して見せたのだから、【飛燕】として共に行動していた三人の冒険者達も逃した魚が異常に大きかった事に悔しさを滲ませる。
ハーネルが言っていた通りに実力を隠していたのか、ギルドマスターが想像している通りに何らかの事情があって上手く能力が使えなかったのか・・・理解できているのはスロノだけ。
相当悔しい思いをしている【飛燕】のメンバーなのだが、今まで散々バカにし、飢えるほどに困っているのを目の当たりにしても救いの手を差し伸べて来なかった事から今更パーティーに加入するように伝えても間違いなく断られるだろうと確信しており、恥ずかしげも無くこの場で再加入を勧めるような事はしなかった。
「おいおい、本当に助かったぞ。何故今迄・・・は、聞くのは野暮だな。何かしら事情があるのだろう。結果を見ればミランダのおかげで町は助かった。本当に感謝している。今だから言えるが、当初の攻撃で多数の獣や魔獣に抜けられたのを見た時には玉砕覚悟で攻撃するほかないと覚悟していたぞ」
余りの嬉しさから【飛燕】の面々があまり良い表情をしていないのに気が付かずにギルドマスターはミランダに称賛の言葉を投げかけ、この場に共にきているスロノと残りの冒険者達も口々にミランダを称えている。
当初の攻撃を行ったのは<弓術>Bを持つハーネルで前評判通り、いや、想像以上の攻撃力を誇っていたのだが敵の数に対しては焼け石に水の状態で、結果的に効果がなかったと暗にギルドマスターに言われているのと同義である以上、これで【飛燕】のメンバーが良い表情をするわけがない。
「よっしゃ、お前等!凱旋だ!!」
暫く経ってもミランダが放った炎の魔術が消える事なく、漸く燻った状態になった先に見えたものは・・・最早魔獣や獣の群れなど一切見えずに遠くが見通せる平原しか見えなくなっていたので、ギルドマスターはそのまま町に戻ると宣言する。
「一応防壁で待ち構えている連中が駆除しているとは思うが、仮に未だに攻撃している奴等がいたら頼んだぞ。っと、ミランダの威力だと防壁にダメージがありそうだから、今回は遠慮してくれ」
「え?良いのですか?でも、きっと制御できると思います。なんだか不思議な気分です」
明らかにスロノの不思議な力によるものだとは理解しているのだが、スロノが能力について口にできない以上は勝手に情報を開示するわけにはいかずにチラッと見るだけで嬉しそうにしているミランダ。
今まで威力がありすぎる上に大暴走していた能力が完全に制御できる喜び、その能力が世のため人の為になれる喜びをかみしめており、今まで劣悪な環境にいたミランダだからこそ感じる事が出来る喜びをしっかりと受け止める事が出来ていた。
当然逆もあり、【飛燕】の面々、ハーネルを含めた面々は未だに憮然とした表情で荷台に乗り町を目指している。
行きとは違って余裕があるのか敢えて最高速度を出さずに移動しているので、荷台ではミランダが相変わらず【飛燕】以外に絶賛されている。
「ちっ、ふざけやがって。まぐれが起きただけで偉そうにしやがって」
「そうよね~。私だってしっかりと仕事をしたのだから、評価してほしいわよね」
完全に二つに分かれてしまった荷台の面々を積んだまま進み、やがて防壁が見える位置に到着する。
「お、どうやら向こうもしっかりと仕事をしたようだな。良し!これで本当に凱旋だけだ!」
この場所から見えるのは相当数の獣や魔獣だった物であり、この後は低レベルの者達が素材として活用する為に町のギルドに持ち込む仕事が待っている。
「あ、あの。今から運搬の仕事を始めても良いですか?」
スロノは有り得ない程大量の能力を手に入れる機会をミランダの過激な一撃によって消し去られているので、そこに対して文句は一切ないのだが、せめてこの場に残っている素材になり果てた物体からは能力を収納しておきたい気持ちになっており、運搬の仕事を今からしたいと申し出る。
「はっ、能力を偽っていたかまぐれのミランダと共に、長く最底辺の依頼しかしていない奴の仕事としてはふさわしいだろうよ!」
「ははは、ミンジュの言う通りだな。底辺らしく漁りをしておけば良いぜ?その間俺達はしっかりと凱旋させてもらうからよ?」
「俺もミンジュとラドルベに同意だぜ?お前の漁りに付き合う程暇じゃねーからな」
「ちょっと、三人共・・・言っている事は正しいと思うけど~。報酬の分配は間違えないでくださいね?」
ミランダと共に行動しているスロノをこき下ろしつつ好き勝手に盛り上がっている【飛燕】の四人は、勝手に荷台から降りてさも自分達が英雄であるかのような振る舞いで門の方に向かってしまった。
「あいつ等・・・」
その行動を止めようとしたギルドマスターなのだが最も称賛されるべき存在、そして【飛燕】の行動に対して文句を言う権利を持っている存在であるミランダがスロノと楽しそうに話をしており、まるで気にしていない様子なのでこれ以上文句を言う事は無くスロノの申し出も受け入れる。
「スロノ。俺はギルドに戻って簡単に報告した後に荷台を多数持って戻ってくる。それまでに上手く積めるように整理しておいてくれ」
スロノが<収納>を持っている事は把握しているのだが何時も納品しているのは個体としては非常に小さいスライムばかりと言う話も聞いているので、流石にこれだけ大量の素材になり得る物体を収納できるわけがないと勘違いしているギルドマスター。
スロノとしてもあまりレベルが高いと思われるのは後々問題があると思っているので、今まで納品していた程度・・・体感では<収納>Dの中位程度の容量だけを収納できる体で活動する事にしていた。